中国・広東省の自動車産業の現況

2017年10月16日

中国の自動車販売台数は右肩上がりで増えており、2016年は2,800万台を超え、8年連続で世界最大の市場となった。セグメント別にみると、SUV(スポーツ型多目的車)がここ数年増え、セダンは近年のSUVブームに押されシェアが低下傾向にある。

乗用車の国別販売シェアをみると、日本は2012年にドイツに抜かれ3位に順位を落とし、その後15%前後で推移していたが、2017年1~5月は17.3%に高まった。

広東省の珠江デルタ地域は、1990年後半から2000年中盤にかけて日系の大手自動車メーカー3社が広州市に進出した。近年では、欧州3社がそれぞれ佛山市、深圳市、広州市に拠点を構え、珠江デルタ地域における自動車産業の集積がさらに進んだ。

広東省の進出日系企業は、主に外需型と内需型に分かれる。輸出向け製品の製造等を主とする外需型産業は人件費上昇や規制強化などにより、高付加価値化や場合によっては珠江デルタ外への移転等の対応に迫られている。一方、自動車産業・サービス業等の内需型産業は消費市場の拡大等を受け、生産拡大・店舗拡大が目立つ。

中国の自動車業界では、コスト競争力の強化やリスク分散の観点から、低付加価値部品等を中心に調達先多角化の動きが広がりつつある。こうした動きを受け、日系部品メーカー各社は、これまでの日系顧客中心の販売体制に加えて、非日系顧客にも販路を広げる取り組みを始めている。

2017年6月23日、ジェトロ「中国経済情報研究会」会員限定セミナーで、ジェトロ農林水産・食品課(前広州事務所駐在員)の米川拓也氏が「中国・広東省の自動車産業の現況と日系企業のビジネスチャンス」をテーマに講演を行った。本稿では、講演録としてその一部を紹介する。

中国の自動車産業

中国の自動車産業 中国の自動車販売台数は右肩上がりで増えており、2016年は2,800万台を超え、8年連続で世界最大の市場となった(図1)。伸び率はここ数年1桁台に落ち着いているが、排気量1.6リットル以下の乗用車に対する自動車取得税の減税措置(2015年10月から実施)の効果等により、2016年の伸び率は13.7%と2桁増になった。直近の2017年1~5月は、減税幅が縮小したこともあり伸び率は落ち着いている。

セグメント別にみると、SUV(スポーツ型多目的車)がここ数年伸びており、2016年は同44.6%増の905万台となった。一方、人気だったセダンは、近年のSUVブームに押されシェアが低下傾向にあり、2016年は同3.4%増の1,215万台となった。この背景には、近年ニーズが多様化し、外観だけではなく実用性や趣味性も重視されるようになったことがある。特にSUVは若い世代からの人気が高い。直近の2017年1~5月のデータをみても、セダン等が前年同期比で減少する一方、SUVは2桁増となっており、この傾向は今後もしばらく続く見込みだ。

図1:中国の自動車販売台数と前年比伸び率の推移
セダン台数 2008年504.7万台、2009年747.3万台、2010年949.4 万台、2011年1,012.3 万台、2012年1,074.5万台、2013年1,201.0 万台、2014年1,237.7万台、2015年1,172.0万台、2016年1,215.0万台、2017年1‐5月451.6万台。SUV台数2008年44.8 万台、2009年65.9 万台、2010年132.6万台、2011年159.4万台、2012年200.0万台、2013年 298.9 万台、2014年407.8 万台、2015年622.0 万台、2016年904.7万台、2017年1-5月378.5万台。 MPV台数2008年19.7 万台、2009年24.9万台、2010年 44.5万台、2011年 49.8万台、2012年49.3万台、2013年 130.5万台、2014年 191.4 万台、2015年210.7万台、2016年249.7万台、 2017年1-5月84.7万台、クロスオーバー台数2008年106.4万台、2009年195.1 万台、2010年249.2万台、2011年225.8 万台、2012年225.7 万台、2013年162.5万台、2014年133.2万台、2015年109.9万台、2016年68.4万台、2017年1-5月27.3万台。商用車台数2008年262.5万台、2009年331.4万台、2010年430.4 万台、2011年403.3万台、2012年 381.1万台、2013年405.5 万台、2014年379.1万台、2015年 345.1万台、2016年365.1 万台、2017年1-5月176.1 万台。自動車全体の伸び率2008年6.7%、2009年 46.2%、2010年32.4 %、2011年2.5%、2012年 4.3 %、2013年13.9 %、2014年6.9%、2015年 4.7%、2016年 13.7%、2017年1-5月3.7%。

出所:中国自動車工業協会

乗用車の国別販売シェアをみると日本は、2012年にドイツに抜かれ3位に順位を落とし、その後15%前後で推移していたものの、2017年1~5月は17.3%に高まっている(図2)。日本車のシェアは、尖閣諸島問題が起きた2012年以前から既に緩やかに低下傾向にあった。日本車の販売が伸び悩む要因の一つとして、「日本車の衝撃吸収性能に対する誤認」があると指摘する向きもある。日本車は、衝突時に乗員を守るため、車体の前部を変形させ衝撃を吸収する設計となっている。一方、ドイツ車は鉄板が厚く簡単にはへこまない。こういった構造上の違いが「日本車は壊れやすい」というイメージを中国の消費者に植え付けてしまっているという。広東省の完成車メーカー等に話を聞くと、こういったマイナスイメージ、間違った認識を払拭(ふっしょく)するため、さまざまなPR活動を展開しているという。

日系3社の中国における販売状況をみると、トヨタ自動車(以下、トヨタ)、日産自動車(以下、日産)、本田技研工業(以下、ホンダ)のいずれも、おおむね右肩上がりで伸びている(図3)。2012年は尖閣諸島問題の影響で軒並みマイナス成長となったものの、翌年の2013年にはV字回復を果たしている。その後も若干の変動はみられるものの、プラス成長をしている。とりわけ、ホンダは近年売れ行きが非常に好調で、同社の中国での販売台数は2015年が前年比32.5%増、2016年が同24%増、2017年1~5月が前年同期比19%増と、3社中、唯一2桁増となっている。ホンダは、中国生産統括責任者を務めた経験のある八郷隆弘氏が社長に就任しており、SUVなど若者向けの車種の投入にも力を入れている。また、日産も若者をターゲットにした「Young Nissan」戦略の下、若者向けの車種を積極的に投入しており、今後も強化していく方針だという。

中国汽車工業協会によると、2016年の中国の集団・メーカー別乗用車販売ランキングでは、東風日産乗用車が111万7,900台で2015年に引き続き7位にランクインした。モデル別にみると、セダンでは日産のシルフィが3位(36万8,000台)に、トヨタのカローラが7位(30万6,500台)にランクインし、SUVではホンダのCR-V(18万300台)が9位に、日産のエクストレイル(18万200台)が10位にランクインしている。

図2:乗用車の販売台数の国別シェア
民族系2009年44.3%、2010年45.6%、2011年42.2%、2012年41.9%、2013年40.3%、2014年38.4%、2015年41.3%、2016年43.2%、2017年1-5月44.4%。ドイツ2009年14.1%、2010年14.4%、2011年16.5%、2012年18.4%、2013年18.8%、2014年20.0%、2015年 18.9%、2016年18.5 %、2017年1-5月20.1%。日本2009年21.3%、2010年19.5%、2011年19.4%、2012年16.4%、2013年16.4 %、2014年15.7%、2015年15.9%、2016年15.6%、2017年1-5月17.3%。米国2009年9.9%、2010年10.3%、2011年11.0%、2012年11.7%、2013年12.4%、2014年 12.8%、2015年12.3%、2016年12.2%、2017年1-5月11.9%。韓国2009年7.9%、2010年7.5%、2011年8.1%、2012年8.7%、2013年8.8%、2014年9.0%、2015年7.9%、2016年7.4%、2017年1-5月4.0%。フランス2009年2.6%、2010年2.7%、2011年2.8%、2012年2.8%、2013年3.1%、2014年3.7%、2015年 3.5%、2016年2.6%、2017年1-5月1.7%。

出所:中国自動車工業協会、マークラインズ等を基に作成

図3:中国における日系各社の自動車販売台数と前年比伸び率
トヨタ台数2010年84.6万台、2011年88.3万台、2012年84.1万台、2013年91.8万台、2014年103.2万台、2015年112.3万台、2016年121.4万台、2017年1-5月51.7万台。日産台数2010年102.4万台、2011年127.4万台、2012年118.2万台、2013年126.6万台、2014年122.2 万台、2015年125.0万台、2016年135.5万台、2017年1-5月53.2万台。ホンダ台数2010年65.5万台、2011年 61.8万台、2012年59.9万台、2013年75.7万台、2014年78.8万台、2015年100.6万台、2016年124.8 万台、2017年1-5月53.0万台、 トヨタ伸び率2010年19.3%、2011年4.4%、2012年 -4.9%、2013年9.2%、2014年12.5%、2015年8.7%、2016年 8.2%、2017年1-5月 4.5%。 日産伸び率2010年35.5%、2011年21.9%、2012年-5.3%、2013年17.2%、2014年0.5%、2015年 6.3%、2016年8.4%、2017年1-5月6.2%、 ホンダ伸び率2010年13.0%、2011年 -4.5%、2012年-3.1%、2013年26.4%、2014年4.1%、2015年 32.5%、2016年 24.0%、2017年1-5月 19.0%。

トヨタ:輸入車を含む小売販売台数。日産:2015年1月から集計方法を小売販売台数に変更(東風ブランドの乗用車と小型商用車を含む)。ホンダ:Acuraブランドの台数を除いた東風および広汽ホンダの小売販売台数(輸入車含む)。
出所:中国自動車工業協会、マークラインズ、各社発表資料等を基に作成

新エネ車・省エネ車については、深刻化する環境汚染への対策の一環として、普及を目指す政策が打ち出されている。その販売規模は2016年時点で50万台程度と小さいものの、伸び率は高い(図4)。また、新エネ車・省エネ車の普及とともに、排ガス規制や燃費規制も強化されており、燃費規制については、「省エネ・新エネ自動車産業発展計画(2012~2020年)」の中で、乗用車の平均燃費を2020年までに100キロ当たり5.0リットル(1リットル当たり20キロ)とする目標が掲げられている。こうした規制への対応策としても、燃費効率の良い小型車や新エネ・省エネ車の投入を強化していくことが企業に求められている。

図4:新エネ・省エネ車の販売台数および前年比伸び率
EV販売台数2012年1.1万台、2013年1.5万台、2014年4.5万台、2015年24.7万台、2016年40.9万台。PHEV販売台数2012年0.1万台、2013年0.3万台、2014年3.0万台、2015年8.4万台、2016年9.8万台。全体の伸び率2012年104%、2013年38%、2014年 324%、2015年340%、2016年53%。

出所:中国自動車工業協会

広東省の自動車産業

広東省の珠江デルタ地域は、1990年後半から2000年中盤にかけてホンダ、日産、トヨタの日系3社が広州市に参入し、日系メーカーの一大拠点となった。近年、フォルクスワーゲン(VW)、プジョー・シトロエン(PSA)、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の欧州3社がそれぞれ佛山市、深圳市、広州市に拠点を構え、珠江デルタ地域における自動車産業の集積がさらに進んだ(表1)。

各社とも生産能力を拡張する方針を示しており、2015年4月には、広汽トヨタが第3ラインの新設を発表。同ライン稼働後(2017年内予定)、生産能力は現在の合計38万台から48万台に拡大する予定だ。同年9月には広汽ホンダが、生産能力12万台の第3工場を稼働。生産能力が従来の48万台から60万台に拡大した。第3工場の生産能力は将来的には24万台に引き上げられ、同社全体で合計72万台になる予定だ。欧州系企業では、2013年8月に工場を立ち上げた一汽VWが、生産能力を現在の30万台から2020年には60万台に拡大する予定である。

このほか、広汽集団傘下の広汽乗用車は、広州市の番禺第2工場がフル稼働後(2017年)、生産能力は現在の20万台から65万台に拡大すると発表している。同社は日系メーカーとの合弁等で培ってきた技術力・開発力や日系部品調達網を生かし、広汽乗用車の自主ブランド車を生産している。とりわけ、最近は「伝祺(トランプチ)」のSUVが若年層に非常に人気で、広州市の街中で見かけることも多くなった。

表1:広東省自動車生産拠点の概要(乗用車)
グループ メーカー 出資比率 所在地 設立 稼働 生産能力
ホンダ 広汽ホンダ ホンダ50%
広汽集団50%
広州市
黄埔、増城
1998年7月 1999年3月 60万台(2015年9月に第3工場稼働)
(将来的に)72万台
日産 東風日産 日産50%
東風汽車集団50%
広州市
花都
2003年6月 2004年5月 55万台
トヨタ 広汽トヨタ トヨタ50%
広汽集団50%
広州市
南沙
2004年9月 2006年5月 38万台
2017年予定 48万台
BYD 比亜迪汽車 BYD100% 深圳市 2006年8月 2007年8月 20万台
広汽集団 広汽乗用車 広汽集団100% 広州市 2008年7月 20万台
2017年に番禺第2工場がフル稼働後65万台
VW 一汽VW 一汽60%
VW40%
(うちアウディ10%)
佛山市 2011年6月 2013年8月 30万台
2020年に60万台
PSA 長安PSA 長安汽車50%
PSA50%
深圳市 2011年11月 2013年9月 20万台
FCA 広汽フィアットクライスラー 広州汽車50%
FCA50%
広州市
番禺
2016年4月 16万台

出所:各社ウェブサイト、プレスリリース、FOURIN、各種報道等を基に作成

図5:広東省における日系各社の自動車販売台数と前年比伸び率
広汽トヨタ台数2008年17.2万台、2009年21.0万台、2010年26.9万台、2011年27.4万台、2012年25.0万台、2013年30.3万台、2014年37.4万台、2015年 40.9万台、2016年43.7万台、2017年1-5月17.5万台。東風日産台数2008年35.1万台、2009年51.9万台、2010年66.0万台、2011年80.9万台、2012年77.3万台、2013年92.6万台、2014年95.2万台、2015年102.1万台、2016年113.2万台、2017年1-5月44.3万台。 広汽ホンダ台数2008年30.6万台、2009年36.6万台、2010年38.6万台、2011年36.2万台、2012年31.6万台、2013年43.5万台、2014年48.0万台、2015年60.2万台、2016年65.2万台、2017年1-5月27.6万台。 広汽トヨタ伸び率2008年10.0%、2009年21.9%、2010年28.5%、2011年 1.9%、2012年-8.9%、2013年21.2%、2014年23.4%、2015年15.4%、2016年6.9%、2017年1-5月-3.9%。東風日産伸び率2008年28.9%、2009年 48.0%、2010年27.4%、2011年22.3%、2012年-4.4%、2013年19.8%、2014年2.7%、2015年12.5%、2016年10.9%、2017年1-5月6.3%。広汽ホンダ伸び率2008年3.7%、2009年19.4%、2010年5.6%、2011年-6.1%、2012年-12.7 %、2013年37.7%、2014年10.2%、2015年31.0%、2016年8.3%、2017年1-5月13.0%。
注:
東風日産:他工場を含む合計値。広汽ホンダ:理念を含む。東風日産:ヴェヌーシアブランドを含む。
出所:
中国自動車工業年鑑、各社プレスリリース等

広東省における日系各社の販売状況をみると、いずれも右肩上がりの成長が続いている。全国の状況と同じく、2012年は尖閣諸島問題の影響で軒並みマイナス成長となったものの、翌年の2013年にはV字回復を果たしている。(図5)。中国南部は反日感情が北部ほど強くないと言われており、広東省の回復スピードは速い。

また、全国の状況と同様、広汽ホンダの販売が好調で、2015年は前年比31.0%増となった。直近の2017年1~5月も前年同期比13.0%増と、3社中、唯一2桁増となっている。

広東省の日系企業の状況-自動車部品メーカーを中心に-

広東省の進出日系企業数は商工会登録ベースで2,000社程度となっている。その大部分は広州市(日系企業数522社)、深圳市(同428社)、東莞市(同273社)、佛山市(同173社)、中山市(同105社)に集まっている。広東省の経済規模は全国の省・市・自治区別で1位であり、中国全体のおよそ1割を占める。また、広東省の経済規模のおよそ半分を広州市と深圳市が、約8割を珠江デルタ地域が占めている。

ジェトロ「2016年アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、広東省進出日系企業のうち「今後1~2年の事業展開の方向性」について、「拡大」と回答した企業の割合は前年比9.9ポイント減の26.9%と大幅に減少し、全国平均(40.1%)を大きく下回り、主要都市中で最低となった(図6)。「縮小」は10.1%で同3.8ポイント減少したが、「第三国(地域)へ撤退・移転」は同0.7ポイント増の2.5%で、「縮小・移転・撤退(計12.6%)」の割合は、全国平均(7.1%)を上回り、主要都市中で最高となった。

図6:今後1~2年の事業展開の方向性(全国・広東省)
広東省14年調査(n=258) 拡大41.5%、現状維持49.6%、縮小7.4%、第三国(地域)へ移転・撤退 1.6%。15年調査(n=223)拡大36.8%、現状維持47.5%、縮小13.9%、第三国(地域)へ移転・撤退1.8%、 16年調査(n=119)拡大26.9%、現状維持60.5%、縮小10.1%、第三国(地域)へ移転・撤退 2.5%。中国14年調査(n=970)拡大46.5%、現状維持46.0%、縮小6.5%、第三国(地域)へ移転・撤退 1.0%。 15年調査(n=863)拡大38.1%、現状維持51.3%、縮小8.8%、第三国(地域)へ移転・撤退 1.7%。 16年調査(n=599)拡大40.1%、現状維持52.8%、縮小 5.3%、第三国(地域)へ移転・撤退 1.8%。

出所:ジェトロ「2016年アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

広東省の「経営上の問題点」をみると、1位に「従業員の賃金上昇(82.4%)」が挙がっており、コスト面における厳しい状況が「縮小・撤退・移転」の一因となっていることがうかがえる。広東省の最低賃金(2015年初改定)は、深圳市が2,030元(上昇率12.3%)、広州市が1,895元(同22.3%)といずれも全国トップの水準である。残業代や福利厚生、保険料等を含めると、実際には3,000~4,000元程度の水準を維持しなければ、良質な人材を集めるのが難しくなっている。特に、自動車業界の賃金水準は製造業内でも上位にある。求職者は周辺企業の賃金水準や労働環境との相対的な比較により企業を選ぶ傾向が強い。そのため、周辺に立地する他社の状況を参考にしつつ、待遇の水準を合わせることが必要だ。特に、部品メーカー同士(ティア1同士、ティア2同士)で賃金水準に差があると反発が大きいといわれる。

一方、「2016年の営業利益見込み」について、広東省では「黒字」の回答率が前年比1.6ポイント減の67.2%と減少はしたものの、全国平均(64.4%)を2.8ポイント上回っている(図7)。広東省は先述のとおり、事業を「拡大」するとの回答率が主要都市で最低となった一方、「黒字」の回答率は全国平均を上回っており、利益が出る企業とそうでない企業の差が明確になっている。「黒字」の回答率を企業規模別にみても、広東省は大企業が72.9%と前年比で4.5ポイント減少したものの、全国平均(68.8%)を上回っている。

図7:2016年の営業利益見込み(省市別、企業規模別)
省市別中国16年調査(n=596)黒字64.4%、均衡15.6%、赤字20.0%、15年調査(n=863)黒字60.4%、均衡15.9%、赤字23.8%。福建省 16年調査(n=31)黒字71.0%、均衡16.1%、赤字12.9%、15年調査(n=40)赤字55.0%、均衡17.5%、赤字27.5%。北京市16年調査(n=48)黒字68.8%、均衡10.4%、赤字20.8%、15年調査(n=90)黒字63.3%、均衡10.0%、赤字26.7%。上海市16年調査(n=83)黒字68.7%、均衡14.5%、赤字16.9%、15年調査(n=95)黒字59.0%、均衡19.0%、赤字22.1%。広東省16年調査(n=119)黒字67.2%、均衡16.0%、赤字16.8%、15年調査(n=224)黒字68.8 %、均衡17.4%、赤字13.8%。山東省16年調査(n=52)黒字65.4%、均衡21.2%、赤字 13.5%、15年調査(n=88)黒字54.6%、均衡13.6%、赤字31.8%。遼寧省16年調査(n=60)黒字60.0%、均衡15.0%、赤字25.0%、 15年調査(n=97)黒字55.7%、均衡18.6%、赤字25.8%。江蘇省16年調査(n=75)黒字60.0%、均衡16.0%、赤字24.0%、15年調査(n=56)黒字62.5%、均衡19.6%、赤字17.9%、湖北省16年調査(n=38)黒字52.6%、均衡15.8%、赤字31.6%、15年調査(n=63)黒字58.7%、均衡14.3%、赤字27.0%。 企業規模別中国(n=596)大企業(n=381)黒字68.8%、均衡13.4%、赤字17.9%、中小企業(n=215)黒字56.7%、均衡19.5%、赤字 23.7%。福建省(n=31)大企業(n=15)黒字93.3%、赤字6.7%、中小企業(n=16)黒字50.0%、均衡31.3%、赤字18.8%。上海市(n=83)大企業(n=52)黒字76.9%、均衡9.6%、赤字13.5%、中小企業(n=31)黒字54.8%、均衡22.6%、赤字22.6%。広東省(n=119)大企業(n=70)黒字72.9%、均衡17.1%、赤字10.0%、中小企業(n=49)黒字59.2%、均衡14.3%、赤字26.5%。北京市(n=48)大企業(n=40)黒字72.5%、均衡 10.0%、赤字17.5%、中小企業(n=8)黒字50.0%、均衡12.5%、赤字37.5%。山東省(n=52)大企業(n=32)黒字68.8%、均衡 21.9%、赤字9.4 %、中小企業(n=20)黒字60.0%、均衡20.0%、赤字20.0%。江蘇省(n=75)大企業(n=47)黒字68.1%、均衡 12.8 %、赤字19.2 %、中小企業(n=28)黒字46.4 %、均衡21.4%、赤字32.1%。遼寧省(n=60)大企業(n=36)黒字61.1%、均衡13.9%、赤字25.0%、中小企業(n=24)黒字58.3%、均衡16.7%、赤字25.0%。湖北省(n=38)大企業(n=23)黒字52.2%、均衡 17.4%、赤字 30.4 %、中小企業(n=15)黒字53.3%、均衡13.3%、赤字33.3%。

注:n≧20の省市のみ。
出所:ジェトロ「2016年アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

広東省の日系企業を内需型産業と外需型産業に分けると、輸出向け製品の製造などを主とする外需型産業は、人件費上昇や規制強化などにより、高付加価値化や場合によっては珠江デルタ外への移転等の対応に迫られている。一方、自動車産業・サービス業等、内需型産業は消費市場の拡大等を受け、生産拡大・店舗拡大が目立つ(表2)。

表2:珠江デルタの内需型・外需型産業
内需型製造業(大企業)
  • 主に広州市、佛山市に集積する自動車産業は完成車の販売好調を受けて生産を拡大。工場・ラインの増設が相次ぐ。部品企業もティア1レベルは完成車増産を受けて生産を拡大。近年、部品企業では地場系メーカーとの取引を拡大する企業も増加
  • 完成車については、現時点ではSUV等が人気。今後は環境規制の強化、ナンバープレート規制、景気動向等により、中小型車や新エネ車への乗り換えも
内需型非製造業(大企業)
  • 非製造業は小売業、飲食業、宿泊業等の投資が進む。イオン、イオンモール、ユニクロ、COCO壱番屋、ワタミ、ペッパーランチ、吉野家、ファミリーマート、元気寿司、サイゼリア、モスバーガー、ホテルニッコー等さまざまな業種で進出が活発化
  • 進出意欲は旺盛な一方、物件の確保が問題となっている。家賃が高騰しており、採算がとれる物件を探すことが難しい
外需型製造業(大企業)
  • 深圳市の電気・電子関連企業が多く、テレビ、エアコン、事務機等の産業で集積が目立つ。人件費等コスト上昇にともない、輸出向け製品・低付加価値製品等について、ASEAN等第三国への生産移転が進む部分もある
  • 一方で、珠江デルタ地域のサプライチェーンや技術力の優位性は高い。そのため、自動化・効率化によるコスト削減、高付加価値製品の製造を続ける企業が多い
外需型製造業(中小企業)
  • 深圳市、東莞市の電子・電気関連企業が多い。人件費等のコスト上昇要因に加え、政府の加工貿易規制等により事業環境は厳しい。また、環境規制の強化も大きな影響を与えている
  • 大企業と異なり、大規模な自動化投資、高付加価値化が難しいため、ASEAN各国・広東省東西北地域等珠江デルタ外に製造拠点を移す動きもみられる

出所:各社へのヒアリング等を基に作成

珠江デルタ地域にはホンダ、日産、トヨタの日系3社の参入を契機に多くの日系自動車部品メーカーが進出しており、その大部分は、いわゆる系列関係を中心とした日系企業間の取引を中心に行ってきた。近年は、コスト競争力の強化やリスク分散等の観点から、中国の自動車業界では低付加価値部品等を中心に調達先多角化の動きが広がりつつあり、こうした動きを受け、日系部品メーカー各社は、これまでの日系顧客中心の販売体制に加えて、非日系顧客にも販路を広げる取り組みを始めている。しかし、自社で営業をかけても人脈などがないと門前払いとなるケースも少なくなく、ジェトロに対して、中国系企業の紹介や商談機会の提供を求める声も増加している。日中関係悪化の影響等で日系ブランド車の販売が大幅に落ち込んだ2012年にも、販売先を非日系顧客に多角化していたことが幸いし、影響が軽微だった部品メーカーもある。販売先の多角化は、部品メーカーにとって、攻めと守りの両面で重要な戦略の一つとなっている(日系部品メーカー各社へのヒアリングより)。

一方、非日系(調達側)は、日系部品の技術力の高さや品質のよさを高く評価すると同時に、価格の高さも指摘している。また、部品によっては、調達先の選択・変更にあたり、完成車メーカー本社等に許可を取る必要がある(とりわけ、自動車の性能や安全性にかかわるキーパーツはこの傾向が強いもよう)ほか、既存サプライヤーとの関係もあり、切り替えは容易ではないという。とはいえ、日系部品の性能や品質への信頼は高く、将来的な日系メーカーへの切り替えの可能性はゼロではない。完成車メーカーの新車種・モデル投入時期、あるいは新拠点設立といったタイミングで、新たな部品調達先として自社を選定してもらえるよう日ごろのPRが必要だ(非日系(調達側)各社へのヒアリングより)。

執筆者紹介
ジェトロ農林水産・食品部 農林水産・食品課
米川拓也(よねかわ たくや)
2005年入構。総務部経理課、広島貿易情報センター、海外調査部(中国北アジア課)勤務後、2013年から広州事務所駐在。約4年間、同事務所にて自動車産業を中心とした事業、および進出日系企業支援を担当。2017年4月から現職。