コートジボワール ‐ レバノン系企業がアフリカ参入パートナーに

2017年12月5日

コートジボワールでは、レバノン系企業が存在感を示している。20世紀前半よりレバノンから人々がコートジボワールに移住。2000年代の内戦中も離れずに同国に根づいたレバノン系企業は3,000社以上とみられ、コートジボワールのビジネスにおいて確固たる地位を築いている。これらのネットワークは日本企業にとっても、アフリカ市場参入におけるパートナーとなり得そうだ。

レバノン系企業の大半は現地で創業

コートジボワール投資促進センター(CEPICI)によると、2016年の国別対内直接投資額(認可ベース)はフランスが最大(構成比12%)で、ナイジェリア(10%)、英国(9%)、レバノン(8%)と続く。しかし、データにはコートジボワールへの移住者やその家族による創業企業は含まれておらず、それらによるビジネス活動が大きいレバノンは、実際には統計以上の存在感がある。在コートジボワールレバノン商工会議所(CCIL)によると会員は約300社だが、非会員企業を含めると国内には3,000社以上のレバノン系企業が存在するという。ここで言う「レバノン系企業」とは、レバノン系移民のコートジボワール人によって経営される企業を指す。コートジボワールでは、レバノン本国からの直接投資を受けて活動する(上記の直接投資統計に表れる)のは、アフリジェル(Afrigel、エアコン・冷蔵庫など冷却装置の販売)、テルミニュ(Terminus、料理店・ホテル向け電気機器の販売)など10社程度にとどまり、大半は本国から移住したレバノン人がコートジボワールで創業した企業だ。

図1:2016年コートジボワール国別対内直接投資の内訳
2016年のコートジボワール国別対内直接投資の構成比は、フランスが12%で最大。次いでナイジェリア10%、英国9%。レバノンは7%で4位。続いて、モロッコ6%、トーゴ6%、セネガル5%、マリ2%、その他35%。データはコートジボワール投資促進センターへの申告ベース。
注:
対内直接投資額はコートジボワール投資促進センター(CEPICI)の認可ベースの数値
出所:
コートジボワール投資促進センター(CEPICI)

日本企業のパートナーとして

レバノン系企業は、日本企業の参入に当たって有望なパートナーともなり得る。主な企業を挙げよう。

電化製品販売業のソノコ(SONOCO)は1985年から松下電器(現・パナソニック)の出資を受け、テレビ、ラジオ、エアコンの組立工場を国内に構えた。だが、西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)の関税同盟発足に伴い、輸入関税が下がった。生産部品を輸入して国内で組み立て加工をするよりも、完成品を輸入した方がメリットがあることから2001年に工場は閉鎖。しかし、現在もパナソニックはじめ韓国のLG、フランスのウェスポワン(Westpoint)など、7ブランドの総代理店として国内で家電を販売している。

小売業でもレバノン系企業の活躍が目立つ。プロズマ(Prosuma)は、国内にスーパーマーケットや大型商業施設、フランチャイズ店を約140店舗展開。ソニーはじめ多数の日本ブランド商品を販売している。いずれも中東の製造拠点やレバノン、欧州を介して輸入されたものだ。同社は、地方を含め広範囲な販売ネットワークを持つことから、消費財の販売先として魅力的だ。カジノ・マンダリン(Casino Mandarine)は、スーパーマーケットチェーンの新規ブランドとして2016年9月にスタートした。開業から1年以内に4店舗開店し、2018年末までにさらに8店舗増やす予定だ。


カジノ・マンダリンの店舗外観(アビジャン市内、ジェトロ撮影)

カジノ・マンダリンの店舗内部の様子(アビジャン市内、ジェトロ撮影)

ユーロフィングループ(Eurofind Group)は、化粧品・化学品、鉄鋼製品、食品の製造など国内で4社を傘下に持つコングロマリット(複合企業)だ。このうち、鉄鋼加工大手ソタシ(SOTACI)は1978年の創業以来、建設資材の供給で事業を拡大し、2017年時点で国内に従業員を800人ほど抱える。生産量は年間15万トン。同社は国内で強い影響力を持ち、鉄スクラップ原料を確保するために政府に掛け合い、2014年以降はコートジボワールから鉄スクラップの輸出が禁止されたほどである。

また、製造機械の納入先としても可能性がある。1979年に卸売業から始まったグループ・カレ・ドール(Groupe Carré d'Or)は、傘下に事業会社6社を持ち、小麦粉やパスタ製造、包装資材の製造、飲料や食品の袋詰めを行うほか、コメの流通では市場の7割を担っている。今後はカカオやカシューナッツの加工業などにも進出する予定だ。既存事業に関わる加工機械や新規事業における食品製造プラントの調達に大きな関心を持つという。

レバノン系企業のビジネス上の特徴は「即断即決」。価格と品質のバランスを重視し、関心の有無をすぐに判断してスピーディーに商談を進める。一方で、財務状況を含む企業情報の開示に必ずしも積極的でないケースも散見される。現地進出日本企業によると「コンプライアンス上の判断が難しい」との評価もある。レバノン系企業との商談に当たっては、こうした企業情報の開示に積極的に応じてくれるかが1つのカギになりそうだ。

表1:主要レバノン系企業一覧
企業名 事業概要
グループ・カレ・ドール (Groupe Carré d'Or) コメの輸入販売、小麦製粉、パスタ製造・販売、飲料製造、食品の袋詰め包装資材の製造、通関業関連業など
イェシ・グループ (Yeshi Group) 建設用鉄鋼・金属資材製造、自動車輸入販売、高級家具輸入販売、不動産、小売流通など
ユーロフィングループ (Eurofind Group) 化粧品・化学品製造、鉄鋼製品製造・輸入販売、乳飲料製造など
プロズマ(Prosuma) スーパーマーケット、大型商業施設、直営・フランチャイズ専門店など
セーデーセーイー(CDCI) 食品・日用品スーパーマーケット、卸売店、小売店およびフランチャイズチェーンなど
エヌ・ペー・ガンドゥール (NP Gandour) 化粧品および香水の製造・販売
ソノコ(SONOCO) 電化製品販売
アフリジェル(Afrigel) エアコン・冷蔵庫など冷却装置の販売
テルミニュ(Terminus) 料理店・ホテル向け電気機器の販売
出所:
各社へのヒアリングを基にジェトロ・アビジャン事務所作成

本国主導でネットワークを構築

在コートジボワールレバノン大使館に登録している在留レバノン人は、2万5,000人程度。だが、CCILは未登録者も含めると約8万人に上るとみている。20世紀前半にレバノンがフランスの委任統治領だった時代、フランスの植民地だったコートジボワールへ主に貿易商としてレバノン人の移住が進んだ。

以後、約5世代にわたりコートジボワールに根を下ろしたレバノン系移民は、民族コミュニティーを維持しながら同国のビジネス界で信頼関係を構築した。2000年代のコートジボワールの内戦中には、国外退去したフランス系企業から事業を買収、拡大し、当地の経済活動の維持に貢献した。レバノン系企業は現在、金属加工、石油化学品、化粧品、食品などの製造分野を中心に展開している。CCILによると、国内で約30万人の雇用を創出し、これは、コートジボワールの国内総生産(GDP)の8%、税収の15%にあたるという。コートジボワールでは、アフリカ最大規模のレバノン人コミュニティーが形成されている。こうした現地への高い貢献度によって、コートジボワールでのビジネス活動が広く受け入れられ、さらなる拡大につながっている。

レバノン系企業が活発なのはコートジボワールだけではない。世界各国で活動するレバノン企業のネットワーク構築を図ろうと、レバノン本国の外務・移民省では2014年に 「レバニーズ・ディアスポラ・エナジー」(LDE)と称するビジネス交流イベントを立ち上げた。2017年2月には初となるLDEのアフリカ会合が、南アフリカ共和国のヨハネスブルクで開催された。2回目の会合は2018年2月にコートジボワールのアビジャンで開催される予定だ。今後は本国主導の強固な地盤作りによって、コートジボワールのみならず、アフリカ主要市場でのレバノン系企業のプレゼンスがさらに高まることが予想される。

執筆者紹介
ジェトロ企画部地方創生推進課(元ジェトロ・アビジャン事務所)
石井 絵理(いしい えり)
2013年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部途上国ビジネス開発課(2013~2015年)、ジェトロ関東(2015~2016年)、ジェトロ・アビジャン事務所海外実務研修(2016~2017年)を経て、2017年10月より現職。