中国・潮流中国ビジネスの流れは変わったのか

2017年10月16日

北京市から四川省成都市に異動して8月で2年が経過した。最初の1年間は、当事務所を訪問される日本企業の中で、成都市への新規進出の調査目的の案件はほとんどなかった。重慶市ではこの間にも製造業を中心に日本企業の新工場の設立発表や工場の落成が数件あったが、成都市では日本企業の製造業の新規案件の話はほとんど聞かなかった。成都市が製造業に適していないという訳ではないのだが、「製造業は重慶、サービス業は成都」という一種のイメージのようなものが日本企業の間に醸成されているのかとも考えていた。

ところが、異動して1年が経過した2016年の秋から、中国沿海部の日系企業が、新規進出の調査目的で当事務所を訪問されるケースが、月に数件発生するようになってきた。こうしたお客さまは主に製造業で、成都市、重慶市あるいは陝西省西安市等を回っており、西部地域のどこかに販売拠点を作りたいというお話が多かった。共通していたのは、「現在、当社の拠点は沿海部にしかないので…」という言葉であった。確かに企業パンフレットを拝見すると、工場、販売拠点とも、すべて沿海部にあり、西部地域は空白地帯であった。こうした新規進出の案件は現在まで継続して発生してきており、明らかに最初の1年とは流れが変わってきていると感じられる。

こうした変化の背景には何があるのだろうか。2012年の反日デモ以降、日本企業のアジア地域での投資は、ASEANが伸びる一方、中国は抑制気味に推移してきた。ジェトロの「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」でも、今後1~2年の事業展開について「拡大」と回答する中国進出日系企業の比率は、2011年の66.8%から、2016年には40.1%に低下しており、アジアの中でニュージーランド、香港・マカオに次ぎ、下から3番目となっている。

最近、四川省の関係者は、「四川省の面積はドイツと同じ、経済規模はベルギーと同じ」と説明している。重慶市はポルトガルの経済規模と同じで、四川省と重慶市の人口を合計すれば、日本の人口とほぼ同じである。四川省や重慶市の市場開拓を進めるだけでも、欧州やASEANの1カ国分に匹敵する。また、西部地域では経済成長率が全国平均を上回っている地域が多く、沿海部より多くの「発展空間(発展の余地)」が見込める。

反日デモから4年が経過し、中国リスクは念頭に置きつつも、「ASEAN各国は人口が多くはなく、リスクも苦労もそれなりにある。一方、中国にはまだまだ開拓し切れていない地域があるので、そこにも従来以上に挑戦していこう」という認識が、日本企業の中に出てきたのではないかと個人的には考えている。

2017年に入ってからは、成都市においても日本の製造業企業の工場の落成や進出の発表など、製造業にも動きがみられるようになっている。サービス業でも成都での店舗網の拡張や、重慶市への進出が活発化している。また、これまで進出調査をしてきた日本企業の分公司等も設立されていくものと思われる。こうした日本企業のうち、サービス業では代理店を活用している例が多く、必ずしも当地に現地法人を設立している訳ではない。分公司を設立する場合でも駐在員を配置しない形態も多い。現状を見ていると、昨今の中国の「新常態」に対応しつつ、コストを最小化しながら中国の空白地域にも手を打っていくという日本企業の動きが、さらに顕在化してきそうな気配である。

執筆者紹介
ジェトロ 成都事務所長
岡田 英治(おかだ えいじ)
1988年、日本貿易振興会(現日本貿易振興機構)入会。本部、金沢事務所、上海事務所、2度の北京事務所勤務などを経て、2015年から成都事務所勤務。