サンクトペテルブルクで新たな外食市場のトレンド

2017年10月16日

ロシア経済の低迷に伴う消費マインドの変化により、ファストフードがシェアを拡大。中でも国際ブランドが店舗数を増加させている。同時期に、サンクトペテルブルクでは日本食に関連するレストランやカフェが新規オープンする事例も。外食売上高がロシア全体で落ち込む中でプラス成長を続けるサンクトペテルブルクの外食市場のトレンドを紹介する。

景気低迷を背景にファストフードが台頭

連邦国家統計局によると、2016年のロシア全体の外食売上高は1兆3,519億ルーブル(1ルーブル=約2円)。連邦構成主体別で見た場合、モスクワ市は1,609億ルーブルで第1位、ロシア全体の11.9%を占め、サンクトペテルブルク市は677億ルーブルで第6位、ロシア全体の5%となっている。ロシア経済は低迷、消費者は節約志向を強めており、2015年の外食売上高は6年ぶりにマイナス成長に転じ、2016年も前年比2.7%減となった。原油価格の低迷に伴うルーブル安の進行やEUなどからの農産品等のロシアへの輸入禁止措置などの影響で、消費者物価上昇率は2014年、2015年と10%を超える水準で推移。しかし2017年に入り、市場回復に向けて明るい兆しが見え始めている。経済発展省の経済見通し(2017年8月)によると、2017年の実質GDP成長率は前年比2.1%増と、3年ぶりにプラス成長へと転じる見通し。消費に影響を与える主要な経済指標である実質賃金上昇率や実質可処分所得もプラスに転じる見込みで、消費者物価上昇率はロシア史上最も低い水準となる3.7%に落ち着くとの予想だ。2017年上半期の外食売上高は前年同期比0.1%増の6,512億ルーブルとなり、底打ち感が強まっている。

ここ数年の外食市場における主な変化としてa.早くて安くておいしいファストフードの台頭、b.チェーン店のシェア拡大が挙げられる。まず、ファストフードは外食市場(2016年)の約40%を占めるなど、年々シェアが拡大傾向にある(写真1参照)。2015年、2016年は主要部門が前年比マイナスとなる中、プラス成長を維持した。同時に、ファストフード部門の客単価も増加傾向にある。ロシア政府系大手銀行「VTB24」によると、サンクトぺテルブルク市民の1回当たりの平均支払額(2016年)は、レストランでは2014年比2%減の943ルーブルである一方、ファストフードでは2014年比8%増の364ルーブルとなっている。また、チェーン店の中でも特に、マクドナルドやKFC、バーガーキングなどの国際ブランドが近年シェアを拡大傾向にある。ファストフードの需要に加え、昨今のルーブル安に伴い外貨換算時の投資コストが約3分の2程度に下がったことなども関係している。例えば、マクドナルドは現時点で615店舗を展開、2017年は約50店舗を開店予定となっている。


ショッピングセンター内のフード・コート

ストリートフード人気でたこ焼き、たい焼きも登場

外食売上高の数字がロシア全体で前年比マイナスとなる中、サンクトペテルブルクにおいては2015年、2016年も前年比プラスで推移した。2015年には、京都・福寿園の欧州初の販売拠点(喫茶スペースを併設)がオープン(4月)、宮城・仙台でラーメン店「麺屋政宗」などを経営するアールがプロデュースするラーメン店(サンクトペテルブルク初の本格ラーメン店)がオープン(7月)するなど、外食関連産業での進出事例が目立った。また、2016年に入ってからもサンクトペテルブルク市内に若いロシア人経営者によるたこ焼き屋やたい焼き屋、居酒屋(焼き鳥やお好み焼き、ラーメンなどを提供)がオープンするなど、これまでにないユニークな事例も出てきている。ファストフードに対する需要や若者を中心とする外国のストリートフードへの関心の高まりなどが背景にあるものと推測される。

若者を中心に人気のあるたこ焼き。「タコヤキ」は市内で開催される複数の食のイベント(例、約56,000人が来訪する市内最大級のイベント「オ、ダー!イェダー! 」など)を通じてたこ焼きのマーケティングを重ねた後、2016年1月にコンテナ型の店舗「タコヤキ・ヤタイ」を出店(写真2参照)。続いて同年7月には2店舗目「タコヤキ・ミセ」をオープンした。たこ焼き6個入りで230ルーブル 。「タイヤキ・カフェ」は市内に2店舗を展開、現在モスクワ進出の準備を進めているという。


コンテナ型店舗の「タコヤキ・ヤタイ」

サンクトペテルブルクの外食を含めた消費市場としての魅力は主に3点ある。1点目は人口528万人(2017年1月1日時点)と一定の市場規模があること。欧州の都市別人口では、モスクワ、ロンドンに次いで第3位の規模である。

2点目は、夏の消費が落ち込む時期は観光客需要を見込めること。2016年にサンクトペテルブルクを訪れた観光客は過去最高の690万人(うち、外国人280万人)。10年前と比べると76.9%増となっている。昨今のルーブル安を背景にロシア人が旅行先を海外から国内へシフトしていること、旅行情報サイト「トリップアドバイザー」で旅行者が選ぶベストデスティネーション部門で世界第14位(ロシアでは第1位)と、外国人にも人気の都市となっていることなどから、今後も観光客数は増加見込みである。ちなみに、2017年は750万人が来訪する見通し。なお、前述のラーメン店「ヤルメン」は観光客を含む人通りが多い通りに立地、夏場を中心に多くの観光客(主に中国人)が訪れているという。

3点目は、人件費や賃料といった固定費がモスクワと比べ安価なこと。最終的には条件によるが、一般的な数字として、モスクワと比べ、人件費は約3分の2程度、賃料は約2分の1~3分の2程度とされる。

求められる高付加価値化-ロシア側パートナーとの連携を視野に

現在、サンクトペテルブルク市内には日本食(主にスシロール)を提供するレストランは約200店舗あると言われている。ただ、このうち日本人シェフが常駐しているのは、前述のラーメン店および2017年9月に市内中心部のロッテホテル内にオープンした日本食レストランの2店舗のみ。本格的な日本食を提供する店舗は少ない。他方、サンクトペテルブルクで2003年から日本食レストランチェーンを展開する「ワサビ」(市内に17店舗を展開)の経営者は、「年々競争が激しくなってきており、スシロールを提供すれば客が集まる時代は終わった。今後はメニューの充実化や料理の質で他店舗と差別化を図る必要がある」と危機感をつのらせる。同時に日本のパートナーとの協力に高い関心を示した。また、当地のレストラン向けに卸を行う食品輸入業者は、最近では調味料やドレッシングなどに加え、麺類(ラーメンやうどんなど)のニーズが高まってきているという。市内では最近、ロシア人経営のチェーン店などでもラーメン(主にしょうゆ味やみそ味)を提供する店舗が少しずつ増加傾向にある。価格はラーメン1杯250~450ルーブル程度。なお、ヤルメンの場合は、一部を除きほとんどの食材をロシア国内で調達しているという。

当地で活動する業界関係者は、ビジネスを進める上でのロシア側パートナーの必要性を強調する。特に、店舗開店に際しての営業許可取得や開店後の食品衛生や消防関連などの当局対応など、ロシアの法律や商習慣を熟知しているパートナーとの役割分担が必要になってくるという。近年、店舗数を拡大させているファストフードの国際ブランドなどもロシア側パートナーとのフランチャイズ契約により出店するケースが増加傾向にある。例えば、マクドナルドはロシア全体の約15%の店舗をフランチャイズ形式で運営している。この他、主なフランチャイジーには、モスクワやサンクトペテルブルクなどでKFCやピザハットを運営する「アムレスト」、TGI FridaysやCosta Coffeeを運営する「ロスインテル」などがある。

ロシア経済が低迷、事業環境が大きく変化する中で現れてきた外食市場の新たなトレンド。日本食に関連するビジネスも少しずつではあるが増加傾向にある。景気が底を打ち、回復傾向にあるこのタイミングは、ロシア側パートナーとの連携も視野に新たなビジネスを検討するのに適した時期と言えよう。

執筆者紹介
ジェトロ サンクトペテルブルク事務所長
宮川 嵩浩(みやがわ たかひろ)
2005年、日本貿易振興機構(JETRO)入構。モスクワ事務所(2011~2014年)を経て現職。