ベトナム ‐ 自治体が対越進出を後押し

2017年8月15日

日本企業のベトナムへの進出は増加の一途をたどる。対ベトナム進出企業を支援するため、日本の地方自治体が現地の中央政府機関、地方政府、工業団地との協力関係を構築する事例が増えている。日本側自治体が中小企業のベトナム進出に係る経費負担を軽減するサポートを行うことで、それを活用した進出事例も出始めた。

対越投資は件数増の規模減

ベトナム向け直接投資が増え続けている。2016年は3,862件、224億ドル(認可ベース、新規・拡張計)だった。件数で見ると、06年の1,627件から2.4倍に増加している。日本の対ベトナム投資も増加傾向が続く。件数ベースでは06年に253件だった投資が、16年には574件へと2.3倍になった。

ジェトロの海外進出支援事業の一つである「新輸出大国コンソーシアム」(注)において、最も高い関心が寄せられている国がベトナムだ。この事業の対象は中堅・中小企業である。同事業でジェトロが実施した調査でも、進出関心国・地域(複数回答)として「ベトナム」を挙げた回答が36%を占め、第2位の「米国」とは2倍近くの開きがあった。今後も中小企業によるベトナムへの事業展開が続くと予想される。

日本企業による対ベトナム投資の特徴としては、規模が小さいことが挙げられる。年によっては1件で10億ドル超といった大型投資案件があるため、あくまで参考だが、各年の新規ベトナム向け投資金額(認可ベース)を当該年の件数(同)で割った1件当たり投資金額の平均は、06年の680万ドルから、16年には330万ドルへと半減している。さらに、日本企業のベトナム向け新規投資のうち製造業案件の詳細を見ると、16年には100万ドル(約1億1,000万円)未満の投資案件が約4割を占めている。現状でも、進出日系企業の多くが中小規模となっている。

現地機関と覚書

企業からの関心の高まりを受け、日本の地方自治体がベトナムの中央政府機関や地方政府との覚書を交わし、協力関係を構築する動きが活発化している。協力の中身としては、日本企業のベトナムへの進出をはじめ、ベトナムでのビジネスに必要な情報の収集、人材交流、双方によるビジネスミッション(現地視察)などに関するものが多い。

例えば、岡山県は06年、ベトナムにおいて外国投資を所管する計画投資省外国投資庁(FIA)と覚書を取り交わした。そのほか横浜市は07年にホーチミン市と、愛知県は08年に計画投資省と、それぞれ経済交流に関する覚書を交わしている。日本の自治体がベトナムの現地機関と協力関係構築を約束する動きは約10年前から見られるが、ここ数年はそれが特に増えている。例えば、15年に秋田県がベトナム北部ビンフック省と、岐阜県がベトナム中部ゲアン省と、そして16年には群馬県が計画投資省と、四日市市が FIAやベトナム北部ハイフォン市と、それぞれ同様の協力関係を結んでいる。ある自治体関係者が「先進的に海外展開している企業から、ベトナム進出のきっかけを早急に作るべきだとの意見があった」と述べているように、こうした動きの背景には、企業側ニーズがあったといえよう。

表:地方自治体と現地機関との経済関連覚書締結事例
締結時期 日本側 ベトナム側
2006年8月 岡山県 計画投資省外国投資庁(FIA)
2007年10月 横浜市 ホーチミン市
2008年3月 愛知県 計画投資省
2012年8月 埼玉県 計画投資省
2014年7月 神奈川県 計画投資省
2014年11月 滋賀県 ホーチミン市
2014年12月 浜松市 計画投資省
2015年3月 秋田県 ビンフック省
2015年9月 神奈川県 フンイエン省
2015年11月 岐阜県 ゲアン省
2016年2月 群馬県 計画投資省
2016年8月 四日市市 FIA、ハイフォン市

資料:各自治体、現地機関ウェブサイトを基に作成

工業団地との連携で経費軽減も

現地工業団地と連携する地方自治体の事例も出てきた。神奈川県は15年6月、住友商事がベトナム北部で運営する第2タンロン工業団地内に、「神奈川インダストリアルパーク」を開設した。県内企業が工業団地内のレンタル工場に入居する場合、管理費1年分、および現地での投資ライセンス取得に係る費用などを無料にするという。

また、神戸市とひょうご産業活性化センター(以下、「神戸市など」)は同年10月、浜松市は16年6月、群馬県も17年2月に、同工業団地とそれぞれ協定を結んでいる。管轄内の企業が同レンタル工場に入居する場合、ほぼ同様の支援を行うと発表している。そのほか神戸市などは、ベトナム地場企業がベトナム北部ハナム省で操業するドンバン3工業団地と、群馬県は双日や大和ハウスなどがベトナム南部で運営するロンドゥック工業団地とも連携し、進出企業を進出に伴う経費面などで優遇する。

前述のとおり、各自治体では現地のレンタル工場に進出する企業に対し、積極的にサポートする体制を整えつつある。この動きは、大企業に比べて資金や人材といった社内体制が不足しがちな中小企業によるベトナム投資が、近年増えていることを受けたものと考えられる。

既に具体的成果も

実際、ベトナムの現地工業団地と日本の地方自治体との連携サポートは、既に成果を生み始めている。前述の「神奈川インダストリアルパーク」では15年10月、通信設備の部品を製造・販売する多摩川電子が稼働を始めた。17年3月には、ポータブルDVDプレーヤーなどの製造・販売を手掛けるダイニチ電子も本格稼働を始めた。同年5月には、尼崎市の繊維関連メーカー、クロス工業によるドンバン3工業団地への進出も発表されている。


第2タンロン工業団地のレンタル工場(写真提供:住友商事)

「神奈川インダストリアルパーク」の窓口となっている神奈川産業振興センターの担当者は、同インダストリアルパーク開設の経緯を次のように語った。「12年に、海外進出先について県内中小企業を対象にしたアンケート調査を実施したところ、進出国としてはベトナム、進出形態としてはレンタル工場への関心が高かった」。また、「電力や上下水などのインフラが整備され、入居前後に必要となる現地での認可に関する情報提供、サポートが期待できる」ことから、第2タンロン工業団地を選択したという。実際、地場と外資系が合弁で運営する他の工業団地に進出した中小企業は、「進出認可手続きのサポートをするとの約束で入居を決めたが、結局はそのようなサポートを受けることができなかった」との声は現地で聞かれる。同センターによれば、15年後半から同インダストリアルパークへの引き合いは増えているという。

一方、レンタル工場を運営する住友商事海外工業団地部第一チームの清水禎彦チームリーダーによると「当社の広報活動だけでは潜在的顧客にアクセスしきれない場合があり、自治体との連携によって当社レンタル工場認知の裾野が広がった」とのことだ。その意味で「神奈川インダストリアルパーク」は、海外進出を検討する中小企業、これら企業の現地進出を支援したい自治体、入居を進めたい工業団地という三者の思惑が合致したことで、具体的成果につながったモデルケースの一つといえよう。


注:
政府系機関、地域の金融機関や商工会議所など国内各地域の企業支援機関が連携し、輸出や海外進出を図る中堅・中小企業に対して総合的な支援を行う。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
小林 恵介(こばやし けいすけ)