【中国・潮流】4年ぶりの駐在
北京の変化と日中関係

2017年11月1日

前回の駐在(2011年~2013年)を終えて帰国してから4年余り、北京の変化の速さに驚かされる毎日だ。スマホ(スマートフォン)での支払いやシェア自転車の普及については、日本でもたびたび報道されていて知ってはいたが、実際に使ってみると、想像した以上に便利だ。現金やデビットカードを使う人もいるが、極めて少数であり、また、自前の自転車に乗っている人は1割にも満たない。スマホ支払いの利用者は、アリペイ(支付宝)が3億人を、wechat pay(微信支付)は4億人を突破したといい、報道によれば、シェア自転車のサービスは2016年秋から始まってわずか1年のうちに、全国で1600万台(北京は235万台)、延べ利用者は15億人以上にまで普及した。

日本国内では、スマホ決済についてはセキュリティー面での不安が、シェア自転車については放置によって交通を妨げることが指摘されるが、前者については、利用者において、スマホ決済用の銀行口座を別に設ける、チャージ金額を最小限にするなどそれぞれ対策を講じているし、後者については参入業者の淘汰(とうた)や地方政府による規制によって以前より改善しているという。

北京というと必ず大気汚染を心配されるし、実際に汚染が目立つ日はまだあるが、筆者の実感としては前回勤務時から着実に改善している。北京市環境保護局のデータでは、今年8月のPM2.5平均値は1立方メートルあたり38マイクログラムで、40を下回ったのは観測開始以来初めてだ。ただ、汚染がひどいのは冬であり、ここ数年の12月のデータを見ると相当の幅で上下が見られるので、今冬のデータに注目したい。

変化を実感するには、その地域に滞在するのが一番であるが、わが国から中国を訪れる旅行者が減っているだけでなく、在留邦人数も減少している。中国における在留法人数(括弧内は北京市)は、平成24年の15万人(1万355人)から平成28年の12万8千人(8,450人)と、大幅に減少している(平成29年外務省海外在留邦人数調査統計)。

さらに北京では、家族を帯同しての赴任が大幅に減っているといい、これを裏付けるように、北京日本人学校の生徒数は、最大700人前後まで増えた約10年前から、現在は400人前後にまで減少している。ある日本企業の総代表によると、単身赴任者の増加で、かつては帰宅して配偶者から聞く話が仕事の上でも参考になったが、今はそういう機会がなくなったことは、仕事の上でもマイナスになることが懸念されるとのことである。

駐在員同士の情報交換はもちろん重要だが、中国人や、中国人と結婚して長く当地に住んでいる日本人などからも話を聞く機会を設ける必要性を痛感している。

執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 所長
堂ノ上 武夫(どうのうえ たけお)
1987年、通商産業省入省、在中国大使館書記官(1996~1999年)、通商産業省貿易局輸入課長補佐(1999~2001年)、九州経済産業局総務課長(2001~2003年)、在中国大使館参事官(2003~2007年)、経済産業省国会担当参事官(2007~2009年)、日中経済協会北京事務所長(2009~2011年)、在中国大使館公使(2011~2013年)、特許庁総務課長(2013~2014年)、特許庁総務部長(2014~2015年)、経済産業省大臣官房審議官(2015~2017年)等を経て、2017年から現職。