拡大するメキシコのビデオゲーム市場

2018年8月16日

情報通信技術(ICT)に関するコンサルティング・調査会社のコンペティティブ・インテリジェンス・ユニット(CIU)によると、メキシコのビデオゲーム市場は2017年に前年比8.4%拡大し、2017年末時点の利用者数は前年末比15.1%増加した。以前はハードウエア(コンソール)の市場が比較的大きかったが、近年はスマートフォンを通じたゲームの利用が増えており、スマホ向けなどのソフトウエア市場の拡大が目立つ。メキシコ市、ハリスコ州などでは国内のゲーム制作会社も成長してきており、外国企業との共同制作の事例も増えてきた。

市場規模は7年間で実質6割増

CIUが2018年4月23日付で発表したレポートによると、2017年末時点のビデオゲーム利用者数は6,870万人に達し、前年末比15.1%増加している。国民の55.4%が何らかのゲームユーザーということになる。また、2017年の市場規模(推定値)は247億7,100万ペソ(約1,461億円、1ペソ=約5.9円、2017年期中平均)に達し、前年比8.4%の増加となった(図1参照)。2017年の販売規模を8年前の2009年(112億7,800万ペソ)と比較すると、名目ペソ建てではほぼ倍増しているが、国立統計地理情報院(INEGI)が発表する消費者物価指数(CPI)をみると、この期間でCPIは35.6%上昇しているため、インフレを加味した実質販売額で計算すると62.0%の増加となる。

図1:メキシコのビデオゲーム小売販売額
販売額は2009年に112億7,800万ドル、2010年に128億5,700万ドル、2011年に141億9,700万ドル、2012年に152億9,000万ドル、2013年に165億4,800万ドル、2014年に179億2,500万ドル、2015年に201億6,700万ドル、2016年に228億5,200万ドル、2017年に247億7,100万ドル。2017年の数値は推定値であり、出所はコンペティティブ・インテリジェンス・ユニット(CIU)。
注:
2017年は推定値。
出所:
Competitive Intelligence Unit

ゲームをするために利用する機器の比率をみると、2017年第1四半期時点で66%がスマホを利用しており、2013年(31%)と比較すると倍増している(図2参照)。スマホ向けのゲームアプリの販売が、近年のゲーム市場の拡大を支えているのが分かる。

図2:ビデオゲームのために利用する機器(複数回答)
複数回答。ゲームをするために最も利用率が高い機器はスマートフォンだが、2013年の31%から2017年には66%に拡大している。次に利用率が高いのはゲーム機であり、2013年が25%、2017年が33%。タブレットと回答した比率は2013年に6%、2017年に12%。PCと回答した比率は2013年に24%、2017年に10%。携帯ゲーム機、その他という選択肢は2013年時点の調査しか存在せず、それぞれ8%、6%であった。出所は図1と同じCIU。
出所:
Competitive Intelligence Unit

スマホを通じたゲーム利用が増えている背景には、近年、メキシコでスマホの販売価格が下落し、普及率が拡大したことがある。CIUによると、2016年下半期のスマホの平均購入価格は135.78ドルとなり、前年同期の155.73ドルから20ドルほど下落している。2014年同期の189.90ドルと比べると50ドル以上も低い。ただし、2017年はペソの対ドル為替レートの下落により、ペソ建て販売価格は上昇し、スマホの普及拡大にも一服感がみられた。CIUによると、2017年末時点で利用されている携帯電話機の86%(9,950万回線)がスマホであり、前年末から6ポイント増加している。

ハードウエアからソフトウエアに

ユーロモニター・インターナショナルによると、メキシコのビデオゲーム市場の規模は2017年に世界第9位の14億5,600万ドルで、そのうちの25.4%(3億7,000万ドル)がゲーム機などのハードウエア、残りの74.6%(10億8,600万ドル)がソフトウエアの市場である(表参照)。2017年の1人当たりの年間消費額は11.8ドルであり、新興国の中では比較的高く、中国(21.6ドル)、アルゼンチン(12.5ドル)、ロシア(12.1ドル)には及ばないものの、ブラジル(8.7ドル)、トルコ(8.4ドル)、南アフリカ共和国(6.8ドル)、マレーシア(5.7ドル)、タイ(5.4ドル)、インドネシア(3.5ドル)、フィリピン(2.5ドル)、インド(0.4ドル)を上回る。特に、ハードウエアの1人当たり消費額でみると3.0ドルであり、アルゼンチンの5.3ドルには及ばないものの、ロシア(1.6ドル)や中国(0.4ドル)を上回る。

ユーロモニターによると、メキシコは新興国の中では伝統的にハードウエアの市場規模が大きく、他の新興国と比べると全体の販売額に占めるハードウエアの比率が高い(インドネシア1.7%、中国2.0%、ロシア13.5%、ブラジル21.6%)。ただし、今後は他国と同様に、スマートフォンなどのモバイル・ゲームアプリが販売の主流になるとみられており、過去10年間の伸び率でみてもその傾向は顕著である。

表:主要国のビデオゲーム市場(小売販売額)(単位:100万ドル)(△はマイナス値)
国名 分野 2007年
金額
2009年
金額
2011年
金額
2013年
金額
2015年
金額
2017年
金額
伸び率
17/07年
米国 全体 20,839 22,972 22,548 23,939 26,899 30,295 45.4
階層レベル2の項目 ハードウェア 9,062 9,570 7,860 6,479 7,380 7,757 △ 14.4
階層レベル2の項目 ソフトウェア 11,777 13,403 14,688 17,459 19,519 22,537 91.4
中国 全体 1,454 3,691 6,909 13,008 22,022 29,897 1,955.9
階層レベル2の項目 ハードウェア 33 47 62 73 364 606 1,741.0
階層レベル2の項目 ソフトウェア 1,421 3,644 6,846 12,935 21,658 29,291 1,960.8
日本 全体 6,840 6,932 8,815 10,929 11,279 13,593 98.7
階層レベル2の項目 ハードウェア 2,912 2,595 2,453 1,877 1,329 2,493 △ 14.4
階層レベル2の項目 ソフトウェア 3,928 4,337 6,362 9,052 9,949 11,099 182.6
英国 全体 6,751 6,238 5,526 5,589 6,391 5,715 △ 15.4
階層レベル2の項目 ハードウェア 3,173 2,757 1,986 1,753 1,878 1,499 △ 52.7
階層レベル2の項目 ソフトウェア 3,578 3,481 3,539 3,836 4,512 4,215 17.8
フランス 全体 4,002 4,246 3,889 3,556 3,278 3,996 △ 0.1
階層レベル2の項目 ハードウェア 1,606 1,865 1,428 1,214 1,220 1,359 △ 15.3
階層レベル2の項目 ソフトウェア 2,397 2,381 2,461 2,342 2,057 2,637 10.0
ドイツ 全体 2,679 3,307 3,467 3,362 3,229 3,753 40.1
階層レベル2の項目 ハードウェア 1,425 1,481 1,260 1,085 1,070 1,399 △ 1.8
階層レベル2の項目 ソフトウェア 1,255 1,826 2,207 2,277 2,159 2,354 87.6
ブラジル 全体 226 381 854 1,465 1,337 1,811 700.9
階層レベル2の項目 ハードウェア 119 160 304 488 361 391 227.6
階層レベル2の項目 ソフトウェア 107 221 550 976 976 1,420 1,230.5
ロシア 全体 466 439 950 1,864 1,373 1,752 276.1
階層レベル2の項目 ハードウェア 132 103 218 274 198 236 78.7
階層レベル2の項目 ソフトウェア 334 336 733 1,590 1,174 1,516 354.3
メキシコ 全体 683 697 922 1,314 1,469 1,456 113.3
階層レベル2の項目 ハードウェア 394 382 382 462 489 370 △ 6.0
階層レベル2の項目 ソフトウェア 289 315 540 852 980 1,086 275.9
インドネシア 全体 32 58 207 412 629 929 2,775.5
階層レベル2の項目 ハードウェア 11 15 27 22 17 16 45.5
階層レベル2の項目 ソフトウェア 21 44 180 390 612 913 4,185.4
出所:
Euromonitor International

ハードウエアの市場では、日本のソニー(Playstation)と任天堂(Wii)、米国のマイクロソフト(Xbox)がシェア争いを繰り広げている。過去6年間のシェアをみると、任天堂は20%強のシェアで推移しているが、ソニーとマイクロソフトの順位の変動が激しい。ここ数年はソニーが優位に立っているようだ(図3参照)。

図3:メキシコのゲーム機市場シェア
ソニーのシェアは2009に30.4%、2010年に29.0%、2011年に35.7%、2012年に34.1%、2013年に37.8%、2014年に39.7%、2015年に38.5%、2016年に39.5%、2017年に40.6%。マイクロソフトの市場シェアは2009に43.5%、2010年に49.1%、2011年に41.4%、2012年に36.5%、2013年に36.4%、2014年に33.0%、2015年に31.3%、2016年に30.6%、2017年に28.5%。任天堂の市場シェアは2009に19.9%、2010年に15.2%、2011年に16.7%、2012年に24.0%、2013年に20.4%、2014年に21.7%、2015年に24.3%、2016年に24.1%、2017年に23.4%。出所はユーロモニター・インターナショナル。
出所:
Euroonitor International

他方、ソフトウエアの市場は競争が激しい。ユーロモニターによると、ここ数年間、販売額第1位をキープしているのは、サッカーゲームなどスポーツゲームの売り上げが大きい米国のエレクトロニック・アーツである。そのほか、アクティビジョン・ブリザード、マイクロソフト、ライオットゲームズなどの米国企業のシェアが高い。日本企業では任天堂(2017年のシェア1.7%)、コナミ(1.2%)、スクエア・エニックス(0.5%)などのシェアが比較的高い。

クリエーティブ産業の振興に力を入れるメキシコ政府

メキシコ政府は次世代の成長産業としてクリエーティブ産業の振興に力をいれている。クリエーティブ産業に対する支援策としては経済省、国家起業庁(INADEM)、国家科学技術審議会(CONACYT)のプログラムが活用されている。全て公募による補助金の支給であり、INADEMの支援は主に革新的なビジネスモデルや商品・サービスの開発に対するもの、CONACYTは主に革新的な内容の研究開発を支援するための補助金である。

経済省の支援策は、2002年から実施されている歴史あるプログラムであり、「プロソフト(Prosoft)」と呼ばれる。メキシコにおけるソフトウエア開発に対して補助金を支給するもので、対象となるソフトウエアの中にはビデオゲームなどのデジタル技術を活用したメディアコンテンツも含まれる。経済省はProsoftを通じて、2004~2016年の13年間で合計4,225件のソフト開発プロジェクトに合計73億9,130万ペソの補助金を支給している。毎年の補助(支援)件数はおおむね300~500件の間で変動しているが、補助金支給総額は近年増加傾向にある(図4参照)。Prosoftの対象となったプロジェクトには、州政府も補助を出すことがあり、2013~2016年の4年間では連邦政府(経済省)の補助金の15.0%に相当する4億4,190万ペソの補助金が州政府から支給されている。

図4:Prosoftによる補助金支給額と補助件数
補助金支給額は2004年に1億3,970万ペソ、2005年に1億9,250万ペソ、2006年に4億2,860万ペソ、2007年に4億3,820万ペソ、2008年に6億3,070万ペソ、2009年に5億2,510万ペソ、2010年に6億6,640万ペソ、2011年に6億7,610万ペソ、2012年に7億5,340万ペソ、2013年に6億7,610万ペソ、2014年に6億9,200万ペソ、2015年に7億2,570万ペソ、2016年に8億4,670万ペソ。補助件数は2004年に68件、2005年に181件、2006年に334件、2007年に487件、2008年に494件、2009年に360件、2010年に160件、2011年に391件、2012年に392件、2013年に226件、2014年に365件、2015年に371件、2016年に396件。出所はメキシコ経済省。
出所:
メキシコ経済省

メキシコの州の中で、特にクリエーティブ産業の支援を積極的に行っているのはハリスコ州である。ハリスコ州は2012年、連邦政府の呼び掛けに応じ、州都グアダラハラ市とともにデジタル・クリエーティブ・シティー(Ciudad Creativa Digital:CCD)計画を開始した。その後の連邦政府および州政府の政権交代により、CCD計画は一時中断したが、2014年8月に現政権下で計画を再始動、同年9月には信託(第3セクター)を設立してグアダラハラ市を映画やアニメーション(双方ともデジタル技術を活用したもの)、ビデオゲームや映像効果などのクリエーティブ産業の開発拠点とするための振興活動を開始した。CCDは、最終的にはグアダラハラ中心部にデータセンター、クリエーティブ産業の教育機関、スタートアップなどを育成するインキュベーションセンターを建設する計画となっており、モレロス公園やアラメダ通りなどの都市再開発が始まっている。また、業界団体が行う研修やマッチングイベントに補助金を支給しており、同産業の育成に重要な役割を担いつつある。

ハリスコ州には、クリエーティブ産業の振興を担う業界団体も設立された。2015年4月に発足したハリスコ州クリエーティブ産業協会(AJIC)がそれだ。アニメーション、視覚効果、ビデオゲーム、映画(バーチャルリアリティーなどの視覚効果やアニメを活用した映画)の4分野で23社が会員として加入している。国内外の展示会やイベントに会員企業を取りまとめて参加するほか、年間15本ぐらいの研修や人材育成プログラムを実施している。展示会参加や研修には政府機関(ProMéxicoやCCD)の支援を取り付けているが、AJICが補助金の支給を受けるのではなく、政府機関と会員企業の橋渡し役を務めている。AJICのガブリエル・トーレス会長によると、ハリスコ州のクリエーティブ産業ではアニメーション、映画、ゲームの順にポテンシャルが高い。アニメーションの優位性が高いのは、アニメを専門で教える教育機関の存在があるからだという。伝統的には映画分野が強く、ハリスコ州には20年以上の映画教育の歴史がある。近年はデジタル技術が進歩し、映画のデジタル化が進んでいる。

AJICは2018年4月、「サブライム(Sublime)」と呼ばれるクリエーティブ産業に関連するハリスコ州企業と外国・他州企業とのマッチングイベントを初開催した。4月23~25日の会期に17回のセミナー・カンファレンスを開催し、外国から30人を招聘(しょうへい)、100人を超える業界リーダーの参加があり、600回を超えるB2Bの商談をアレンジした。会場は複数の会場を使い、マッチングイベントはハリスコ州企業のスタジオ内でも行い、外国からの招聘者や参加者による現場視察を兼ねた。会期中に締結された外国企業・他州企業とハリスコ州内企業との間の契約は7件、中期的な投資額見通しは2,100万ペソに及ぶ。

外国企業との共同制作に乗り出すメキシコのゲームスタジオ

メキシコのビデオゲーム制作会社の中には、外国企業との共同制作に力を入れる企業が出始めている。ハイパービアード(HyperBeard Games)は2014年初に設立されたメキシコの独立系ゲーム制作会社。アントニオ・ウリベとフアン・パブロ・リエベリングの両氏が創設者だ。2016年3月に米国のApps-O-Ramaと提携して、「クレプトキャッツ(KleptoCats)」を開発。100万ダウンロードを獲得して、世界の無料アプリのトップ10にランクインした。同アプリの大成功もあり、2016年6月に同社はApps-O-Ramaに買収された。2018年3月には、大ヒットアプリの続編「クレプトキャッツ2(KleptoCats2)」をリリースしている。

グアダラハラ市のラルバ(Larva Game Studios)は2007年に設立されたメキシコ資本のゲーム制作会社。2008~2010年の間はコロンビアのゲーム制作会社(Immersion Games)の傘下にあり、その時期にX-Box向けのAAAタイトルのプロレスゲーム(Lucha Libre AAA: Heroes del Ring)を開発し、コナミが発売した。2011年に再び独立、クラウドファンディングで資金を集め、主にモバイル端末向けのソフトを開発してきた。2015年に自社所有の知的財産であるオリジナルコンテンツ・モバイルゲームの「Night Vigilante」をリリースした。現在、Nintendo Switch向けに侍のネコをキャラクターにしたアクションゲームを開発中。外国企業との共同制作実績としては米国やカナダとの経験が豊富だが、中国企業との共同制作経験もあり、将来的には日本企業との共同制作を実現したいと考えている。

ブロミオ(Desarrollo Bromio)は、2013年にメキシコのプエブラ州で設立された小規模ゲームスタジオで、設立当初は3人だった従業員が現時点で9人と順調に成長している。製作したゲームはモバイルゲームが3タイトル、コンソール向けが1タイトル。コンソール向けに開発された「PATO BOX」がヒットし、日本の雑誌(電撃Play Station、2018年4月12日および5月10日号掲載)にも取り上げられるなど高い評価を受けている。「PATO BOX」の製作に当たっては、同じくプエブラ州の2think design Studioと共同制作を行い、3Dとモノクロを組み合わせたユニークなグラフィックデザインが特徴である。現時点で外国企業との共同開発経験はないものの、日本企業との共同開発に強い関心を示している。

なお、共同制作ではないが、メキシコの会社が制作したビデオゲームを日本企業が販売した事例もある。グアナファト州レオン市にあるゲームコダー(GameCoder)というバーチャルリアリティー(仮想現実)・ゲームを得意とする会社が開発したアトラクティオ(Attractio)というPS4、PSVITA、PC向けの一人称視点パズル・シューティングゲームは、バンダイナムコエンターテインメントから2016年1月19日に販売された。バンダイナムコから販売された中南米企業制作による最初のゲームタイトルとなった。

メキシコのビデオゲーム市場の現状と人気タイトル、主要プレーヤーなどに関する情報は、調査レポート「メキシココンテンツ市場調査2017年版(ゲーム編)」を参照。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所 次長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部(1998~2002年)、海外調査部中南米課(2002~2006年)、ジェトロ・メキシコ事務所(2006~2012年)、海外調査部米州課(2012~2018年)を経て2018年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。