中国の2017年対外投資(6)香港向けフロー投資は6年ぶりに減少

2018年12月27日

中国商務部などが発表した2017年度の「中国対外直接投資統計公報」(以下、「公報」)によると、2017年の中国から香港への対外直接投資額(フロー)は、20.2%減の911億5,300万ドルと、2011年以来6年ぶりに減少に転じた(図参照)。

図:中国の香港への対外直接投資推移(フロー)
対香港の直接投資額は2010年が385億521万ドル、2011年が356億5,484万ドル、2012年が512億3,844万ドル、2013年が628億2,378万ドル、2014年が708億6,730万ドル、2015年が897億8,978万ドル、2016年が1,142億3,259万ドルと1,000億ドルを突破した。2017年は911億5,300万ドルと、6年ぶりに減少に転じた。香港の構成比は2010年が56%、2011年が47.8%、2012年が58.4%、2013年が58.3%、2014年が57.6%、2015年が61.6%、2016年が58.2%、2017年が57.6%となった。2015年をピークに2016~2017年にかけて2年連続で減少した。
出所:
2017年度中国対外直接投資統計公報を基にジェトロ作成

2017年の中国の対外直接投資総額に占める香港の構成比は57.6%(前年比0.6ポイント減)と、国・地域別で最大だった。構成比は2年連続で低下したものの、依然として2位(2016年:米国の8.7%、2017年:ASEANの8.9%)以下を大きく引き離し、首位を維持した。

2017年の対香港の直接投資額が減少した要因について、香港投資推廣署(InvestHK:香港の投資誘致機関)の担当者はジェトロ香港事務所が実施したインタビューに対し、「対外投資の合理化および最適化の推進を目的とした、中国政府による対外投資への規制強化の流れが香港への直接投資の動向にも影響した模様」との見方を示した。

2017年の中国企業による対香港直接投資(フロー)を業種別にみると、1位がリース・ビジネスサービス業(金額:407億6,750万ドル、構成比:44.7%)(注)、2位が金融業(188億6,426万ドル、20.7%)、3位が卸・小売業(94億6,649万ドル、10.4%)だった(表1参照)。このうち、1位のリース・ビジネスサービス業への直接投資額は前年比で16.0%減、2位の金融業は19.4%増となった。中国企業による対外直接投資総額の業種別でも、リース・ビジネスサービス業への投資額は17.5%減、金融業への投資額は25.9%増と、対外直接投資総額の約6割を占める香港への対外投資と同様の傾向を示している。

表1:2016年および2017年における対香港直接投資の上位7業種(フロー) (単位:100万ドル, %)(△はマイナス値)
業種 2016年 2017年)
金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比
リース・ビジネスサービス業 48,506 42.5 35.9 40,768 44.7 △ 16.0
金融業 15,806 13.8 △ 3.9 18,864 20.7 19.4
卸・小売業 14,931 13.1 4.3 9,466 10.4 △ 36.6
製造業 10,697 9.4 85.0 6,348 7.0 △ 40.7
不動産業 9,244 8.1 68.4 4,666 5.1 △ 49.5
交通運輸および倉庫・郵便業 1,453 1.3 △ 8.5 3,363 3.7 131.5
採鉱業 -3,023 -2.6 △ 247.0 1,327 1.5 △ 143.9
合計(その他を含む) 114,233 100.0 27.2 91,153 100.0 △ 20.2
出所:
2016~17年度中国対外直接投資統計公報を基にジェトロ作成

直接投資残高は1兆ドルに迫る

中国企業による対香港向け直接投資残高(ストック)は2017年末時点で9,812億6,600万ドルと1兆ドル台に迫り、全体の54.2%を占めている。業種別にみると、1位がリース・ビジネスサービス業(金額:4,901億2,500万ドル、構成比:49.9%)、2位が卸・小売業(1,372億1,000万ドル、14.0%)、3位が金融業(1,231億6,700万ドル、12.6%)となった(表2参照)。香港に設立された中国企業の現地法人数は、2017年末時点で1万2,000社を超えた。

表2:2016年および2017年における対香港直接投資の上位7業種(ストック) (単位:100万ドル, %)(△はマイナス値)
業種 2016年 2017年
金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比
リース・ビジネスサービス業 372,493 47.7 18.8 490,125 49.9 31.6
卸・小売業 105,046 13.5 16.5 137,210 14.0 30.6
金融業 103,934 13.3 15.7 123,167 12.6 18.5
採鉱業 47,806 6.1 △ 7.2 53,591 5.5 12.1
製造業 39,095 5.0 56.2 43,609 4.4 11.5
交通運輸および倉庫・郵便業 29,795 3.8 2.5 38,485 3.9 29.2
不動産業 27,453 3.5 34.7 35,879 3.7 30.7
合計(その他を含む) 780,745 100.0 18.9 981,266 100.0 25.7
出所:
2016~17年度中国対外直接投資統計公報を基にジェトロ作成

M&A件数、2017年は大幅減に

中国企業による香港企業に対するM&Aの動向をみると、2017年は前年比76.2%減の39件(28億8,000万ドル)と大幅に減少した(2016年は30.2%増の164件、M&A金額153億7,400万ドル)。

一方で、中国企業が香港に設立した会社を介した第三国への再投資が、2017年も引き続き活発に行われている。例えば、不動産大手の万科企業の全額出資子会社である万科地産(香港)は2017年7月、中銀集団投資などと共同で、シンガポールの物流施設会社グローバル・ロジスティック・プロパティーズ(GLP)の全株式を取得した(取得金額:159億シンガポール・ドル)。

また、パソコン大手のレノボ・グループ(聯想集団)の親会社である聯想控股は2017年9月、同社全額出資の香港子会社を通じて、ルクセンブルクの大手銀行バンク・インターナショナル・ア・ルクセンブルク(BIL)の株式90%を取得すると発表した(取得金額:14億8,000万ユーロ)。

さらに、証券大手の中国銀河証券は、同社全額出資の香港子会社である中国銀河国際金融を通じて、マレーシアの金融大手CIMBグループ傘下のCIMB セキュリティーズ・インターナショナルの株式50%を取得すると発表した(2017年6月、取得金額:約1億6,700万シンガポール・ドル)。

InvestHK、中国企業の対香港投資を積極的に支援

InvestHKは、香港への投資誘致活動を積極的に展開している政府機関である。同機関が2017年に支援した計400件以上の投資案件のうち、約2割の86件が中国企業の案件であった。加えてInvestHKは、中国において香港への投資誘致のイベントを積極的に開催している。2017年には、北京市をはじめ計5都市で中国政府が推進する「一帯一路」構想関連の香港の活用を呼び掛けるセミナーを開催したほか、遼寧省瀋陽市と山東省済南市でも香港への投資を呼び掛けるセミナーを開催した。

InvestHKが2017年に中国企業の香港への投資を支援した案件として、スマートロボの開発・製造を行う上海智臻智能網絡科技が、2017年1月に香港子会社を設立した事例が挙げられる。同社は、香港、マカオおよび台湾をはじめとした海外での事業を展開するに当たり、香港の子会社を研究開発および販売活動の拠点と位置付け、香港の大学と連携してスマートロボの共同開発を行っている。


建設が進む湾仔エリア(ジェトロ撮影)

注:
「公報」によれば、『リース・ビジネスサービス業への投資は主に「持ち株会社への投資」で構成される』と記載されている。
執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所 経済調査・企業支援部長
吉田 和仁(よしだ かずひと)
金融庁勤務を経て、2016年7月より現職。