米国向け輸出解禁を機に、和歌山県産柿が初輸出を実現

2018年3月16日

日本産カキ(柿)生果実は、2017年10月12日付で植物検疫条件を満たすことを条件に、日本から米国への輸出が可能となった。これを受け、和歌山県が米国・ロサンゼルスで日本産柿のPRを行った。そこで見えてきた柿輸出の可能性と課題を報告する。

柿の米国向け輸出が解禁

米国はこれまで、米国が侵入を警戒する病害虫が日本で発生していることを理由に日本産柿生果実の輸入を禁止してきたが、農林水産省が米国の植物検疫当局と技術的協議を積み重ねてきた結果、2017年9月12日付で輸入に係る米国連邦規則が公示され、その1カ月後に輸入が解禁された。

和歌山県産の柿が初輸出を実現

日本産柿の最大産地である和歌山県は、1980年代から対米輸出解禁を国に働き掛けてきたところ、過去数年間に渡る米国側の輸入解禁の動きに対応して、(1)生鮮維持を目的とした柿の輸送実験を実施、(2)日本国内で唯一園地登録を行う、(3)農薬規制への対応を行うなど十分な準備を行ってきた。

これら準備を踏まえ、和歌山県、JAグループ和歌山、ジェトロの3者はこのたび、和歌山県産の柿の米国向け初輸出を実現すべく、米国でのPR事業を企画。具体的には、船便での輸送期間が短くかつアジア系米国人が多く居住する米国・ロサンゼルスをターゲットに、昨年12月から本年1月にかけて以下五つのプロモーションを実施した。

  1. 2017年12月5日、在ロサンゼルス日本国総領事公邸における天皇誕生日祝賀レセプションにてPR。
  2. 2018年1月12日、ビバリーヒルズのレストランにてプロ向けセミナーおよび試食会を実施。
  3. 同年1月13日~15日、日系スーパー6店舗(トーランス2店、ガーデナ1店、サンタモニカ1店、ソーテル1店、コスタメサ1店)にてテスト販売および試食PRを実施。
  4. 同年1月13日~20日、日本産食材サポーター店(高級和食レストラン)4店舗にて柿メニューを提供。
  5. 同年1月17日、スシ・シェフ・インスティテュート(日本食シェフ養成料理学校)にて、柿の調理デモンストレーションセミナーおよび試食イベントを実施。

日系スーパーでのテスト販売(ジェトロ撮影)

料理への柿の活用に新鮮な驚き

各プロモーションの概要は以下のとおりだが、特に柿を料理に活用するという点が新鮮かつ興味関心を引いた結果となった。

  1. 天皇誕生日祝賀レセプションでは、約100個の柿をカットして来場者に提供した。在米歴が長い日本人からは、慣れ親しんだ大きく甘い日本の柿を米国で食べられる事への喜びの声が多数上がった。また、多数の米国人来場者から、日本産柿を入手できる店舗について問い合わせがあり、今後需要が出てくる可能性の高さが伺えた。
  2. プロ向けセミナーでは、日本産青果物に興味を示すレストランシェフや小売店の調達担当者、商社・卸業者や報道関係者など約30名を招き、JA紀北かわかみの宮崎卓郎・代表理事組合長が日本産柿の特徴や栽培技術、機能性などについて説明すると共に、創作柿料理の試食を通じてその魅力を発信した。試食メニューは4品(あん肝のみぞれ柿餡(あん)かけ、柿とくらげのごま酢あえ、柿の天ぷら、さけの棒ずし柿の酢〆載せ)で構成され、参加者は今まで食べたことのない組み合わせや味の素晴らしさに驚くと共に、柿を単にそのまま食べるのではなく、工夫次第で料理の一部に取り入れられることに新鮮な発見を覚えたとのコメントが寄せられた。なお、当日の様子はNHKおよび関西テレビにより日本でも放映された。

    プロ向けセミナーで提供した「柿とくらげのごま酢あえ」(ジェトロ撮影)
  3. スーパー店頭テスト販売では、今回米国に輸出した柿100ケース0.7トンを3日間で全量完売した。特筆すべきは、日本人駐在員が多いトーランスエリアよりも非日系の顧客が多いサンタモニカエリアでの販売が好調だった点で、関係者にとって非日系顧客向け販売の手応えを感じる結果となった。
  4. レストランでの柿メニュー提供では、各店舗が独自に考案した柿メニューを1週間の期間限定で提供した。協力店舗はいずれも非日系富裕層の顧客を多く持つロサンゼルス市内の高級和食レストランで、日本産柿の上品な甘みが好評を博した。また、サラダや柿の葉ずしなどのアラカルトをはじめ、抹茶クリームと合わせた創作デザート、ウオッカベースの柿カクテルなど、食事のあらゆる場面で活用できる柿の素材としての実用性が発揮された。
  5. スシ・シェフ・インスティテュート での調理デモには、レストランシェフ、経営者、同校生徒など約20名が出席し、日本産柿の特徴、アイデアに富んだデモメニュー全6種(大根と柿のなます、柿とアルグラのサラダ、白身魚と柿のカルパッチョ、生ウニと柿のジュレ、マグロと柿のからしみそあえ、柿と小豆の流しゼリー)が紹介された。参加者からは、柿が持つ鮮やかな色は料理の見栄えを良くするので今後使いたい、日本的なメニューに限らない広い調理法に可能性を感じたという声が多く寄せられた。また、今回は白鶴酒造と連携し、日本酒と柿のペアリングも実施。純米大吟醸からスパークリング日本酒まで、それぞれの柿メニューの特徴に合わせた日本酒が提供された。

柿輸出の今後の課題

前述の通り、和歌山県産柿のプロモーションは大きな成果を上げる一方、いくつかの課題も見えてきた。以下3点紹介する。

  1. 通関の円滑化
    今回の柿の通関にあたっては、空輸便は特段問題はなかったものの、日本産柿の初のコンテナ輸入ということもあってか、通関検疫で想定(1週間)以上の期間を要する結果となった。また、検疫検査でコンテナに虫が混入していたためさらに通関が留保され、店頭販売への影響が懸念される事態となった。かかる事態に対し、在ロサンゼルス日本国総領事館およびジェトロ、和歌山関係者の連携により関係当局への調整を図った結果、対象害虫でないことが判明し、無事通関手続きが完了した。次回通関に当たっては、今回の事態をも考慮に入れた時間確保、関係当局との連絡調整円滑化に留意する必要がある。
  2. 米国産柿との差別化
    米国では柿はポピュラーな果実であり、これら米国産柿との差別化が重要なポイントとなる。具体的には、米国産柿と日本産柿の違い、日本産柿ならではの新たな味わい方、柿にまつわる魅力的なストーリー、価格や納期などのビジネス情報の充実が求められる。
  3. オールジャパンによる継続的な取り組み
    他の農林水産品と同様、柿も一過性の取り組みで終わらせず、継続的な取り組みが重要。そのためにも、今回の和歌山県産柿の取り組みを契機として、その経験を他産地にも共有の上、産地連携によるオールジャパンでの継続的取り組みに発展させていくことが肝要。

日本から米国への果実輸出は現在、以下表のとおり、なしや温州みかんなどの一部品目のみが一定条件の下で認められている状況であり、今回の輸出解禁を受けた和歌山県産柿の初輸出は日本産果実の対米輸出という点でも大きな一歩となった。

表:米国(本土)品目別検疫条件一覧(果実)
輸出品目 主な植物検疫条件
カキ 二国間合意による条件を満たすことが必要です。
(主な条件:生産地域及び生産園地の登録、栽培期間中の病害虫防除及び園地検査、選果こん包施設の登録)
キウイフルーツ 米国が発給する輸入許可証の取得が必要です。
ただし、奄美諸島、小笠原群島、琉球諸島、トカラ列島、火山列島で生産されたものは輸出できません。
サクランボ 米国が輸入を禁止しています。
日本ナシ 二国間合意による条件を満たすことが必要です。
(主な条件:品種の限定、生産地域の指定、栽培期間中の園地検査)
品種は「ゴールド二十世紀」、「二十世紀」、「幸水」、「新興」、「新世紀」、「長十郎」、「新高」及び「豊水」
西洋ナシ 米国が輸入を禁止しています。
ビワ 米国が輸入を禁止しています。
ブドウ 米国が輸入を禁止しています。
ウンシュウミカン 二国間合意による条件を満たすことが必要です。
(主な条件:選果場及び表面消毒実施こん包施設の指定・登録、表面殺菌。なお、米国かんきつ商業生産州向けは別途消毒が必要。九州産(福岡、佐賀、長崎及び熊本県)は別途ミカンバエを対象とした検疫措置を含む条件を満たすこと及び消毒が必要。)
モモ 米国が輸入を禁止しています。
リンゴ 二国間合意による条件を満たすことが必要です。
(主な条件:生産地域の指定、園地登録、園地検査、低温処理、消毒処理及び日米植物検疫当局の合同輸出検査)
出所:
農林水産省ウェブサイト
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所長
西本 敬一(にしもと けいいち)
1988年、ジェトロ入構。ジェトロ・ウィーン事務所、ジェトロ・ニューヨーク事務所次長、企画部総括審議役(地方創生推進担当)などを経て、2016年 8月より現職。地方自治体の海外施策に関する助言や各種情報の提供、県・県産品の海外でのPRも精力的に行っている。2017年 焼酎輸出促進協議会 in LA 創設。
執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所
友田 椋子(ともだ りょうこ)
2014年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課を経て、2017年3月より現職。