「長期介護十年計画2.0」で介護をより安心に(台湾)
高齢者の地域居住の実現目指す

2018年8月9日

台湾では、「高齢社会」の到来により長期介護を必要とする人口が一段と増加しつつある。一方、家庭での介護機能が徐々に低下する中で、家族の介護ストレスの高まりが社会・経済問題となっている。当局は長期的な介護需要や在宅介護の負担軽減のため、2017年1月から「長期介護十年計画2.0(2017~2026年)」(以下、「長期介護2.0」)を始め、長期介護のサービス体系の構築を進めている。

急速に進む少子高齢化

台湾ではどの程度少子高齢化が進んでいるのか。台湾内政部統計処によると、65歳以上人口の比率を示す高齢化率は2017年時点で13.9%となった(図参照)。2018年3月末時点で高齢化率は14.05%となり、行政院は正式に「高齢社会」に突入したことを明らかにしている(注1)。なお、高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」と定義されているが、台湾国家発展委員会の推計によれば、2027年に台湾の高齢化率は21.4%となり、「超高齢社会」に入ることになる。また、0~14歳の年少人口に対する65歳以上の老年人口の比率を示す老年化指数は98.9(2016年)から105.7(2017年)に上昇し、高齢者(65歳以上)が初めて子供(0~14歳)の数を上回ることとなった。

図:高齢化率、老年化指数の推移および将来の推計
2000~2017年までの実績値は内政部のデータ、2018~2030年までの推計値は国家発展委員会のデータ。 老年化指数(実績、内政部)は、2000年40.9、2005年52.0、2010年68.6、2015年92.2、2016年98.9、2017年105.7。 老年化指数(推計(中位推計)、国家発展委員会)は2018年111.2、2020年123.7、2022年136.4、2024年149.3、2026年161.6、2028年178.4、2030年195.5。 高齢化率(実績、内政部)は2000年8.6%、2005年9.7%、2010年10.7%、2015年12.5%、2016年13.2%、2017年13.9%。 高齢化率(推計(中位推計)、国家発展委員会)は2018年14.5%、2020年16.0%、2027年21.4%、2030年23.6%。
注:
高齢化率(%)=老年人口(65歳以上)÷総人口×100、老年化指数=老年人口(65歳以上)÷年少人口(0~14歳)×100。
出所:
2017年までは内政部、2018年以降は国家発展委員会

高品質、良心価格、普遍的な長期介護サービス体系の構築

こうした少子高齢化の急速な進展に伴い、当局は長期介護に関するサービス体系の構築に本腰を入れている。既に「長期介護2.0」(注2)の前身となる「長期介護十年計画(2007~2016年)」(以下、「長期介護1.0」)は、積極的に長期介護業務に取り組むことで一定の成果を上げていた。他方で、「長期介護サービス対象範囲の拡大」「長期介護人材の不足、訓練や能力開発の必要性」「深刻な予算不足」「長期介護政策の宣伝や普及の強化」など、改善すべき点も多く抱えていた。これらの点を含め高齢化社会(2017年時点)の長期介護問題に対応すべく、2017年1月から始めた「長期介護2.0」では、高齢者の地域居住(エイジング・イン・プレイス)の実現を目指し、家族、住まい、地域社会の支援から入所介護まで多様かつ継続的なサービスを提供し、介護サービス体系を普及させ、地域包括ケアコミュニティを構築し、介護ニーズのある人々と介護者の生活の質を向上させることを目的としている。

行政院は「長期介護2.0」の特徴として、(1)地域全体でのABC介護モデルによる高齢者の地域居住(エイジング・イン・プレイス)の実現、(2)サービス対象およびサービス項目の拡大、(3)「見つかる」「探しやすい」サービス、(4)介護プランに合わせた新しい給付および決済システムの4つを挙げている(表参照)。以下、これら4つの特徴について詳述する(注1、注2)。

表:「長期介護2.0」の特徴とポイント
特徴 ポイント
(1)地域全体でのABC介護モデルによる高齢者の地域居住(エイジング・イン・プレイス)の実現。
  • 長期介護サービス拠点が行っているサービスの統合
  • 必要なニーズを見逃さない
(2)サービス対象およびサービス項目の拡大。
  • サービス対象の拡大
  • サービス項目の拡大
(3)「見つかる」「探しやすい」サービス。
  • 単一窓口
  • 1966長期介護サービス専用ホットライン
(4)介護プランに合わせた新しい給付および決済システム。
  • 長期介護サービスを4つのカテゴリーに統合
  • さまざまな介護ニーズに対応
  • 時間数ではなくサービス項目で決定
出所:
「(行政院)政策と計画-重要政策」2018年6月8日付を基に作成

1.地域全体でのABC介護モデルによる高齢者の地域居住(エイジング・イン・プレイス)の実現

「長期介護2.0」では、高齢者の地域居住(エイジング・イン・プレイス)の実現という政策目標により、医療、看護、社会福祉、長期介護および地域基層組織を幅広く連携させ、(A)地域統合型サービスセンター、(B)複合型サービスセンター、(C)最寄りの長期介護ステーションを設立し、綿密な介護ネットワークを構築し、柔軟性や利便性のある介護サービスを提供する。2018年3月時点で、ABC各介護サービス拠点は(A)212拠点、(B)731拠点、(C)597拠点となっているが、2020年末までに(A)469拠点、(B)829拠点、(C)2,529拠点に拡大する予定である。

2.サービス対象およびサービス項目の拡大

「長期介護2.0」でのサービス対象は、これまでの「長期介護1.0」の対象者である(1)65歳以上の日常生活に支障のある高齢者、(2)55~64歳の日常生活に支障のある先住民(山間)、(3)50~64歳の障害者、(4)65歳以上のIADLs(手段的日常生活動作)の介助のみが必要な一人暮らしの高齢者に、(5)50歳以上の認知症患者、(6)50歳未満の障害者、(7)65歳以上の虚弱傾向のある高齢者、(8)55~64歳の日常生活に支障のある先住民(平地)を加えたものとなっている。

サービス項目も、これまでの8項目(1)介護サービス(訪問介護サービス、デイサービスなどを含む)、(2)送迎サービス、(3)食事サービス、(4)福祉用具の購入・レンタルおよび住宅のバリアフリー環境の改善、(5)訪問看護、(6)訪問リハビリテーション、(7)長期入所サービス、(8)レスパイトケアに、「地域統合型サービスセンター・複合型サービスセンター・最寄りの長期介護ステーションの設置」「認知症介護サービス」「小規模多機能サービス」「家族介護者の支援サービス拠点」「地域での予防介護」「生活機能低下の予防または生活機能低下・認知症を遅らせるサービス」「退院準備サービス」「在宅医療」などに関する項目を追加したものとなっている。

3.「見つかる」「探しやすい」サービス

「長期介護2.0」では、便利で長期的なサービスを提供するため、全国22カ所に長期介護管理センターとそのサブステーションを設置し、申請や要望・評価の受理、家族へのケアプラン策定支援などの業務を単一窓口で行うようにした。また、1966長期介護サービスホットラインが2017年11月24日に運用開始となり、ホットラインに電話すれば、長期介護管理センターの介護管理専門員が自宅を訪問し状況を確認した上で、必要に応じた長期介護サービスを受けられるようになった。

4.介護プランに合わせた新しい給付および決済システム

長期介護サービス給付および決済の新システムは2018年から正式に運用を開始した。新しいシステムでは、既存のサービスを「介護および専門サービス」「送迎サービス」「福祉用具サービスおよび住宅バリアフリー環境改善サービス」「レスパイトケア」の4つのカテゴリに整理した。介護管理専門員あるいは個別案件の管理師が個別の長期介護需要に応じて介護プランを調整し、特約したサービス会社により長期介護サービスを提供し、長期介護サービスをさらに専門的で多元的でニーズに合ったものとする。また、評価項目を増やし、あらゆる障害者を長期介護の対象者に含み、障害レベルを3級から8級に分け、さまざまな障害に対する介護ニーズに対応できるようにした。そして、介護従事者の待遇改善のため、料金をこれまでの時間数に基づく算出方法からサービス項目に基づく算出方法へと転換し、長期介護サービスをさらに効率的にする。

財源と人材の確保が急務

長期介護の財源を安定的に確保するため、「長期介護サービス法」第15条に、たばこ税、遺産税や贈与税の税率引き上げによる税収を長期介護の財源とすることが盛り込まれた(2017年1月26日改正公布、同年6月3日施行)。この改正に伴い、「遺産および贈与税法」の第13条、第19条および第58条第2項(注3)、「たばこ酒税法」の第7条、第20条および第20-1条がそれぞれ改正され(注4)、「遺産および贈与税法」は2017年5月12日から、「たばこ酒税法」は同年6月12日から税率の引き上げが行われた(注5)。遺産税と贈与税はこれまでの一律10%から3段階(10%、15%、20%)の累進課税となり、たばこ税は1,000本当たり590台湾元(約2,137円、1台湾元=約3.6円)から1,590台湾元に引き上げられた。なお、財政部は、2017年の贈与税額が34.0%増の295億台湾元、たばこ酒税額は8.8%増の496億台湾元となったことについて、どちらも税率の引き上げに伴う増収だったと明らかにしている(注6)。

また、当局は介護従事者の社会的地位の向上や賃金引き上げなど待遇改善の必要性について検討しており、財源確保と同様に人材確保を急務としている。既に衛生福利部は、訪問介護員(ホームヘルパー)の月給を3万2,000台湾元以上、時給を200台湾元以上とする基準を発表しているが(注7)、こうした待遇改善のほか、人材育成の強化を図るべく取り組んでいる。


注1:
「(行政院)政策と計画-重要政策」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 2018年6月8日付。
注2:
「長期介護十年計画2.0(2017~2026年)」(「(衛生福利部)長照政策専区」より)。
注3:
「遺産および贈与税法」(「全国法規資料庫」より)。
注4:
「たばこ酒税法」(「全国法規資料庫」より)。
注5:
「遺産および贈与税法」については「(財政部)新聞稿」2018年5月10日付、「たばこ酒税法」については「(財政部)新聞稿」2018年5月16日付を参照。
注6:
「(財政部)新聞稿」2018年1月10日付、「(財政部)財政統計通報(第11号)」2018年5月24日付を参照。
注7:
「(衛生福利部)107年衛生福利部新聞」2018年5月1日付。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2018年8月13日)
第10段落
(誤)遺産税や贈与税の税率引き上げによる税収を長期介護の財源とすることが盛り込まれた(2017年1月26日修正、同年6月3日施行)。
(正)遺産税や贈与税の税率引き上げによる税収を長期介護の財源とすることが盛り込まれた(2017年1月26日改正公布、同年6月3日施行)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 アドバイザー
嶋 亜弥子(しま あやこ)
2017年4月より現職。