【中国・潮流】今こそ求められる日本の環境技術や知識

2018年4月26日

今年2月に青島に着任した。到着した空港から街中に向かう高速道路、車の窓越しに見えたものは、工場の煙突から立ち上る白い水蒸気だった。数年前は灰色の煙を出している煙突を目にすることも多かったが、昨今環境規制が厳しくなったおかげで風景も一変したのだと感じた。

青島では今、6月に開催される「上海協力機構(SCO)首脳会議」開催に向けて、道路などのインフラ整備からマンションやビルの外壁清掃、果ては中国ならではの派手なイルミネーションの取り付けにいたるまで、さまざまな準備が進められている。そのような華々しい準備の一方で、頭を悩ませているのが生産や物流系の企業である。中国では大々的なイベントが開催されるたびに、その地域にある工場の操業停止や物流が制限されるというのはよくある話だ。企業にとっては、当然ながらどのくらいの期間にわたって影響を受けるのかが気になるところだ。最近、青島市内の日系企業の工場には各地区の「環境部局」の担当者が確認に来ることが増えていると聞く。これまでの経験から、青島で6月に会議があるからそのための事前確認だと思いがちだが、担当者に理由を聞いても「そうだ」とは言わないとのことで、警備上の都合があるからだとこちら側は勝手に推測するしかない。しかし、果たして本当にそうなのだろうか。

ここ青島の属する山東省の主要産業の一つに化学工業がある。化学工業は環境問題と特に密接な関係にあることから、同省は関連企業(生産そのものだけでなく、化学品を取り扱う物流・倉庫会社なども含まれる)を対象に「安全強化・環境保護・省エネルギー」を促すための評価制度を導入している。これら3項目のうち、一つでも最低ランクになると総合評価も最低になるという非常に厳しい制度で、是正命令が出された後、2018年6月までに基準をクリアできない企業は「閉鎖淘汰(とうた)企業」として公表され、操業停止や営業許可の取り消し等の行政措置が取られることになる。

また、中国全体でも2015年後半から過去に例がないほど環境に対する取り締まりが強化されている。2016年からはこれまで4回にわたって中央政府の環境保護部が各地方へ査察チームを送り、処罰の対象となった数は2017年だけでも合計約23万3,000件に上っている。これは当然のことながら日系企業を含む外資系企業も対象だ。現在の中国の環境問題に対する取り組みからは、かなりの本気度が伺える。以前は一過性の対応や従来型の方法で解決できたような問題も、今後はそうはいかなくなるだろう。人間は誰しも安心・安全な場所で生活をしたいものだ。中国もようやく国としてそういう場所を提供することが義務だということに気付いたのだろう。

中国のそうした姿勢は、海を隔てているとはいえ隣国であり、環境の変化の影響を受けやすい日本にとっても歓迎すべきことだ。また、それだけではなく今、日本は中国から求められている。かつて日本でも起きた公害などの深刻な環境問題をどう克服してきたか、まさにその経験から得た技術や知識を。

執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所長
松村 淑子(まつむら としこ)
1993年、ジェトロ入構。その後退職し、タンザニア(1998~2001年)、上海(2009~2012年)在住を経て、2012年、ジェトロに再入構。2018年2月から現職。