ロシア中小企業インタビュー(7)日本食品の認知度向上の取り組みが必要

2018年12月21日

モスクワ市を中心に展開する「ニッポン」は、ロシアで数少ない日本食材専門店だ。調味料や加工食品などを自社で直接輸入も行い、小売りや卸売りを手掛ける。同社のロマン・ファデエフ社長に経営状況やロシアの日本食品市場について聞いた(2018年12月)。ロシア中小企業インタビュー連載の7回目。

ロシアに数少ない日本食材専門店

質問:
日本産食品の輸入販売を始めたきっかけは。
答え:
妻がユジノサハリンスク出身で、妻の父が日本と関わるビジネスをしていたため、日本の文化や情報を知る機会が多く、ビジネス上の関心を持った。日本に友人がいることと、モスクワに日本製品が少ないことを理由に、日本産食品の輸入ビジネスを始めた。
2012年にモスクワに1号店をオープン。現在はモスクワに4店舗、サンクトペテルブルクに2店舗、タタルスタン共和国アリメチエフスクに1店舗の直営店を持っている。アリメチエフスクには石油大手タトネフチの本社があり、富裕層が集中していることから需要がある。また、オンラインショップや卸売りも行っている。有名なところでは、高級食料品店のアーズブカ・フクーサやグローブス・グルメにも卸している。卸先の数は100件ほどある。
ロマン・ファデエフ社長(ジェトロ撮影)
質問:
年間の売上高はどれくらいか。
答え:
2017年の年間売上高は約1億5,000万ルーブル(約2億5,500万円、1ルーブル=約1.7円)だ。2016年と同程度だが、2015年までは毎年2倍ペースで伸びてきた。売り上げが伸びてきた要因は、新店舗の設立による販売量の増加だ。他方、レストラン向けの卸売りは安価な中国産に押され、厳しい状況だ。
質問:
価格重視で中国産など、日本産以外の商品を扱う企業が多いが。
答え:
日本産品は取扱商品全体の約75%を占める。2011年の福島原発事故や通貨ルーブル暴落影響で、日本産食品の調達が難しくなった時期には他国産の商品で代用していたこともあった。最近はジェトロの支援などもあり、日本の展示会に出展し、日本産の取扱量が増加した。
質問:
商品の調達はどのようにしているか。
答え:
商品全体の3割程度は、自社で直接、日本から輸入している。ウラジオストクの物流パートナーを介して輸入することが多い。独占販売契約などで自社やパートナーが輸入できない商品は、ロシア国内のインポーターから調達する。仕入れ先は15~20社ほどある。
質問:
人気の商品はどのようなものがあるか。
答え:
日本食品の認知度がまだまだ低いため、特に人気の商品はない。試食販売などでプロモーションした商品がよく売れる。今、販売に力を入れている商品は日本茶と煎餅類。
質問:
主な顧客層について。
答え:
年齢層はさまざまだが、日本のことをよく知っている個人が多く来店する。インスタグラムを活用したプロモーションも行っている。ユーザー構成は、女性73%、男性27%で、年齢層は25~30歳が最も多い。

日本食品への認知度向上が課題

質問:
営業方法や販売戦略について。
答え:
まず、ロシア人の多くが日本の食材に対する知識を持たないため、見た目だけでは商品がどういうものか、理解してもらえないことが難しい。当社のほかに有力な日本産食材専門店が出てこない理由は、これがネックになっているのではないか。食べれば魅力を分かってもらえるため、試食販売はとても重要だ。各店舗では毎日、何らかの試食販売をしている。しかし、試食にはとてもコストがかかる。
小売店やレストランへの売り込みも日々、行っている。大手小売りチェーンに商品を置くことは簡単ではない。賄賂には、最近は取り締まりが厳しい。商品を陳列するためにかかる手数料(棚代)が商品ごとに、また1店舗ずつにかかる。多くの店舗に置きたい場合は、それだけ費用がかさむ。それゆえ、大手チェーン店との取引はもうからないが、マーケティングの1つとして活用している。インターネットショップでは特典付与や値引きのプロモーションを行うほか、1,000ルーブル以上の購入者を対象に抽選を行い、当選者には30,000ルーブル分の商品を提供している。そのほか、ウェブ広告やブロガーの活用も行う。
質問:
雇用や人材育成はどのように行っているか。
答え:
社内の人員体制は店舗運営12人、卸売り6人、オンライン担当は1人。人材選定では日本語能力よりも、各業務分野における能力の適応性をみている。今はエージェントを活用して、採用活動をしている。社員に対する特段の研修は行っていない。営業担当の社員は各自でウェブなどから情報を収集し、商品の内容について自習している。
質問:
財務管理はどうしているか。
答え:
現状は自己資金のみで運営しており、銀行からは借り入れしていない。決済リスクの管理のため、支払い条件は原則、前払いとしている。調達の際も同様。信頼のある取引先には後払いを認める場合もある。付き合いのある日本企業の中には、5カ月間の与信を与えてくれる会社が3社ほどある。しかし、過去に何度か取引先が倒産し、代金回収できないことがあった。大手小売りチェーンは納品後2カ月後の支払いが普通で、消費期限が切れると返品されるほか、売れ行きが悪い製品は消費期限前に返品されることもある。
質問:
通関におけるトラブルはあるか。
答え:
ウラジオストクに物流パートナーがいるため、通関手続きでの問題はない。しかし、並行輸入の被害はある。独占販売契約を結んでいる商品が、並行輸入される事例が過去にあった。並行輸入品があれば、税関で止めてもらうよう要請しようと考えている。
質問:
国や地域行政からの支援を受けているか。
答え:
国や地域行政の支援は利用していない。起業家同士のグループで、情報交換や金融面でも助け合っている。起業家の中には、投資や企業支援を行えるだけの体力を持つ者が出てきている。
質問:
日本企業とのビジネスにおける課題や障壁はあるか。
答え:
日本企業とのビジネスで一番の課題は、メーカーからのオファーがないこと。メーカーはこちらからの引き合いに消極的で、提案してくるのは仲介業者ばかりだ。当然、仲介業者を介すと、値段が高くなってしまう。また、日本企業は決断が遅く、合意に至るまでに時間を要する。消費期限の設定も障壁となっている。自社倉庫に着くまでに、4カ月ほどかかるためだ。これに対しては、特別なパッケージを用いることで、消費期限を延ばしてくれるメーカーも非常にまれだが存在する。
インタビュー先企業情報
企業名 ニッポン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
所在地 モスクワ市
主な事業、取扱製品・サービス 食品・家庭用品輸入販売(卸・小売り)
日本企業への提案や関心事項 日本産食品の輸入
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。