西アフリカ物流実走調査(5)
回廊整備とECOWAS貿易制度の普及を

2018年12月26日

これまでの4カ国は、いずれも西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)に加盟している。緩やかに進むECOWASの経済統合は、回廊や港湾の整備とともに、域内貿易活性化のカギを握る。

自由貿易圏と関税同盟は進展

ECOWASの貿易関連制度は既に域内のサプライチェーンに影響を与えつつあり、現実の運用状況を理解することは重要だ。1975年に設立されたECOWASは域内の完全な経済統合を目指しており、自由貿易圏の創出、関税同盟化、人・モノ・資本・サービスの移動の自由化による共同市場創出、政策・制度の共通化による経済統合や通貨統合などに取り組んできた(表参照)。

このうち、顕著な進展がみられるのは、自由貿易圏と関税同盟の創設だ。ECOWASは1979年に域内産の農産品の関税を撤廃し、1990年には対象品目を工業製品に拡大するなど、段階的に域内の自由貿易化を進めてきた。2003年以降は、ECOWAS貿易自由化計画(ECOWAS TLS)により、域内産の基準を満たす全品目の関税を原則撤廃している。関税同盟を実現する対外共通関税(CET)は2015年1月1日に発効しており、関税や輸入調整税(IAT)などを加盟国で統一するものだ。

ECOWAS事務局によると、2017年4月時点で食品・日用品メーカーなどを中心に域内の1,735社がTLSに基づく原産地証明を取得し、関税なしで域内貿易を行っている。TLSは実質的にまだ運用されていない、と誤解している事業者も少なくないが、多数の企業が実際に活用しているのだ。

しかし、通関時のトラブルも後を絶たない。2017年4月にナイジェリア・ラゴスの会計事務所が主催したワークショップでは、登壇したECOWAS事務局、ナイジェリア外務省、同税関のTLS担当幹部に対して、域内で操業する多国籍企業や地元企業から批判の声が上がった。例えば原産地証明の認定までの所要時間は、外務省幹部によれば、同省内の審査委員会が四半期に1度開かれ、書類審査から工場検査まで1カ月、工場検査から認定まで1カ月半程度だという。しかし、欧州の大手飲料メーカーのナイジェリア法人は、外務省が提出書類を審査し、工場検査を行うまでに半年、検査後に外務省が認定し、ECOWAS事務局への通知を経て認定企業・製品リストに登録されるまでに約1年もかかったと指摘した。

コートジボワールでTLS原産地証明を取得した別の欧州系食品メーカーは、輸出先のナイジェリア税関で貨物を止められた上、二重チェックのためにナイジェリア政府から書類を取得するよう、税関職員から言われたという。受け取るまでの3カ月間、貨物は港にとどめ置かれたままで、保管料を払い続けなければならなかった、と嘆く。さらに、別の地場企業は、TLS原産地証明は各国政府が認定・発行するにもかかわらず、ECOWASのレターヘッドが必要だとして、トーゴ税関に書類を拒否されたという。

TLSは導入されており、実際に活用する企業も多数存在するが、制度を知らない企業もまだ多く、また行政側も認定体制などが十分でなく実務知識に乏しい職員が多いため、TLSの成果が十分に具現化されるには時間がかかるといえそうだ。

一方、CETは2015年初の導入以来、おおむね順調に運用されている。ただし、特定産業や品目の保護に関する加盟国の思惑はそれぞれ異なり、導入後5年をめどに廃止するとしているIATを2020年初に廃止できるのか不透明だ。

人の移動では、加盟国の国民が他の加盟国にビザなしで入国できる「ECOWASパスポート」が導入されており、一定の進展はみられる。しかし滞在日数は90日までに限られ、労働力の自由な移動とはかけ離れている。資本やサービスの移動の自由も、ほとんど進展はない。

2020年までの実現を目指してきたECOWAS共通通貨の導入も、実現の見通しは立たない。加盟各国の経済・金融指標は収れんできておらず、ナイジェリアのブハリ大統領が2017年後半から2018年初めにかけて繰り返し慎重な姿勢を示しているように、実現に向けた各国首脳の意思も弱い。2007年からの世界金融危機に続くユーロ危機を経て、通貨統合は世界各地で求心力を失っているが、ECOWASも例外ではない。

表:ECOWAS経済統合に向けた主な計画の進捗

貿易自由化スキーム(TLS)
目的 加盟国原産の品目に対する関税を撤廃し、域内貿易を促進。
ポイント 域内産品と認定されるためには、以下のいずれかを満たす必要がある。
(1)原材料の60%以上がECOWAS域内で生産されたもの。
(2)域内での加工工程により関税番号(HSコード4桁)が変わるもの。
(3)域内での加工工程で30%の付加価値が付与されたもの。
進捗・課題 2003年以降、既に1,700社以上が利用。ただし原産地認定の所要期間が長く、税関職員が誤った対応をする例が少なくない。
対外共通関税(CET)
目的 関税制度を共通化・簡素化することで効率向上を図り、域内経済統合を推進。
ポイント 以下を域内で統一(税率はCIF価格ベース)。
(1)関税:社会生活における必要性や加工段階に応じ5段階に分類し、0~35%の関税を設定。
(2)統計税:1%
(3)ECOWAS共同体課徴金:0.5%[西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)加盟8カ国はUEMOA共同体連帯課徴金1%を徴収する]。
(4)輸入調整税:社会経済への影響の軽減や国内産業の保護を目的に、各国177品目を上限として、他税との合計で最大70%までの範囲で設定可能。
(5)追加保護税:過去1年間の輸入量の増加が過去3年間の輸入量平均の25%以上となった場合、または過去1カ月の平均CIF価格が過去3年間の平均CIF価格の80%以下となった場合に、(4)と同数の品目上限、税率上限で設定可能。
進捗・課題 2015年に発効し、運用されている。(4)(5)は5年めどに撤廃する予定とされているが、国内産業保護のため撤廃は困難との見方も。
その他(人・資本・サービスの移動、共通通貨など)
目的 域内経済統合の推進。
ポイント 人の移動は、加盟国の国民が他の加盟国にビザなしで入国することを可能にする「ECOWASパスポート」が導入されている。
進捗・課題
  • ECOWASパスポートは居住の自由は認めていない。
  • 資本・サービスの移動は進展なし。
  • 共通通貨導入は慎重論根強く、目標としていた2020年までの実現は困難。
出所:
ジェトロ作成

通関手続き円滑化とTLS普及がカギ

回廊の道路状況について、ナイジェリア国内の路面や渋滞、テマ立体交差点以降の渋滞など、すべてが良好だったわけではないが、財政規模の小さいベナン、トーゴとも道路状況は良く、渋滞も少なかった。国際援助の効果が実感されたが、道路輸送が現在より大幅に活発になれば、大部分が片側1車線の回廊にはたちまち渋滞が発生するだろう。さらなる道路インフラ整備が求められよう。また、域内物流を活性化させ、地域総体で経済的底上げを実現するには、沿岸部のみならず、内陸に至る物流網の近代化が欠かせない。

港湾インフラの整備・拡充も、相応な進展が確認できた。ラゴスの港湾や周辺の道路など劣悪な状態もあり、課題はあるが、ロメ港の新ターミナルやガーナの通関手続き電子化など着実に前進している点は、注目に値するだろう。

最大の課題は、国境間の通関手続きだろう。多くの関係者が指摘するナイジェリア当局のハラスメントだけでなく、ガーナを除く各国の国境税関は機器も乏しく、遅延が常態化している。これらが輸送コストを膨らませ、近距離にもかかわらず、陸送より海上輸送が選好される現状につながっている。ロメの物流会社によると、同じ区間でフィーダー船なら数百ドルで運べる貨物が、トラック陸送だと1,500ドル以上かかるという。ガーナの物流会社も、港が混雑する問題を差し引いても海上輸送の方が安く、陸送は不確実性が高いと指摘する。結果として陸送は、低付加価値でかさばり頻繁に輸送される貨物、例えばセメントやバルクの食料品・日用品などに偏っているのが現状だ。

問題改善への寄与が期待されるのが、各国境の合同国境管理施設だ。セメ/クラケ(ナイジェリアとベナンの国境)、ノエペ/アクナ(トーゴとガーナの国境)の施設は既に工事が終わっており、近い将来に回廊の物流を大きく変える可能性もある。しかし工事や機器調達の遅れで、先行きは不透明だ。支援機関の欧州委員会は、両国境の合同国境管理施設での機器調達の入札公示を、当初2016年1月に予定していたが、1年以上遅れて2017年2月となり、同年9月の開札では一部入札が不調に終わった。

ECOWAS TLSの一層の普及も求められる。ナイジェリアを例に挙げると、2016年のECOWAS加盟国への輸出は、ナイジェリアからの輸出全体の6.8%、ECOWAS加盟国からの輸入は、輸入全体の1.2%にすぎない。道路や国境のインフラ整備もさることながら、物流量の拡大も並行して進まなければ、域内経済の活性化はおぼつかない。TLSが普及すれば、域内貿易の拡大に寄与する。そのためには、原産地証明認定までの時間短縮や、税関職員と域内企業の双方への啓発など地道な取り組みが必要だ。

かつて「奴隷海岸」と呼ばれた悲劇の歴史を持つギニア湾沿岸一帯が、周囲に繁栄をもたらす希望の回廊になるのか、国際社会も注目している。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所 次長
宮崎 拓(みやざき たく)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ・ドバイ事務所(2006~2011年)、海外投資課(2011~2015年)、ジェトロ・ラゴス事務所(2015~2018年)などを経て、2018年4月より現職。