カンボジア最新電力事情、課題の解決に向けた日本の動き

2018年6月20日

電力供給の不安定さや電気料金の高さなど、カンボジア国内の課題の1つとして電力が挙げられる。政府は「国家戦略開発計画(NSDP)フェーズⅢ2014-2018」の中で電力セクターに関する方策を掲げ実行しているが、ジェトロが行った2017年度在アジア・オセアニア日系企業実態調査PDFファイル(10.7MB)では、投資環境上のリスクとして電力も含めた「インフラの未整備」を挙げた企業が依然として全体の67.2%を占めている。

国内発電量は増加、輸入量は若干の減少傾向

国内発電量は2012年から急激な増加傾向にあり、特に水力と石炭火力の伸びが顕著だ(表1参照)。カンボジア南部のカンポット州に、同国最大規模のカムチャイダム水力発電所が2011年末に操業開始した後、各所で水力発電所が建設され主力電源となっていたが、2014~2015年に、南西部のプレシアヌーク州で石炭火力発電所が立て続けに稼働し、石炭火力の発電量が増大、水力発電量とほぼ同水準に達した。

表1:カンボジアの電源別国内発電量(単位:GWh)
電源 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
水力 517 1,015 1,830 1,988 2,619 2,704
石油火力 857 579 246 212 362 239
石炭火力 37 169 840 2,210 2,551 3,569
木・バイオマス 12 7 2.9 38 43 15
合計 1,423 1,770 2,919 4,448 5,575 6,527
出所:
カンボジア電力庁(EAC)2017年報告書を基に作成

カンボジアは従来、国境近くの地域における電力を周辺国からの輸入で補ってきた。カンボジア電力公社(EDC)は2017年12月に、北部のプレアビヒア州、コンポントム州、ウドンメンチェイ州への安定的な電力供給と価格引き下げを企図し、ラオスと115キロワット(kW)の電力輸入契約に調印したと発表した。一方で、2012年からの電力の国別輸入量は国内発電量の増加に伴い、若干の減少傾向にある(表2参照)。鉱工業・エネルギー省(MME)によると、消費電力量は2016年が7,161ギガワット時(GWh)、 2017年が7,933GWhと増加しているが、両年とも輸入電力の割合は20%前後で、電力消費量の増加は国内発電で賄えている。

表2:カンボジアの国内発電量と周辺国からの輸入量(単位:GWh)
電源 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
国内発電量 1,423 1,770 2,919 4,448 5,575 6,527
ベトナム 1,560 1,691 1,256 1,280 1,205 1,090
タイ 535 580 524 244 346 263
ラオス 9 11 14 17 35 54
合計 3,527 4,052 4,713 5,989 7,161 7,933
出所:
カンボジア電力庁(EAC)2017年報告書を基に作成

電力容量は今後も拡大の見通し

カンボジア電力庁(EAC)によると、2017年の国内の総電力容量は、プレシアヌーク州で135メガワット(MW)の石炭火力発電所と北部ストゥントレン州で400MWのセサン下流2水力発電所などが稼働したことにより、2,283MWとなった。EDCの2016年度報告書によると、今後の発電所開発計画による電力容量の増加は、2018年から2020年までで870MW、2021年から2025年までで1,851MWと見込んでいる(表3参照)。一方で、同報告書は、国内における2020年の消費電力量を9,406GWh、2025年を1万4,951GWhと予測しており、計画どおりの発電所開発が期待される。

表3:2018~2025年の発電所開発計画
計画名 電源 電力容量(MW) 稼働年
Lower Sesan Ⅱ 水力 400 2018
Coal Fired Power Plant Ⅰ 石炭火力 100 2019
Coal Fired Power Plant Ⅱ 石炭火力 120 2019
Coal Fired Power Plant Ⅲ 石炭火力 250 2020
Coal Fired Power Plant Ⅳ 石炭火力 250 2021
Chay Areng 水力 108 2022
Pursat Ⅰ 水力 40 2023
Battanbang Ⅱ 水力 36 2023
Lower Sesan Ⅲ 水力 260 2023
Lower Sre Pok Ⅲ(3B) 水力 68 2024
Lower Sre Pok Ⅳ 水力 48 2024
Lower Sre Pok Ⅲ(3A) 水力 300 2024
Prek Liang Ⅰ 水力 72 2025
Prek Liang Ⅱ 水力 50 2025
Prek Chhlong Ⅱ 水力 16 2025
Lower Sesan Ⅰ 水力 96 2025
Prek Por 水力 17 2025
Lower Sekong 水力 190 2025
Thermal Ⅰ 石炭火力/ガス 300 2025
出所:
EDC 2016年度報告書を基に作成

電化率は順調な伸び、今後の対応はエリアにより異なる

2011年に策定したMMEの目標「2020年までに全ての農村部に電力供給」の達成状況について、MMEは2017年末までに約1万4,000の農村のうち81.5%、世帯ベースでは約330万世帯のうち68.5%に電力が供給され、2018年末までに全国の農村の88%、世帯ベースで75%の世帯に電力が供給されると発表した。

送配電は主にEDCが行っているが、地方農村部では一部、地方電力事業者(Rural Electricity Enterprise: REE)が請け負っている。MMEの目標達成に当たり、送配電網のさらなる整備が必要なエリアと、人口分布がまばらで送配電網整備が難しく、小型水力やソーラーホームシステムなどの分散型電源導入の検討が必要なエリアに分けられる。

電気料金は周辺国より割高で、国内の地域格差あり

カンボジアの電気料金は周辺国より割高である(表4参照)。発電事業は主に独立系発電事業者(Independent Power Producer:IPP)が行っているが、MMEはIPPに開発権の付与を行い、それを受けIPPが発電した電力をEDCが買い取り、配電を行っている。国際協力機構(JICA)によると、MMEが競争入札を行わず、電力販売料金における競争が起こらないままIPPに開発権を付与していることが、電気料金の高止まりの要因の1つとみられる。

表4:2017年電気料金 カンボジアと周辺国との比較
[1キロワット時(kWh)当たり] (単位:ドル)(―は値なし)
項目 料金 カンボジア タイ ミャンマー ラオス
業務用 月額基本料 9.7
1kWh当たり料金 0.17 0.08~0.16 0.05~0.11 0.08~0.09
一般用 月額基本料 1.18
1kWh当たり料金 0.15~0.19 0.10~0.14 0.03~0.04 0.05~0.13
出所:
ジェトロ投資関連コスト比較データエクセルファイル(638KB)に基づき作成

同国は2018年4月から電気料金の引き下げを実施しており、郊外の現地事業者には実感があるようだ。例えば、スバイリエン州のゲストハウス経営者やバッタンバン州の携帯修理業者から「電気料金は少しであるが安くなっている」との声が聞かれる。一方で、都市部に進出した日系企業などは電気料金引き下げの実感がないと見受けられる。例えば、プノンペン市内の日系ホテルからの「電気代は依然高く、業種上コスト的に切迫している」との声や、同市内の日系レストランからの「日本と比較すると電気料金は非常に高いままで、近隣のモールやアパートメントで、単価が安くなったと感じられるとの話は聞いたことがない」との声があり、節電などの対策を行っているようだ。また、経済特区(SEZ)内の現地日系企業からは「国全体としては電気代を下げていく方向性にもかかわらず、工業団地内では値上げされている」という声が出ており、配電事業者が各地で異なることから電気料金の格差が生じている。

停電は減少も、送配電網の設備基準に課題

EDCのウェブサイトによると毎月3回程度、各地域の計画停電の案内が行われているが、これは設備点検などによる短時間のものとみられる。あるSEZ内の日系企業から「新設備の機器不良などによる通常の停電が起きているが、電気自体の供給量は増え、瞬間停電が減った」との声が聞かれ、電力不足による停電は以前に比べ減少した。しかし電線の断線や、大雨などによる停電はしばしば起こっており、一部のSEZやバベットの日系企業、プノンペン市内のホテルなどは発電機による停電対策を行っているようである。JICAによると、同国の送配電網に明確な設備基準がなく、各地域の送配電網整備案件のドナー(提供者)ごとに設備が異なっている状況で、緊急時の機材の調達などに時間やコストがかかり、停電時間に影響している。

太陽光発電の活用が出始める

農村への電力供給および電気料金の高騰や停電への対策のため、太陽光発電を活用する例がみられる。MMEによると、2017年における国内の家庭用太陽光発電システムや商業用太陽光発電所の発電容量は28MWだが、同省は2017年12月に小規模の太陽光発電と風力発電装置を使用し、プルサット、カンダール、モンドルキリ3州の特定の農家などに、小規模発電設備を整備し電気を供給する新事業を始めた。また、あるSEZにおいては「昨年9月から太陽光発電が稼働しているので電気料金の値上げがなく、停電も少なくなっている」という声のほか、「電気料金を抑えるためにソーラーパネルを使用することを視野に入れている」と話す企業もある。

JICAは課題解決のための支援を継続的に実施

日本政府は2018年4月に「プノンペン首都圏送配電網拡張整備計画(フェーズ:第二期)」として、変電所の新増設、送配電線の整備および系統安定化装置などを導入するための資金をカンボジア政府に融資する約束をした。また、JICAは2016年、比較的多くの日本企業が進出し電化率が低い地域であるポイペト、コッコン、バベットのSEZ付近における無償資金協力による配電網整備の契約を締結した。現在、当案件の実施とともに、首都圏送配電網整備の支援や送変電システムに関する技術協力を行っている(表5参照)。さらにJICAは電力事業に関する中小企業海外展開の支援も行っており、2017年にモンドルキリ州センモノロム市近郊にあるオロミスレストランに設置したマイクロ水力発電機のモニタリングを実施した。日本の多方面への支援がカンボジアの電力事情の改善に貢献している。

表5:JICAの対カンボジア事業展開計画(電力関連抜粋)
計画名 目的
首都圏送配電網拡張整備計画 変電所の新増設,送電線・配電線の建設および系統安定化装置などを導入することにより,電力供給の安定性を高める。
首都圏送配電網拡張整備計画(フェーズ2) 変電所の新増設,送電線・配電線の建設により,電力供給の安定性を高める。
送変電システム運営管理能力向上プロジェクト
  • 電力系統の計画・管理能力の強化。
  • 事故時の早期復旧に関する対処技術の向上。
出所:
JICA資料「カンボジアにおける電力の現状」を基に作成

電力事業に関する日本企業の受注案件は増加

直近の日本企業のカンボジア電力事業に関する受注案件は、以下の事例のとおり、石炭火力発電所建設、コンサルタント業務、太陽光発電所開発といった分野だ。

  1. 石炭火力発電所建設事業を受注
    東芝プラントシステムは2017年2月、CAMBODIAN ENERGY Ⅱ(CEL2)がシアヌークビルに建設する出力150MWの石炭火力発電設備の建設プロジェクトについて受注、2019年11月の完工を予定している。
  2. EDC向けコンサルタント業務を受注
    ニュージェック、関西電力、中国電力の3社は2017年3月、EDCから「カンボジア王国プノンペン市送配電網増強事業に係るコンサルタント業務」を受託。2022年5月までの約5年間、3社の社員を現地へ派遣し、送変電設備および配電設備の増強のための設計、入札図書の作成・入札審査、契約交渉補助、施工監理などを実施し、カンボジア人技術者へ技術移転を行う。
  3. 太陽光発電所開発プロジェクトを受注
    エーバランスは2018年3月、子会社であるWWBがカンボジア政府高官らとの覚書を締結し、太陽光発電所を開発するプロジェクトを進める発表をした。

カンボジアの電力事情は、発電所建設案件の増加による国内発電量の順調な伸びが国内電力消費量をカバーし、電化率の伸びも堅調な一方で、残る農村部への配電方法や、周辺国より高い電気料金の決定プロセス、停電に影響する送配電網の設備基準未整備など、課題がある。太陽光発電の活用や、日本の各方面への支援、国内の電力事業に関するプロジェクト増加に伴う企業投資の加速が、当課題の解決を進めていくとみられる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
安野 亮太(あんの りょうた)
2009年、明治安田生命保険相互会社入社。2018年より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
磯邊 千春(いそべ ちはる)
2016年よりジェトロ・プノンペン事務所勤務。