西アフリカ物流実走調査(3)
域内物流ハブを狙うトーゴは周辺国の事情で足踏みも

2018年12月26日

西アフリカ数カ国で大規模な港湾拡張事業が進む中、トーゴのロメ港は他に先駆けて新ターミナルを開業した。域内の物流ハブ化を目指すが、周辺国も港湾拡張や鉄道改修で追い上げ、さらに積載規制なども絡んで、道のりは平たんではない。シリーズ3回目。

大型コンテナターミナルをいち早く開業

ヒラ・コンディ(ベナン)/サンビー・コンディ(トーゴ)の国境を越えると、回廊はベナンの国道1号線(RNIE 1)から、トーゴの国道2号線(N2)に再び名を変え、国境からロメ港までおよそ44キロだ。国境を出発して間もなく、軍の検問所を経て15分ほどで、アネホの集落に入る。19世紀後半のドイツ支配時代に一時、首都だった街だ。アネホの市街を抜けて1.5キロほど進んだところに、輸入貨物の検査を行う駐車場がある。

駐車場入り口を過ぎたところにN2の料金所があり、さらに進んで警察、軍の検問を経て、ロメの都市圏に入る。いずれの検問でも停車は求められず、移動の妨げにはならなかった。ロメ市街の手前で片側2車線に広がり、国境から数キロ過ぎると未設置だった街灯も再び姿を現した。道路状況もトーゴに続いて問題はなく、1時間ほどでロメ港付近に到着した。


ロメ市街に近づいたN2の路上(撮影:ジェトロ・阪急阪神エクスプレス)

ロメ港は近年、西アフリカで存在感を増しつつある。物流情報サイトJOC.comによれば、現在の西アフリカの年間コンテナ貨物取扱量はおよそ1,000万TEU(20フィートコンテナ換算)だが、域内数カ所で建設中ないし計画されている大型深水港の開発・拡張計画が実現すれば、2020年にも最大で1,200万TEU増加する(注)。

これらのうち、例えばナイジェリア・ラゴス東部のレッキ港開発は着工が大幅にずれ込むなど、すべてが計画どおりに進むことは難しいだろう。その中で、いち早く稼働にこぎつけたのが、ロメ港のロメ・コンテナ・ターミナル(LCT)だ。2015年末に操業を開始し、その後の拡張を経て水深15.5メートル、ガントリー・クレーン12基を擁し、年間コンテナ貨物取扱量は220万TEUだ。スイス本拠の海運世界2位MSCと中国国営会社の招商局集団(チャイナ・マーチャンツ・グループ)の各傘下企業が設立した事業会社が運営する。

ロメ港ではLCT開業以前から、フランスのボロレ・グループもコンテナターミナル「トーゴ・ターミナル」を運営している。同港は周辺の港湾に比べて、自然の水深が深いという利点があり、MSCグループはアジア~西アフリカの物流をLCTに集約し、同港からフィーダー船で周辺国に輸送する戦略拠点化を進めている。LCT開業後の2015年には年間コンテナ貨物取扱量が前年の2.6倍に急増し、西アフリカの主要港に躍り出た(表1参照)。

表1:アフリカ西岸の主要港のコンテナ貨物、一般貨物取扱量(2011~2015年) (△はマイナス値)
項目 港湾 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 前年比 2011~
2015年
平均
伸び率
コンテナ貨物
(100万TEU)
ルアンダ アンゴラ 0.68 0.65 0.91 0.96 0.98 2.3 9.7
アパパ ナイジェリア 0.79 0.86 0.99 1.10 0.92 △ 17.0 3.8
ロメ トーゴ 0.35 0.29 0.31 0.35 0.91 158.5 23.6
テマ ガーナ 0.75 0.82 0.84 0.73 0.78 6.8 1.2
ポワントノワール コンゴ 0.44 0.51 0.58 0.64 0.72 12.7 13.0
一般貨物
(100万トン)
アパパ ナイジェリア 23.4 25.4 27.2 29.2 30.9 6.1 7.3
ポワントノワール コンゴ 20.0 22.0 25.1 26.4 28.0 6.1 8.8
アビジャン コートジボワール 16.6 21.7 21.5 21.8 21.9 0.5 7.1
ロメ トーゴ 8.2 7.8 8.7 9.3 15.4 66.1 16.9
ダカール セネガル 11.4 11.9 12.2 13.1 15.2 15.5 7.4
出所:
船荷経済物流研究所(Institute of Shipping Economics and Logistics)

周辺国の事情に左右されるトーゴ

ベナンのコトヌ港と同じく、ロメ港も内陸国への物流の玄関口だ。食品・飲料、日用品などのほか、機械類、建設資材、肥料など、さまざまな物資がロメから内陸を目指す。最大の仕向け先はブルキナファソで、首都ワガドゥグまではおよそ960キロの道のりだ(図、表2参照)。同国向けの再輸出は肥料や機械などが中心だ。

西アフリカ沿岸諸国からブルキナファソへのモノの流れは、コートジボワール、ガーナ、トーゴの順に多い。コートジボワールは港湾都市アビジャンからワガドゥグまで鉄道路線も延びており、2015年の輸出額はトーゴと比べておよそ4倍、再輸出額では10倍以上になる(国連統計)。

他方で、この鉄道は老朽化が進んでおり、事故なども起きていることから、トーゴの物流会社は、ロメ港にその代替も期待できると話す。ロメ港の港湾使用料などのコストはアビジャン港と大きくは変わらず、優位性はないものの、道路での輸送ならトーゴからの方が安いという。

もっとも同鉄道は、運営するボロレ・グループ傘下のシタレールが2017年末から近代化工事に着手しており、物流の主軸がトーゴ・ルートに移ることはなさそうだ。それでも、ロメ港を経由した物流が順調に増加すれば、同ルートも一定の役割は担い続けるだろう。

表2:トーゴのギニア湾岸諸国への輸出と再輸出(ドル)

輸出 
相手国 2014年 2015年 2016年 2017年 2017年/
2016年
ベナン 90,597,203 99,856,293 126,128,237 107,147,739 85.0%
ナイジェリア 48,119,396 34,479,203 31,032,502 35,923,409 115.8%
ニジェール 106,089,506 65,379,877 50,429,348 47,610,994 94.4%
ブルキナファソ 81,573,722 108,534,306 114,563,550 134,231,703 117.2%
ガーナ 68,011,531 25,668,397 34,545,111 56,778,469 164.4%
コートジボワール 19,487,722 26,198,010 43,869,278 41,392,070 94.4%
マリ 31,708,332 36,635,088 51,995,929 42,853,469 82.4%
再輸出 
相手国 2014年 2015年 2016年 2017年 2017年/
2016年
ベナン 8,140,563 5,329,211 17,625,842 1,797,285 10.2%
ナイジェリア 2,157,569 833,168 1,044,582 1,387,807 132.9%
ニジェール 4,917,197 3,104,802 3,547,015 1,957,490 55.2%
ブルキナファソ 13,964,885 17,591,305 19,697,908 15,007,900 76.2%
ガーナ 7,988,684 3,192,830 3,016,552 2,970,399 98.5%
コートジボワール 7,395,646 5,041,202 17,102,935 13,757,346 80.4%
マリ 1,556,895 3,007,019 19,100,148 13,762,903 72.1%
出所:
国連

ロメ港の敷地内には、ニジェール政府傘下のニジェール・トランジット(NITRA)、ブルキナファソ商業会議所、マリ政府傘下の在トーゴ・マリ倉庫(EMATO)がそれぞれ所有する、各国向けの保税倉庫が存在している。

NITRAの倉庫を訪問したところ、コメ、衣類、酒類などがそれぞれまとまって保管されていたが、広々とした倉庫の一角を占めるだけで、空きスペースの方が多い。また、積み下ろしなどの作業はまったく行われていなかった。職員によると、このところは取扱量が減っているという。

現地物流会社によると、要因の1つは、西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)が定めた車軸当たりのトラックの積載制限だという。周辺国ではこの規制が十分徹底されておらず、いまだに過積載が常態化したままだが、トーゴは規制を順守し始めた。このため、一度に多くを運んで輸送コストを抑えたい荷主の一部が、トーゴを避けて周辺国に切り替えているという。周辺国が過積載規制に本腰を入れれば、荷物が戻ってくる可能性も十分あるが、いつになるか不透明だ。

沿岸諸国へのモノの流れを貿易統計から見ると、輸出はベナン向けが最も多く、再輸出はコートジボワールが最多となっている(表2参照)。ベナンの人口や経済規模から、このすべてが国内向けとは考えづらく、相応な割合が隣国ナイジェリアやニジェールなどに向かっていると考えられる。

ナイジェリア向けの輸出は、2015、2016年と2年連続で落ち込み、2017年に緩やかに回復した。これは2014年後半に原油価格が急落した結果、ナイジェリアが2017年初めまで外貨供給を厳しく規制したため、同国向けの輸出が著しく困難になったことを反映している。他方、ベナン向け再輸出は2015年に落ち込んだものの2016年は回復しており、輸出は2015、2016年とも伸びている。この一部は、公式ルートでの輸出減を補うかたちで地下にもぐり、ナイジェリアに向かったのだろう。

2015年はLCT開業でコンテナ貨物取扱量が急増したトーゴだが、これら4カ国(ベナン、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワール)向けの、同年の輸出・再輸出は合計で2割ほど減少している。周辺国の景況や規制、それを補う密輸など、際立って大きい非公式貿易と相まって、この地域では統計以上に複雑で活発な物流が展開されているようだ。


ロメ港敷地内のNITRAの倉庫(撮影:ジェトロ・阪急阪神エクスプレス)

手狭なアフラオ国境はガーナ側が充実

ロメ市街(ガーナ側のアフラオ地区と隣接する国境地帯)で、トーゴ税関に話を聞いた。トーゴからガーナには衣料品、冷凍魚・鶏肉、加工食品・飲料などが輸送され、衣料品などは一部コートジボワールにも向かうという。ガーナからトーゴには、食品・飲料やせっけん、プラスチック製品などの日用品、タイルなどが運ばれてくる。

トーゴを通過する再輸出貨物は、トラックが入国する時にコンテナを封印するとともにビーコン端末を取り付けて位置を監視し、出国時に回収する。原則として実見による検査は行わないが、貨物によっては実見に加え、税関職員が同行する場合もある。手続きは問題がなければ1時間程度で完了するというが、課題は混雑だ。ガーナ側に比べてトラック駐車場は非常に狭く、ガーナ側にはある車両計量台(ウェイトブリッジ)がトーゴ側にはない。国境付近の路肩で待機するトラックが散見された。


アフラオ国境の手前。奥に見える門から先がガーナ。路肩にはトラックが待機
(撮影:ジェトロ・阪急阪神エクスプレス)

注:
カメルーンのクリビ、コンゴ共和国のポワントノワールなど、アフリカ大陸中西部の港湾拡張計画を含む。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所 次長
宮崎 拓(みやざき たく)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ・ドバイ事務所(2006~2011年)、海外投資課(2011~2015年)、ジェトロ・ラゴス事務所(2015~2018年)などを経て、2018年4月より現職。