ロボットの導入が加速するチェコ市場
ジェトロは日系企業のビジネス展開を支援

2018年7月30日

チェコには106社の日系企業が製造拠点を構える。順調な経済成長により失業率が低下し、雇用の確保が一層難しくなっている中で、従業員をどうやって定着させるかが進出企業にとって目下最大の課題である。安い人件費を魅力に感じて10年以上前にチェコに工場を設立した日系各社は現在、いかに初期投資を抑えながら自動化を進めるかに頭を悩ませている。こうしたことを背景に、ジェトロは、進出日系企業のビジネス展開事業を進めている。

人件費高騰への打開策となるか

財務省の発表によると、2018年のチェコの失業率はEUで最低水準の2.4%となる見通しで、名目賃金上昇率は前年比7.3%と予測されている(表参照)。日系各社は「肌感覚では10~15%賃上げしないと雇用を確保できない」と話す。

表:主要経済指標の推移(△はマイナス値)
項目 2015年 2016年 2017年 2018年
(1) 実質GDP成長率(%) 5.3 2.6 4.4 3.6
階層レベル2の項目 民間最終消費支出 3.7 3.6 4 4.3
階層レベル2の項目 政府最終消費支出 1.9 2 1.5 1.9
階層レベル2の項目 総固定資本形成 10.2 △ 2.3 5.4 5.7
階層レベル2の項目 財貨・サービスの輸出 6 4.5 6.5 5.2
階層レベル2の項目 財貨・サービスの輸入 6.8 3.4 5.8 5.9
(2) 消費者物価指数上昇率(%) 0.3 0.7 2.5 2.1
(3) 名目賃金上昇率(%) 3.2 3.7 7 7.3
(4) 失業率(%) 5.1 4 2.9 2.4
(5) 国際収支(調整済み値)
階層レベル2の項目 経常収支(10億コロナ) 11 74 54 19
階層レベル2の項目 貿易収支(10億コロナ) 188 246 241 222
(6) その他重要指標(GDP比、%)
階層レベル2の項目 財政収支 △ 0.6 0.7 1.6 1.5
階層レベル2の項目 政府債務残高 40 36.8 34.6 32.9
(7) 為替レート(1ユーロ=コルナ) 27.3 27 26.3 25.1
注:
2015~2017年は実績。2018年は見通し。
出所:
チェコ財務省

チェコ政府は、現状に対する打開策としてウクライナ人への就労ビザの取得要件の緩和を進めているが、手続きに時間がかかり当面の解決策となっていない。それでも、隣国ドイツに比べると人件費が半分以下のチェコへの投資は2018年に入っても相次いでいる。古くから当地に進出している日系を含む外資系企業は、人件費とのバランスを取りながらの工場自動化を余儀なくされている。そのため、当地域でのロボット市場の成長に対する期待値は高い。国際ロボット連盟(IFR)によると、2017年の中・東欧地域での産業用ロボット導入数の増加率は前年比28%で、アジアに次いで高水準である。

政府は、インダストリー4.0関連の投資に対する中小企業向けの補助金プログラムを用意し、「製造を目的とした新規設備・機械の購入、および新規購入または既存の設備間の自動通信システム確立」に対し、最大2,000万コルナ(約1億200万円、1コルナ=約5.1円)を補助する。

チェコの工場で進む産業ロボットの導入

ロボットという言葉はチェコスロバキア(当時)の作家カレル・チャペックにより生み出されたもので、チェコ人にとってはなじみ深い言葉である。チェコの工場で利用されている産業用ロボットの主なプロバイダーは、クーカ(ドイツ)、ABB(スイス)、ストーブリ(スイス)、ファナック(日本)、安川電機(日本)、ユニバーサルロボット(米国)などだが、2017年にクーカが中国資本に買収されたことから、技術漏えいに危機感を持つドイツ資本の企業を中心に、導入ロボットのポートフォリオの見直しを迫られている。産業用ロボットは近年、IoTやインダストリー4.0の流れを受け、より高度なものへと移行している。2017年までは人と共同作業ができる協調ロボットがトレンドとなっていたが、2018年に入ってからは高速度・高精度を強みとする「パラレルリンクロボット」や、予知保全のための検査ロボットへと変化してきている印象だ。6月にドイツ・ミュンヘンで開催されたオートメーション・ロボット業界最大規模の専門見本市オートマティカは過去最高の来場者数を記録した。「労働4.0」をコンセプトとした今回の展示会では、 拡張現実(AR)を使ったトレーニングロボットや、遠隔操作可能な人工知能(AI)を搭載したロボットが注目を集めた。

自動車メーカーのシュコダオートも積極的に導入

ジェトロは2018年度から、在チェコおよび他の欧州諸国に拠点を持ちチェコでもビジネスを展開している日系企業を対象に、現地工場のロボットの活用事例の視察を通じて自社での自動化推進の参考にしてもらうことを目的とした「ファクトリーオートメーションワークショップ」を開始。2回目の6月27日に、チェコの自動車メーカー、シュコダオートを視察した。参加者はワークショップの規模としては多い62人で、「ロボットが溶接をするのを見て驚いた」「ロボット同士がコミュニケーションでき、違う製品でも同じラインで組み立てできるのは興味深かった」との声が聞かれた。

シュコダオートはフォルクスワーゲン(VW)傘下のチェコ最大の自動車メーカーで、今回視察したムラダ・ボレスラフ工場は本社に併設されている同社最大の工場。2万1,000人の従業員が勤務し、主力モデルの1つである「オクタビア」を含む4モデルを年間130万台生産している。同工場では合計2,400台のロボットを導入し、うち900台がファナック製である。ファナックのロボットはプログラミングが容易で種類が豊富なことから、さらに200台の導入が決定している。

ファナックの担当者によると、製造ラインにおけるロボット導入の観点は、欧州企業と日本企業で大きく異なる。日本ではロボット1台を最大限まで活用し、高騰する人件費への解決策として労働者の仕事を部分的にロボットに変えていく傾向が強い。

一方、欧州では労働者保護や従業員の流動性という観点が先行し、労働者に無理をさせない、全自動を見据えたロボットの導入、ラインの設計をする。導入の主眼が「できる部分から」であると、なかなか自動化は進まない。生産技術の担当者は、使い慣れた従来のロボットを重宝し新しいメーカーの機種には抵抗をみせるため、ロボットメーカーが新規参入を図る場合には経営層にメリットをいかに伝えていくかがカギとなる。

ジェトロは2018年10月1~5日にチェコ、ポーランド、ハンガリーの工場を視察するFA(ファクトリーオートメーション)ミッションの実施を予定している。日系企業は、チェコやポーランド、ハンガリーをかつての「技術力が高く、人件費の安い製造拠点」としてのみならず、欧州向け製品の研究開発(R&D)拠点としての可能性を含め、欧州ビジネスにおいてどう位置付けていくべきかという局面に立たされている。ジェトロではミッションやワークショップ開催を通じて、日本企業の中・東欧でのさらなるビジネス展開を支援していく。

執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部を経て2017年10月より現職。