ロシア中小企業インタビュー(1)経済危機を商機と捉え、中古車部品販売で成功

2018年12月4日

ロシアでは日本製中古車が広く普及していることから、その部品交換の需要も旺盛だ。しかし、極東地域以外では、右ハンドル車向けの部品を調達することは容易でない。この状況に対し、シベリアのオムスクで中古車部品輸入販売事業を行うオートタウンは、部品情報ウェブサイトの整備やアフターサービスの強化など、消費者目線のサービスの工夫を行っている。同社のゲオルギー・サルキシャン社長に、同社の概要や特徴、日本とのビジネスで直面している課題について聞いた(2018年2月)。本連載では、ロシアの中小企業の経営状況や日本企業とのビジネス状況ついて10回にわたり報告する。

顧客サービスを強化し他社と差別化を図る

質問:
企業概要について。
答え:
創業は約10年前。日本製や欧州製の中古車を解体して得られた部品の輸入販売事業を行う。オムスクで3店舗とテクニカルセンターを設置しているほか、モスクワ、チュメニに店舗、ウラジオストクに倉庫を有している。従業員数は全体で200人程度。
創業前まで私(サルキシャン社長)は自動車販売に携わっていた。シベリアやウラル地域では、右ハンドル車が多い一方、部品の調達先が少ないという問題が生じていた。自動車部品の調達・販売をオムスクで営む人も少なかったため、他の人がやらないことをやろうと思い、創業を決意した。

ゲオルギー・サルキシャン社長(ジェトロ撮影)

オムスクの店舗内の様子(ジェトロ撮影)
質問:
企業戦略・販売・プロモーション戦略はどのようなものか。
答え:
ウェブサイトによる情報発信を強化しており、部品ごとにラインアップや在庫を確認することができる。ITに投じた金額は300万~400万ルーブル(約510万~680万円、1ルーブル=約1.7円)に達している。
販売・プロモーション戦略としては、顧客満足度の向上に力を入れている。例えば、製品保証を100日間付与しているほか、部品組み込み後、定期的に無料診断するサービスを提供している。また、4年前にはコールセンターを開設した。フリーダイヤルも取得している。そのほか、ウェブサイトを改良し、顧客が利用しやすいサイトづくりを心掛けている。
近いうちに顧客管理システムを導入し、部品のメンテナンス時期を顧客に伝えるようなシステムを構築するつもりだ。部品の売り切りだけでは、ビジネスがいつまで続くか分からないためだ。
いずれは海外にも販路を広げたい。アラブ首長国連邦(UAE)、アルメニア、キルギスから、当社の中古車部品を購入したいというオファーが寄せられる。また、日本企業から、当社を通じてモンゴルに部品を売りたいという提案が寄せられたこともある。しかし現状、ロシアでの需要にも供給が追いつかない状況だ。

良質な部品を良心的な価格で提供することが使命

質問:
調達・物流、在庫管理方法について。
答え:
日本で部品を調達する際には、オークションを通じて中古車を調達し、日本の解体工場で部品に分解し、コンテナでウラジオストクにある倉庫へ移送している。オークションには日本の解体工場を通じて参加している。買い付けるブランドは日本ブランドだけではなく、メルセデス・ベンツ、BMW、ルノー、プジョーなど欧州ブランドも含まれる。理由は、日本市場で出回る中古車の走行距離は1万キロ以下のものが多く、他国からの調達に比べて状態が良いため。
当社は車両解体前に走行距離などを確認し、品質の高い中古車・部品を選んで購入している。購入の際に注視していることは、部品の色や傷の有無。需要があるのは、エンジン、前面ランプ、小型のセンサー部品。中古車部品の購入者は所得が低い層だ。低価格で高品質のものを提供し、少しでもその車に長く乗れるようにすることがわれわれの使命だと考えている。
日本の工場から、オムスクまでの納期は3カ月。月間で40フィートコンテナ8本を運んでいる。物流については、オムスク市内は自社配送、それ以外は輸送会社を用いている。近隣都市のチュメニには週2回定期的にトラックで配送を行っており、固定の需要がある。モスクワ向けにもトラックで配送している。返品となった場合は、輸送会社が受け取り、当社へ持ち帰ることになる。
今後は物流・配送面でも、顧客サービスの向上に注力していきたい。現状、部品の引き渡しは宅配よりも当社店舗のカウンターで行うことが多いが、より多くの顧客獲得のためには配送網の拡充が必要と考えている。
よく売れる商品を中心に、なるべく在庫を持つようにし、注文を受けてすぐに出荷できるようにしている。他方、余剰となった在庫は割引販売や無料のプレゼントで消化している。物流・在庫管理の効率化のため、RFIDタグの導入を検討している。
質問:
人材獲得・育成方法はどうしているか。
答え:
オムスクで自動車に関連した分野に従事する人は少ないため、経験を有する人材を確保することは難しい。マネジャーにするには半年の研修期間が必要。
従業員向けに顧客満足度を向上させる研修プログラムを用意しており、新入社員は最低で半年間の研修受講を必須としている。研修の一例としては、部品の包装・梱包(こんぽう)の仕方を指導している。
質問:
財務・リスク管理方法について。
答え:
基本的に自己資金で運営している。ただし、毎年3~5月は中古車解体シーズンで調達資金が不足するため、銀行融資を受けている。個人から1カ月間、融資を受けたこともある。
仕入れの際の支払い条件は全額前払い。日本にいるパートナーとはよく知っている間柄であり、相手から金払いが良いと評価されている。消費者には現金もしくはカードによる代引き決済を求めている。
2014年のロシアの経済危機は、当社ビジネスに追い風となっている。顧客の所得が下がると、新車購入および新品の自動車部品調達が難しく、中古車部品の需要が大きくなるためだ。また、同業他社の経営悪化や倒産により、顧客が当社へ流れてくるケースもある。ウラジオストクやノボシビルスクでは、売れ筋を十分把握できず、不要な在庫を抱えてしまったために倒産した会社がある。当社は経済危機を逆に商機と捉え、成長を遂げている。

パートナー情報の不足や信用獲得が課題

質問:
日本でのビジネス計画や直面している問題点について。
答え:
日本からの部品調達を加速させるため、日本に支店を設ける手続きを進めている。現在は、古物商許可の取得に向けた書類整備を進めているところ。現在、日本語が堪能なロシア人社員を日本に常駐させている。
日本におけるビジネスパートナー(中古車解体工場)は、さまざまな地域に点在している。例えば、栃木県、宮城県、愛知県、石川県、千葉県、和歌山県、兵庫県などだ。
日本には解体工場をつなぐ仲介業者がおり、コンテナ1本当たり10%程度の手数料を要求される。仲介業者は日本人だけでなく、パキスタン人やアフガニスタン人がいる地域もある。また、日本の解体工場との取引には保証人を立てる必要ある。保証人と解体工場に支払う手数料が膨らんでいることもあり、できれば仲介手数料は排除したいと考えており、直接取引が可能な解体工場を探している。
問題は、パートナーとのやり取りや信用を得ること。インターネットを通じて見つけた解体工場にコンタクトしても、返事がないことが多い。返事があっても、取引には消極的なことも多い。日本国内に解体工場に関するまとまった情報がないことも、パートナー探しが困難な要因となっている。
今後の展開については、現在は日本の解体工場からウラジオストクの物流センターに運び、そこからロシア国内へ配送しているが、コストカットのために日本で在庫を保管し、直接ロシアの地方に輸出することを検討中だ。また、将来的には、自社で中古車解体工場を日本で運営したく、候補地を探しているところだ。
インタビュー先企業情報
企業名 オートタウン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
所在地 ロシア・オムスク州
主な事業、取扱製品・サービス 自動車用中古部品の輸入・販売
日本企業への提案や関心事項 中古車解体部品の調達、日本での解体工場の運営
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。