モザンビークにおけるICT環境
デジタル・インクルージョンの現状

2018年12月27日

アフリカで急成長する情報通信技術(ICT)産業。今回はモザンビークでの現地調査を通してICT環境の今を伝える。郵便や通信部門の規制、監督、ラジオ周波数帯などの管理を行うモザンビーク通信規制当局(INCM)や国際連合工業開発機関(UNIDO)を訪問し、ICT関連の現状を聞いた。

主要通信4社が展開、増える携帯電話加入者

モザンビークはアフリカの南東に位置する国。79万9,380平方キロメートルの国土を有し、人口2,880万人の68%が農村部に居住している。過去4年間の国内総生産(GDP)は年平均13億7,000万ドル。ICT産業市場は主要通信会社4社[地場企業3社Telecomunicações de Moçambique /MCEL /Movitel、南アフリカ共和国(以下南ア)企業1社Vodacom]と、179のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)事業者が展開している。

固定電話サービスの顧客数は減少する一方で、モバイル業界では携帯電話加入者が増加しており、今後は都市部で100%、農村部では80%に達すると見込まれている。2015年には100人当たり78人のSIMカード利用が確認されており、利用者の増加が期待されている。

図:モザンビークの携帯電話加入者数
2014年が13726469人、2015年が20170929人、2016年が15025598人、2017年が11875506人。
出所:
INCM提供資料を基にジェトロ作成

INCM本部(ジェトロ撮影)

ICT分野のインターネット利用と投資状況

モザンビークのインターネット利用アクセスは、過去4年間で好調に増加していたが、2017年には40%近く減少して約850万人となった。利用者の減少は、SIMカードの登録を義務化して移動体通信事業者や利用者にSIMカードと個人情報をひもづけるよう強制した政策によるものだといわれる。2015年から2016年にかけて起きた債務問題による金融危機を受けての不況の後、ICT部門に対する投資額は2017年に回復の兆しが見られ、前期と比較して9%増加している。

INCMのエコノミストであるジョアキン・ジンドガ氏は、ヒアリング調査で「ICT分野でビジネス展開する外資企業には中国が多い。今後スタートアップ企業を含めた日本企業の進出を期待している。その際、当局は情報提供を積極的に行う」と前向きなコメントをした。

デジタル・インクルージョンの現状

モザンビークでICTが社会に浸透しつつある中、すべての人がICTのメリットを享受できる社会をつくる「デジタル・インクルージョン」という考え方にも焦点が当てられている。アフリカで日本企業進出を手助けする国際連合工業開発機関(UNIDO)のナンジオ・ドゥラオ氏にこの分野について話を聞いた。


UNIDOのナンジオ・ドゥラオ氏(ジェトロ撮影)

ドゥラオ氏によれば「モザンビークはICTによる国家開発を始めたアフリカで最初の国の一つとして知られる」という。

政府はグローバル情報社会の到来を受けて、1998年にはICT政策委員会を立ち上げた。2000年に閣僚理事会の承認を得て、2002年には国内の生活インフラ向上を目的とした「ICT実施戦略政策」を策定した。ICT政策を絶対的貧困削減行動計画の実施をサポートする重要な手段と位置づけ、対象は(1)教育、(2)人材育成、(3)保険、(4)ユニバーサルアクセス、(5)インフラ、(6)ガバナンスの6つの主要分野とした。この政策には37の行動計画があり、約2億8,000万ドルを超える国家予算が投入されたという。

ICT政策の実施戦略に基づいた行動計画には、デジタル・インクルージョンの取り組みが含まれ、地方のデジタルリソースセンター(CPRD)の設立がある。CPRDではICT技術戦略と、市民が利用するモバイルICT教育などを含んだ基本的なITスキルトレニンーグを提供するICTユニット(通信機能・設備)を確立した。また、第2段階として市民社会と協力した地区レベルでの取り組みを開始し、ラジオコンポーネント(コミュニティーラジオとも呼ばれる)を含む自治体マルチメディアセンター(CMC)が立ち上がった。

教育能力開発の分野であるICT政策戦略では、(1)学校におけるインターネット教育、(2)ICTリテラシー教育、(3)ICTアクセシビリティ(高齢者、障がい者をはじめ、あらゆるユーザーがパソコンやWebページなどの情報資源を不自由なく利用できる「ユニバーサルデザイン」の考え方)に基づいたスキル、電子コンテンツの開発が重点的に盛り込まれた。学校教育においては、コンピュータースキルを無料で提供することを目的としたプログラムや、さまざまなレベルの教育のカリキュラムに沿ったインタラクティブな形式のICTコンテンツの制作が行われている。

モザンビーク国内でのデジタル・インクルージョンについて、ドゥラオ氏は「モザンビークでは、ICT政策立案からおおよそ20年を迎えるが、ICT政策によってもたらされた変化が、政府、学界、市民社会などあらゆる社会において良い結果をもたらしているといえる」としている。 また、「今後、市民中心のデジタル・インクルージョンに焦点を当て、変化するICT環境に政府が積極的にアプローチし、市民に情報提供していくことが重要だ」と話した。

世界中で起こるICT分野の新たな発展に伴い、モザンビーク国内でもさまざまなICT技術が活用されつつある。政府は安価で高速なICTインフラの整備を行い、イノベーションを強化することが重要で、今後さらなる投資の促進が必要となってくるのではないだろうか。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
伊藤 千春(いとう ちはる)
2018年、ジェトロ入構、現職。