税関による追加文書提出要求には一貫した説明資料提出が肝要(ロシア)
通関問題に関する意見交換会を開催(1)

2018年5月11日

在ロシア日系企業が直面する通関問題で一番多いのが、課税申告価格の修正および追加文書提出要求だ。当地でビジネスを行う多くの貿易事業者は税関からの要求に真摯(しんし))に対応している一方、税関による度重なる追加文書提出要求への対応に疲弊している企業も存在する。これに対しては、矛盾のない一貫した文書提出と税関が求める追加書類を想定することが肝要だ。2018年1月18日に開催したモスクワ・ジャパンクラブ(JBC)通関委員会と在ロシア欧州ビジネス協会(AEB)通関・運輸委員会との意見交換会における、ロシアの大手法律会社DLA パイパーのシニア・アソシエート、セルゲイ・ワシリエフ氏の講演内容を報告する。

ジェトロが事務局を務めるJBC通関委員会では、ロシアへ進出している外国企業間の通関問題に関する情報やベストプラクティスの共有に向け、AEB運輸・通関委員会との意見交換会を定期的に実施している。意見交換の実施に当たり、JBC側は通関問題アンケート結果(2018年3月19日付通商弘報記事参照)や通関委員会参加企業の要望に基づき、「課税標準価格修正と追加文書提出要求への対処法」、「適用HSコードの修正要求への対処法」、「税関によるリスクマネジメント」といったテーマを議題とした。今回は3回にわたり、同意見交換会での発表内容を報告する。第1回目は「課税標準価格修正と追加文書提出要求への対処法」について。

一部の決定事項はユーラシア経済委員会に

ユーラシア経済連合(EEU)の課税標準価格の決定原則はGATTルールを元にしている。しかし、実際の運用は必ずしも法令と一致していないことがある。関税同盟関税基本法に代わりEEU関税基本法が発効したが(2018年1月1日)、課税標準価格の算定方法に関する主要な原則は過去のルールのまま残っている。例えば、税関当局は課税標準価格に係る提出書類の妥当性について、事業者に確認を求めることができるという原則は変わっていない。他方、同原則の一部はユーラシア経済委員会(EEC)の権限になり、例えば、課税標準価格に関する申告書の書式等の採択はEECが実施することとなった。輸入時の課税標準価格決定や事前調査・審査などは引き続き加盟国自身が決定する。

課税標準価格の事前教示制度については、EEU関税基本法の中で規定されているが、ロシアにおいて、現時点で細則・ルールは決まっていない。現在の連邦法案をみると、一般的な決定方法のみが連邦法で規定され、具体的な決定方法については財務省令で規定されることになる。現状でロシア連邦法に盛り込まれる予定の事項としては、事前教示期間が30日以内という点のみである。

矛盾あるデータは追加検査の対象に

課税標準価格の妥当性を裏付けるための情報源として税関が活用するのは次のようなものである。a.同種の同一または類似の製品に関する取引情報、b.証券取引所での為替相場、オークション価格、価格カタログ情報、c.海外(第三国)におけるEEU加盟国の通商代表部から取得した情報、d. EEU加盟国の公的機関からの情報、e.申告された同一・同種の製品のサプライヤー、メーカーを含む企業・協会からの情報、輸送会社、保険会社からの情報。

申告者が、申告内容について虚偽の指摘を受けるのは、申告書に記載された内容が製品自体の情報と一致していない場合や、公開されている価格と比べて低い価格が提示されている場合などである。特に虚偽と指摘されやすいのは、親会社と子会社間の取引等など、売り主と買い主の間に強い関係性が見られ、独立した企業間の取引価格と比べて、課税標準価格が低い場合などである。

虚偽申告の疑いがある場合、税関は追加検査や申告者への追加質問を行うことが可能となる。追加検査要求が行われる際、税関当局が申告者に明示するのは、当該情報が必要となる理由、求められる情報の種類、情報提出の期限、などである。

積極的な文書提出が肝要

他方、税関から提出要求のあった書類がそもそも存在しない場合や、当該書類を保有している事業者が申告者に対して書類を渡すことを拒否する事例もあろう。その際には、申告者が立証手段として妥当と考える課税標準価格を証明する書類を、積極的に提示することが肝要である。特に裁判の際、適時に提出されなかった文書については、裁判でも証拠として除外される可能性がある。

税関からよく求められる追加文書リストは次のとおり。最も頻繁に提示が求められるものはプライスリストであり、経理上の書類やカタログ等の製品の外観がわかる書類も頻繁に要求される。また、親子会社を含む関連企業同士の取引とみなされた場合、そうではないということを証明する書類も必要となる。さらにライセンス契約などが絡み、課税標準価格にロイヤルティーなどの算入が必要な場合も、追加の書類提出要求の可能性がある。

税関が一般的に求める追加提出書類リスト

  1. 生産者/販売者のプライスリスト、同一・同種、同等クラス製品の商業プロポーサル
  2. 積出国における貨物価格情報(輸出申告書など)
  3. 貨物の支払い関連する書類
  4. パッキングリスト
  5. 同一・同種製品の申告に関連する会計書類
  6. 同一・同種製品の商標(ブランド)、モデル、製品の価格情報
  7. ユーラシア経済連合域内で販売される同一・同種製品の供給契約書
  8. 販売者が購入者に対して割引を行う根拠と条件に関する説明書
  9. 製品の物理的性質、品質、評判、価格に影響を与えている情報・書類
  10. 運送、積み荷・積み下ろし、積み替えなど貨物の輸送に関連する書類・情報
  11. 建設、組み立て、導入、保守等に関連するユーラシア経済連合領域内への製品輸入に関連する活動を確認する書類・情報
  12. 販売者と購入者との間に関係性がないこと、また、販売者と購入者の関係性が製品取引に影響を与えていないことを確認する書類
  13. 使用許諾契約書、VATインボイス、銀行支払書類、会計書類、その他製品に関連する知的財産の利用に向けた支払い情報が含まれている書類
  14. その他の書類・情報(製品の生産者、輸送者、販売車に関連する情報を含む)
出所:
DLA Piper提供資料より作成

追加検査が課された場合でも、デポジットを支払えば貨物はリリースされ、その後に課税標準価格の立証手続きを行うことが可能である。デポジットの手段は現金か銀行保証だ。注意すべきことは、デポジットの対象となる商品の比較物が同一のHSコードや同一原産国である場合だ。物理的な特徴などがかなり異なる比較物でも、その価格がデポジットの根拠とされる場合がある。

執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所 所員
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。