ロシア中小企業インタビュー(5)食品容器から自動車部品まで幅広く対応

2018年12月14日

レニングラード州のプラスチック容器メーカー「ミル・ウパコフキ」は自社グループで金型を製造し、顧客の要望に応じた多様な製品を製造している。容器の用途は食品から日用品までさまざまだ。最近では自動車部品の製造も手掛ける。同社の営業ディレクター、アレクセイ・ホミチ氏と、グループ内の金型メーカー「マトリッツァ」のゼネラルディレクター、バガウジノフ・チムール氏に、企業概要や経営状況について聞いた(2017年12月)。ロシア中小企業インタビュー連載の5回目。

金型からの一貫生産に強み

質問:
企業概要について。
答え:
プラスチック容器メーカーとして1999年に創業した。国内外の大手の食品や日用品メーカーの容器を製造している。「ミル・ウパコフキ」はロシア語で「包装の世界」という意味だ。グループ会社のマトリッツァはオランダの容器メーカー、ファンデンブリンクとの合弁で2008年から操業し、金型の設計・製造を行っている。

自社製品の前に立つ営業ディレクターのアレクセイ・ホミチ氏(右)と
「マトリッツァ」のゼネラルディレクター、バガウジノフ・チムール氏(ジェトロ撮影)
質問:
製品のプラスチック容器の特長は。
答え:
金型作成から自社で行っていることが強みだ。顧客の要望に合わせて柔軟に対応することができる。製品の精密性を売りにしており、厚みと均一性にこだわっている。
質問:
金型製造における特徴について。
答え:
独自の設計ソフトやフライス盤の24時間自動化、IT技術を活用した品質テストにより、設計から金型完成まで3カ月程度と、業界の中でも早い工程期間が強みだ。容器は厚さ数ミリで、かつ全体を均一の厚みにする必要があり、設計、テストがとても重要だ。ITによる管理と実査を繰り返して品質管理を徹底している。
工作機械はドイツ、オランダ、イスラエル製を主に利用し、日本製では放電加工機を使っている。金型のメンテナンスや組み立ては手作業。耐久性強化のために真空熱処理で金型を硬化している。この設備はロシアでは珍しいため、他社製品や軍需製品の加工受託も行う。また、ミル・ウパコフキ用の金型だけでなく、他社向けの金型生産も受託している。
質問:
容器製造工場の運営体制は。
答え:
正月と夏季休暇を除いて24時間稼働している。シフトは4交代制。容器製造は機械で自動化しており、商品情報のプリントも容器成型時に自動で行われる。バケツなどの取っ手部分の取り付けは手作業で行っている。梱包(こんぽう)も手作業だ。不良品は粉砕しチップにして売却している。食品用途が多いため、再利用は厳禁だ。金型はマトリッツァ製だけでなく、顧客が指定するものを使用することもある。IT部門を設けており、品質管理システムを用いてオンラインで各設備の工程を確認することができる。衛生管理のため月1回設備を洗浄している。
質問:
雇用や人材育成はどうしているか。
答え:
エンジニアは大卒で専門知識を有する者を採用している。競合他社からの転職者も受け入れている。10年以上の勤続者は全体の3~4割程度。熟練技術者や経営層の流出は今のところない。今後は自動化を一層進めていく予定だ。
質問:
財務管理は。
答え:
経営財源は主に自己資金だが、プロジェクトの規模によっては銀行から借り入れる。支払い条件は顧客ごとに異なるため、顧客と綿密なコミュニケーションを図り、信頼関係を築いている。多品種・他産業との取引によってポートフォリオが組めている。
質問:
今後の経営戦略について。
答え:
取り扱いの産業領域を広げようと試みており、2014年から自動車用のプラスチック部品(換気扇など)の生産を開始した。自動車部品の製造は、基準や品質管理方法が食品産業とは異なるため、順守するのに苦労した。特にインテリア部品の場合は、見た目も良くなければならない。材料は自動車部品メーカーが提示するリストから購入する必要があり、自社で購入できない制約もある。
今後は医薬品用の容器製造も検討している。将来的にはオンラインショップも開設したい。レニングラード州の各地に倉庫を作り、小売りにも対応できる体制を整える。生産余力はまだ十分にあるため、食品や日用品の容器の受託も引き続き増やしたい。
質問:
国や地域行政からの支援は。
答え:
州や市政府から各案件ベースで補助金を受けている。今後は経済特区の利用も検討している。
質問:
日本企業との協業可能性はあるか。
答え:
過去に弁当容器の製造オファーがあったが、物流コストの面で採算が合わずに話が流れた。切断機や金型製造に必要な鋼材の輸入を検討したい。価格や品質で勝算があれば、自社の金型を日本に輸出してみたい。
インタビュー先企業情報
企業名 ミル・ウパコフキ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
所在地 ロシア・レニングラード州
主な事業、取扱製品・サービス 樹脂製品製造
日本企業への提案や関心事項 樹脂製品の製造受託
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。