ロシア中小企業インタビュー(9)日本の高付加価値製品には継続的プロモーションが必要

2018年12月27日

ロシア第3の都市ノボシビルスクで建材・建設機材販売を手掛けるストロイランド社は、シベリア地域で日本の寒冷地技術の売り込みに取り組んでいる。同社のアレクセイ・ズロチン社長に、シベリアにおける日本製品販促の経験と留意点について聞いた(2018年2月)。ロシア中小企業インタビュー連載の9回目。

経済危機下でも仕入れ先への品質管理の徹底で成功

質問:
企業概要について。
答え:
当社は2006年に設立。創業当初は住宅外壁の取り付け工事を主に行っていたが、2009年の経済危機を契機に外壁材の販売を始め、2014年には建材の代理店ビジネスを始めた。外壁以外の取り扱い製品は建設現場用の足場、階段、補助階段など。
アレクセイ・ズロチン社長(ジェトロ撮影)
2017年の売上高は1億8,400万ルーブル(約2億9,440万円、1ルーブル=約1.6円)。過去3年間で毎年15%増加している。日本製品では寒冷地用作業用手袋、パネル外壁材(サイディングボード)、融雪ゴムマットを扱っているが、現時点の売上高は年間50万ルーブルに満たず、売り上げ全体に占める割合は非常に小さい。まだ市場での認知度が低く、これからのビジネスだと考えている。
従業員は21人。オフィスはノボシビルスク市内に2カ所、倉庫も同市内に1カ所構える。国内大手外壁材メーカーとつながりを有しており、独占的代理契約を結んでいるところもある。主な販売地域はシベリアとロシア極東だが、製品はロシア全土で販売している。国有企業の調達にも参加しており、ロシア石油大手ロスネフチ、ロシア鉄鋼大手エブラズ、ロシア鉄道などに納入実績がある。
質問:
品質管理体制で注意している点はどこか。
答え:
経済危機により、建材市場では生き残りをかけて、コスト削減する企業が増え、同時に製品の品質が低下した。金属の厚さが薄くなったり、塗装の質が低下したり、安価な材料を使うようになった。当社は厚さ、コーティング、品質を検査し、十分でない場合は、仕入れ先に改善を求め、品質を担保した。納入先からは嫌な顔をされたが、契約どおりの品質で納入された。これにより、市場で評判が立つようになった。

手厚い教育や待遇で従業員の育成・定着を図る

質問:
従業員の育成のポイントは。
答え:
従業員向けの研修は、定期的に実施している。新入社員はまず、会社と製品に関する3カ月のコースを受講する。毎週、外部からトレーナーが来て、顧客への接し方についてトレーニングを行う。
働きやすい環境づくりも重要。労使間の人間関係が一番大切であり、従業員と対話しやすい環境づくりに注力している。ロシアでは給与の遅配が多い。当社では従業員の定着を図る一環で、期限より2~3日早く支払うことを心掛けている。また、各従業員が自分の業績評価について、財務部門へ照会するシステムがある。月間売上高を達成した従業員には、ボーナスを支給している。経理や物流など管理・間接部門のスタッフであっても、会社全体の売り上げが上がれば、賞与が与えられる。当社は同業他社よりも、給与や福利厚生が良いため、退職者が出ても同業には転職していない。
質問:
財務や取引上のリスク管理について。
答え:
自己資金で運営しており、銀行融資を受けたことはない。
取引リスク管理については、顧客に対して原則として前払いを求めているが、顧客との取引実績や信用情報次第では後払いを認めている。当社では、企業の罰金や裁判履歴などを調べることが可能なデータベースを購入している。引き合いがあった際に確認し、企業情報に疑念があれば、実際に面談している。顧客が債務不履行となった際は訴訟を起こすケースもあるが、最終的に債権を回収することは難しい。

日本製品の販売には品質の説明と継続的な営業が必要

質問:
日本企業とのビジネスの状況、魅力や苦労点について。
答え:
2016年から、日本企業とのビジネスに取り組んでいる。現在、提携しているのは3社。2016年および2018年に、日本側からの招待で訪日したことがきっかけだ。ノボシビルスク市は札幌市と姉妹都市交流を行っており、シベリア北海道センターが日本企業とのやり取りにおいて、通訳をサポートしてくれる。2017年に社内に日本デスクを設け、スタッフを1人雇用した。
日本製作業用手袋の販売促進のため建設・施工会社への営業を行ったが、結果は芳しくなかった。配布したサンプルは使ってもらったが、価格が高すぎることもあり、購入につなげることはできなかった。数カ月プロモーションを行っても結果が出なかったため、ハンティングや釣り向けに営業対象を変えた。現在はホームセンターに卸している。この方向転換が当たり、ホームセンターでの売れ行きはまずまずである。
結論として、法人相手の場合、節約傾向にあるため、従業員用にわざわざ高い手袋を調達しないが、個人は自分のためなので多少価格が高くても購入することが分かった。現在は、ハンティングや釣り向けを強調したスタンドを専門店に設け、プロモーションを行っている。今後は、個人・家族向けに日本製品の販促を行うため、「ジャパンテクノロジーセンター」をノボシビルスクに設置することを考えている。
他方、日本製品のロシアでのプロモーションには幾つか留意点がある。1つ目は、日本の産業技術をロシアで普及させるには、製品の市場への適応が必要であること。例えば、ユーザーがロシア人ワーカーの場合、ロシア語しか分からないことが一般的であるため、機器表示の言語をロシア語に翻訳する必要がある。
2つ目は、ロシアではビジネスを行う際に、多数の書類が求められること。必要書類は製品によって異なり、簡単に取得できるものもあれば、試験が必要で、時間がかかるものもある。
3つ目は、値段の問題。他国製品に比べて高価なので、日本製品の優位性を示していく必要がある。日本製のイメージは良いが、中国やロシアの同様の製品に比べ高い。商品の良さをPRしても、すぐに結果が出ないことを認識した上で、ロシア消費者への継続的なアプローチが必要だ。
今後は、日本製品の取り扱い種類を増やしたい。消費者にさまざまな製品を提案し、消費者の選択の幅を広げることが重要だと考えている。
インタビュー先企業情報
企業名 ストロイランド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
所在地 ノボシビルスク州
主な事業、取扱製品・サービス 建材・建設機材の輸入・販売
日本企業への提案や関心事項 日本製の建設資材・建設機材・道具などの輸入・販売
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。