政府、冬季のガス需給逼迫に備え対策急ぐ(中国)
2017年の華北地域での深刻な事態を教訓に

2018年6月7日

2017年、中国華北地域では暖房シーズンの到来に伴い深刻なガス不足が発生した。数多くの企業はガスの供給制限に直面し、生産活動に大きな影響が出た。中国政府は2018年の冬季に二度と同じようなことにならないよう、例年より早くガスの供給量を確保しようと対策を講じている。しかし、次の冬季も依然として需給逼迫の可能性が高い。企業は政府が取ろうとする対策の自社への影響を十分に分析した上で、いざという場合の生産活動への影響を最小限に抑える対策を検討する必要があるだろう。

ガス需給逼迫の地域が広がる可能性も

中国石油集団経済技術研究院によれば、経済の好転、石炭燃料からガスへの転換の推進により、2018年もガス需要が一層増加することが見込まれている。そしてガス業界は、北京市や天津市といった華北地方を中心に、暖房シーズンにおけるガス需給逼迫が中西部、中南部、華東地域に広がる可能性があるとの悲観的な見方も示している。

中国政府は、ガスの需要がピークとなる2018年冬季に向けて、(1)国産ガスの増産、(2)輸入ガスの確保、(3)ガス供給大手3社間のパイプラインネットワークの相互連結を最大限実現することによる南北地域間のピーク調整の柔軟性向上、(4)ガス貯蔵施設の建設加速、(5)ピーク調整メカニズムの構築、という5つの方面から対策を始めている。

4月27日の国家発展改革委員会の記者会見で報道官は、過去数カ月の間にガスの生産・供給・備蓄・販売システムの整備が進んだと説明。輸入と国内生産を含む供給体制を可能な限り確保することで暖房シーズンのガス不足を抑えようとするが、ピーク時に不足が発生する可能性は依然あると認めている。不足時の対応については、中期的には上述の(4)ガス貯蔵施設の建設加速、短期的には(5)ピーク調整メカニズムの構築に期待を寄せている。

すぐに効果が期待できる対策として、(5)ピーク調整メカニズムの構築が挙げられる。国家発展改革委員会は2018年冬季に需給が逼迫する可能性が高いと示唆した上で、ピーク調整メカニズムの構築について以下のように説明している。

ユーザーを3分類し需要の全体像を把握

まず、2018年4月までに全てのガスユーザーとの契約を完了し、ユーザーを「供給調整可能」「供給中断可能」「供給中断不可」の3つに分類して、需要の全体像を把握する。「供給中断可能」なユーザーに対しては契約の中で削減量と削減時間帯を明確に定め、中央政府と地方政府が対象ユーザーに対して、それぞれ1億立方メートル程度の調整能力を整備する。中央政府は主に中国ガス供給大手3社から直接供給する大口ユーザーに、地方政府は地方のガス販売会社からユーザーに、それぞれ供給枠を充てる。ピーク調整の方法としては需給ギャップの度合いにより、中断可能なユーザーへの供給量をまず20%減らし、その次の段階でさらに30%減、最後の段階で残りの50%、つまり完全に供給を停止する。ピーク調整に協力したユーザーが受けた供給量の削減や停止による経営・生産の損失を、ガス料金の優遇価格とオフシーズンの供給量増加によって補填(ほてん)するという。また同委員会は、この取り組みで契約内容とピーク時の需給逼迫状況を把握し、ある程度事前にガス供給状況を判断でき、ユーザーも事前に対策を講じることで損失を最小限に抑えることが可能との見解を示している。

次に中期的な措置となる(4)貯蔵施設の建設加速についてみていく。2017年11月に国家発展改革委員会は「貯蔵施設の建設」に関する緊急通達を公布し、天然ガス供給のバックアップ体制の構築に本腰を入れている。同通達によると、2020年までに天然ガス供給企業(注1)にはその年の年間供給量の10%以上、地方ガス企業には年間供給量の5%以上、県級レベル以上の地方政府にも3日間の需要量に相当する貯蔵施設の整備を義務付けている。貯蔵施設が計画どおりに整備できた場合、国として年間需要量の16%に相当する貯蔵能力を有することになるが、工事期間が通常3年以上必要となるため、整備が完了するのは早くて2020~2021年となるだろう。従って貯蔵施設の整備が完成するまでは、「供給中断可能」なユーザーに対する需給調整が冬季のガス不足を回避する最も現実的な手段だと思われる。

2017年冬季の供給不足は需要側と供給側双方に問題

2017年冬季のガス需給不足の原因を振り返ると、需要側と供給側の双方に問題があったと考えられる。需要側においては、経済が比較的好調だったことにより工業用ガスの需要が増加したこと、また年度途中のガス料金の引き下げにより、エネルギー消費量の多い産業のガス需要量が増加したこと、発電用のガス需要も増えたことなどがガスの需要増加につながった。さらに最も大きな需要増の要因としては環境保護対策がある。2017年は「大気汚染防止行動計画」(「大気十条」と呼ばれている)の最終年で、地方政府が厳しい問責措置(注2)を恐れボイラー燃料の石炭からガスへの転換を集中して行ったため、ガスの使用量が急激に増加した。また2017年8月下旬に環境保護部(現生態環境部)は「2017~2018年秋冬季(2017年10月~2018年3月)の大気汚染改善行動計画」を打ち出し、対象地域における居住者向け燃料の石炭から天然ガスへの転換世帯数、暖房用および工業用石炭ボイラーの淘汰(とうた)数などの目標値を設定し、北京、天津およびその周辺の26市政府に達成を求めた。これにより例えば河北省は、居住者向けの180万世帯分の転換目標に対し、2017年12月時点での転換完了が231万8,000世帯と目標を大幅に上回り、同省だけでも冬季の暖房用ガス需要として20億立方メートルが新たに生まれることとなった。

また、需要の旺盛な冬季にパイプライン経由で輸入されるガスが予想外に減少したことも、ガス不足に拍車を掛けた。中国のガス供給は国産ガスと輸入ガスで構成されているが、国内生産量の増加が限定的である中、輸入依存度は2013年に30%を突破し、2017年には39%に拡大している。通常、輸入依存度が30%を超える場合、年間消費量の10%に相当する地下貯蔵設備のほか、エンドユーザーに近い都市部で貯蔵タンク施設をある程度整備する必要があるといわれる。中国でも2014年初、政府は貯蔵施設の不足を危機と捉えて、「天然ガスインフラ施設建設および運営管理弁法」を公布している。ただし2014~2016年の3年間は中国における天然ガス需要の伸びが8%、5.7%、6.6%と低水準で推移したため、関連施設整備への投資が遅れ、2017年時点で中国の地下貯蔵量は年間消費量のわずか3%にすぎなかった。2017年については陸上パイプライン経由の輸入は全輸入量の約45%、海上輸送で輸入する液化天然ガス(LNG)は約55%となっている。パイプライン経由で輸入するガスは、中央アジアの3カ国が最も重要な供給源だが、3カ国は自国内の需要を満たすため中国への輸出量を減らした。そのため、2017年の11月中旬から12月中旬までの1カ月間、パイプライン経由の輸入量は、計画では1日当たり1億2,000万立方メートルだったが、実際は3,000万~4,000万立方メートルの供給不足となった。同期間中は、沿海部のLNG受け入れ基地の負荷も最大レベルに達し、LNGの受け入れを増加させる余裕がなかった。予想を大幅に超える需要に輸入量の予想外の減少が重なった結果、2017年冬季の華北地域は深刻なガス不足となった。

ユーザーに求められる計画的な対応

11月から翌年3月までの暖房シーズンは当然中央アジア3カ国でも冬季だ。3カ国は国内需要を満たすため、2014年以降、毎年冬に中国への輸出量を減らしてきた。中国政府はガスの輸入量確保に努めるものの、次の冬季も陸上パイプライン経由のガス輸入が100%確保できるとは限らない。そして沿海部のLNG受け入れ施設の拡大が限定的であることに加え、冬は天候によりLNG船が入港できないことが何度もあった。華北地域はもちろんだが、12月と1月は華東地域でも最低温度が零度近くに下がり暖房用の需要が増える。また、2019年の旧正月は2月5日で、旧正月休暇前の集中生産により12月と1月の需要量が増す可能性もある。こうしたことを考えると、12月と1月はガス供給を制限される可能性が高い。貯蔵施設の建設は急ピッチに進められているが、この冬季のピーク調整の役割がまだ期待できない中、末端のユーザーとしては生産計画の繰り上げや、緊急時の部品調達、納品責任を果たすための供給体制を構築しておく必要があるだろう。


注1:
中国石油天然気集団、中国石油化工集団、中国海洋石油集団の3社を指す。
注2:
2015年中国政府は「党と政府の指導幹部に対する生態環境損害責任の追及弁法(試行)」を公布。環境保護に関する法令を十分に実施できなかった幹部の責任を生涯にわたって追及する制度を設けた。
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所(執筆当時)
魯 寅萍(ルー イピン)
2007年、ジェトロ青島事務所入所、進出日系企業の相談業務を担当。2014年に中国司法試験に合格。