【中国・潮流】大連は「世界第3位」の地位を維持できるか?

2018年12月3日

外務省が発表した「海外在留邦人数調査統計(平成30年版)」によると、2017年10月1日時点での世界都市別の日系企業(拠点)数は、上海、バンコクに次いで、大連は第3位となっている(表参照)。ちなみに、平成28年版の統計では、大連は上海に次いで世界第2位であったが、平成29年版の統計で、大連がバンコクに抜かれ3位に転落したことが明らかになった。実は、大連の日系企業数が「世界第3位」であることは、大連で働く日本人駐在員や大連市の政府関係者にもあまり知られていない。

表:世界都市別日系企業(拠点)数、上位20位 (△はマイナス値)
順位 都市名 日系企業
(拠点)数
前年比
1 上海 10,043 △0.4
2 バンコク 1,935 84.3
3 大連 1,550 △7.0
4 香港 1,378 0.1
5 シンガポール 1,199 5.1
6 北京 984 △2.4
7 青島 974 2.1
8 ロサンゼルス都市圏 832 9.9
9 ホーチミン 801 12.5
10 天津 691 △2.7
11 マニラ都市圏 641 0.6
12 台北 614 3.4
13 蘇州 604 0.0
14 ニューヨーク都市圏 567 0.9
15 広州 523 0.2
16 ウランバートル 495 32.0
17 シカゴ都市圏 487 0.2
18 大ロンドン市 472 △1.9
19 グルガオン(インド) 439 15.2
20 アトランタ都市圏 436 2.3
注:
2017年10月1日時点
出所:
外務省「海外在留邦人数調査統計(平成30年版)」

大連の日系企業数が多いこともさることながら、気になるのはその減少率である。表によると、2017年10月1日時点での大連の日系企業数の減少率は前年比7%減と、上位20位の中で最も大きい。

大連への日系企業の進出が始まったのは、中国の中では早い方で、日系企業の進出第1号は1984年、食品加工関連の合弁企業であった。その後1987年に、中国における外資系単独資本企業の第1号としてマブチモーターが大連に拠点を設立した。当時、日系企業が大連に進出した目的は、大連は日本と近く、港があり、人件費も安かったため、製品を大連で加工して日本向けに輸出するためであった。

昨今、大連の日系企業数が減少している背景には、(1)輸出加工拠点としての位置付けが低下していること、(2)中国の他の都市に比べて経済成長率が高くないこと、(3)大連を含む東北地域の販売市場が大きくないため、内販を狙う新規の進出が振るわないこと、(4)上海を含む長江デルタ地域や広東省周辺の珠江デルタ地域に比べて、大連を含む東北3省は国有企業の割合が依然として高く、また、東北3省にはイノベーション関連企業が少ないため、新規のビジネスを探すのが難しい、といったことなどが考えられる。

一方で、大連は中国の中では随一の親日的な都市と言われており、日本語人材の割合も中国の中では最も高い(2018年5月11日記事参照)。日系企業も多く、大連は日本との関係が中国の中でも突出した都市である。昨今の日中関係の好転もあって、大連市政府関係者との意見交換の場も増えており、日本との関係をさらに重視していきたいという声も以前に比べて確実に増えている。

最近、これまで以上に、大連の日系企業から「中国の内販を強化していきたい」という声を聞くようになり、2018年9月にジェトロ・大連事務所が事務局となって、「内販研究会」を立ち上げた。中国での内販拡大は簡単なテーマではないが、この研究会の活動を通じて、大連の日系企業の内販が少しでも拡大していくことを切に願っている。さらにジェトロ・大連事務所では今後、大連で事業展開を行っている日系企業とともに、大連におけるイノベーションを含む今後のビジネス環境改善のため、大連市政府に積極的に提案をしていきたいと考えている。

「世界第3位」の地位を維持するためには、大連にいる日中の関係者が本気で知恵を絞る時期に来ていると感じている。

執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所長
水田 賢治(みずた けんじ)
1992年、ジェトロ入構。中国語研修、ジェトロ・上海事務所勤務などを経て、2017年6月から現職。