新体制下で改革進むウズベキスタン

2018年4月9日

ウズベキスタンが変わりつつある。ミルジヨエフ大統領の強力なイニシアチブのもと、急ピッチで改革が進んでいる。改革は社会全体に及んでいるが、とりわけ外為規制の緩和を軸とするビジネス環境の整備に進展が見られる。移行期の課題は残るものの、中央アジア最大の人口を誇る市場へアプローチする機会は見逃さないようにしたい。

改革への評価は前向き

前カリモフ大統領の急逝を受け、シャフカト・ミルジヨエフ元首相が2016年12月の選挙を経て大統領に就任してから1年余り。この短い期間に新大統領は文字通り矢継ぎ早に新政策を打ち出してきた。『ウズベクのペレストロイカ(刷新)』(インターネット版「ドイチェヴェレ」(2018年1月24日)とすら称される改革は、内政から外交、そして経済のさまざまな部門に及んでいる(表参照)。

表:ミルジヨエフ大統領の主な改革と出来事(2017年以降)

社会分野
2017年1月 汚職対策法公布
2017年4月 対外経済関係投資貿易省を貿易省へ改組、国家投資委員会創設
大統領が官僚に24時間勤務を訓令
企業民営化・競争発展支援委員会創設
2017年6月 アジモフ副首相兼財務大臣解任
ロシアとの労働移民政府間合意批准
2017年7月 24時間報道チャンネル「UZ24」発足
グルノラ・カリモワ氏(注1)の海外資産差し押さえ
2017年8月 ロズクロフ副首相解任
企業活動支援委員会創設
綿花収穫強制労働禁止発表
2017年9月 訪米、国連総会での演説
就学前教育省創設
2017年11月 訪韓
政府批判演説、ガニエフ貿易大臣ら解任
2017年12月 国家開発計画融資基金創設
財務省職員500名余解雇
祝祭日の移動と連休化、週末の代替労働日の設定などを含む2018年祝日発表
2018年1月 外交改革に関する演説
日本など30日間ビザなし渡航導入
イノヤトフ国家保安庁長官解任
注1:
カリモフ元大統領の長女
出所:
ジェトロ・タシケント事務所とりまとめ
経済分野
2017年1月 製薬産業に特化した4経済特区設置
一般型の4経済特区設置
2017年2月 2017~2021年の五つの行動戦略策定
2017年3月 発展戦略センター創設
2017年5月 一般型の7経済特区設置
2017年6月 GMウズベキスタン製乗用車、スム建て販売に統一
対カザフスタン輸出手続き簡素化
政策金利9%→14%に引き上げ
一部商業銀行で実勢レートによる対法人のコンバージョン(外貨交換)を導入
2017年7月 野菜・果物の輸出独占解除
2017年8月 輸出外貨強制売却撤廃
2017年9月 複数為替一本化、外貨交換自由化
ホテル、スム払い導入
2017年10月 欧州投資銀行(EIB)活動開始
欧州復興開発銀行(ERBD)融資3件決定(注2)
2017年11月 ガソリン価格引き上げ
WTO加盟作業再開
スム資金の外貨建て外国送金開始
2017年12月 法定月額最低賃金引き上げ
2018年1月 2,000ドル以下の外貨持ち込み・持ち出し、申告不要に
水道料金引き上げ
注2:
対外経済活動銀行に1億ドル(対中小企業融資、貿易金融資金)。農業企業LLC JV Agromir Juiceに1,000万ドル。医療関係企業Mutabar Medical Standart LLCに1,000万ドル。
出所:
ジェトロ・タシケント事務所とりまとめ

国民の評価も上々だ。世論研究センター「イジティモイ・フィクル」が2018年1月に実施した調査によると、93.7%の回答者が「新大統領は短期間で高い権威と国民の信頼を獲得した」と高い評価を与えている。中央集権的なウズベキスタンでの世論調査である点を差し引いて考えても、国民の大多数が新政権を支持している様子がうかがわれる。

国際金融機関も経済分野の改革に前向きな評価を与える。国際通貨基金(IMF)代表団は2017年11月、「大統領が推進する優先的発展戦略に基づいた、マクロ経済の安定と投資環境の改善に向けた効率的な移行のための取り組みを肯定的に評価する」とプレスリリースで発表。欧州復興開発銀行(EBRD)が10年ぶりにウズベキスタンでの活動を再開したことも、政府取り組みへの評価の証左と言える。

ビジネス環境の正常化へ前進

ミルジヨエフ改革が最も目に見える形で具現化したものが、通貨スムの複数為替レートの一本化とコンバージョン(外貨購入)の自由化だ。2017年9月、それまで1ドル=4,000スム前後だった公定レートを当時の実勢(市場)レート1ドル=8,000スムにまで切り下げた。力ずくのレート統一は輸入品を中心とするインフレ高進や対外債務返済の負担増を招くのではと懸念されたが、ほぼ杞憂(きゆう)に終わったと言える。市中の商品やサービス価格は、長期間にわたり実勢レートをもとに値付けされていたうえ、当局は公共料金の値上げを先送りする措置を取った。11月のガソリン価格、12月の法定月額最低賃金の引き上げを受け、2017年のインフレ率は14.4%と、例年の一けた台に比べれば高めに推移したものの、ソフトランディングに成功したと言えよう。対外債務残高の国内総生産(GDP)比は2017年末で22.2%と、カザフスタン(110.1%)、キルギス(73.1%)など周辺国と比べ、その低さが際立っている。

外貨購入の自由化は銀行窓口での現金の購入こそ実現していない(2018年3月10日時点)とはいえ、法人は新たな公定レート換算による銀行での外貨購入が可能となった。従来、公定レートによる銀行での外貨購入は、優先的な外貨購入枠を認められた自動車組み立てメーカーをはじめとする輸入代替産業などの極めて少数の法人に限られていた。

外為規制緩和の効果は徐々にビジネス環境の正常化にも好影響を及ぼしつつある。ウズベキスタン中央銀行の発表によると、2017年9月~11月の法人による外貨購入残高は14億4,300万ドルで、このうち機械設備・原材料輸入のための購入が占める比率が84.0%、日用品・医薬品輸入が5.5%であった。それが、9月~12月では外貨購入残高が29億6,000万ドルとなり、前者の比率は76.2%、後者は8.0%となった。この外貨購入の増加と日用品・医薬品5.5%→8.0%の変化は、これまで輸入代金に充てる外貨を闇市場などで調達していた輸入業者が、銀行での外貨購入にシフトしつつある状況を示している。

さらに、100万ドル以下の外貨を購入した企業数は10月に1,900社、11月に2,200社、12月に2,500社と拡大傾向にある。インターネット情報サイトUzdaily.uzは「非公式セクターから公式市場への移行が進んでいる」(2018年1月19日)と説明している。

9月の外貨購入自由化直後、ジェトロが地場企業にヒアリングした時点では、「銀行での外貨購入には輸入契約の開示が不可欠であり、そうすることで不要な査察を招く結果になったり、今までのような税逃れができなくなる」と、自社の活動内容を当局に開示するのを忌避する声が聞かれた。しかし、外為管理が緩和され、中央銀行の資料が示すように、一般企業が自由に外貨購入できる状況が進んでいることは、これまで為替管理の厳しさ、海外送金規制による利益回収の難しさなどを理由に(注)3,200万人のウズベキスタン市場へのアプローチに二の足を踏んでいた日本企業にとっては朗報だ。

課題残る今だからこそ布石を

課題もある。急ピッチで進む改革ゆえに拙速さを免れず不十分な結果に終わる可能性は否めない。例えば税制改革。ミルジヨエフ大統領は2018年2月13日、税制改革のワーキンググループを発足させ、国際基準と開放的な資本主義経済の考え方にのっとった税改革の綱領を4月1日までにまとめ、7月1日からは新税法典の公布・施行に間に合わせよと関係閣僚に指示した。非政府系組織・経済発展センターのユーリー・ユスポフ所長は、今までの複雑で公平さを欠いた税体系が是正されるのを歓迎する一方で、これほどの短期間では十分に検討された税改革は到底不可能としている。

外貨交換について、ユスポフ所長はさらなる外貨購入の自由化も唱えている。中銀が発表した2月1日時点での外貨準備高は287億7,400万ドル(前月比6億9,800万ドル増加)。氏の見立てでは、これならば、銀行窓口での国民のドル買いを自由化してもスム相場が大きく下落することはないと言う。むしろ、金融当局は市場で余剰気味の外貨を買いスムを売っているが、このような状況が続けば通貨供給量をいたずらに増やすだけで、かえってインフレを招きかねないと警告している。

ミルジヨエフ大統領は、経済分野と並行して社会分野での改革も推進してきた。ウズベキスタンには12の州と自治共和国、特別市(タシケント市)合計14の自治体があるが、このうち8つの自治体の長を交代した。省庁再編を行い、ほぼすべての省庁で大臣を替えた。中央・地方幹部の大幅な人事刷新は2018年1月のイノヤトフ国家保安庁長官の退任でほぼ完成した。カリモフ前大統領時代から国政を牛耳ってきたと言われる元長官をついに退かせたことによって、名実ともにミルジヨエフ大統領がすべての権力を掌握したと評する声は多い。旧勢力最後のとりでであった国家保安庁については、「政治的弾圧や汚職の利益のために機能するのではなく、国民の安全に資する組織にする」という、さらに難しい課題が大統領には課せられている(インターネット情報サイト「Ozodlik」2018年1月31日)。

かつてソ連の構成国で、中央集権的要素が色濃く残り、厳しい外貨規制とともにビジネスマンの到来を拒むかに見えたウズベキスタンが、新体制のもと普通の国への変貌を遂げつつあることには間違いない。2018年2月10日から日本人は30日間までのビザなし渡航も認められ、2,000ドル以下なら外貨申告も不要となった。変わり始めたウズベキスタン。ようやく現れ始めたビジネスチャンスを取り逃がさないようにしたい。


注:
「貿易・投資円滑化ビジネス協議会」(事務局:日本機械輸出組合)が電子情報技術産業協会(JEITA)、日本機械輸出組合、日本商工会議所を対象に実施したアンケート調査(2015年、17年版)によれば、対ウズベキスタンビジネスで会員企業が直面する問題として、為替管理(現地通貨から外貨への兌換(だかん)が困難、年間交換枠の設定、外貨決済に時間がかかりすぎるなど)、利益回収(海外送金規制)、輸出入規制・通関(高輸入関税、不正通関)などが指摘されている。
執筆者紹介
ジェトロ・タシケント事務所長
下社 学(しもやしろ まなぶ)
1994年、ジェトロ入構。海外調査部ロシアNIS課長、和歌山県農林水産部食品流通課長などを経て2014年7月より現職。タシケント駐在は2000~2006年に続き2度目。主たる著作・執筆協力として「中央アジア経済図説(東洋書店)」、「中央ユーラシアを知る事典(平凡社)」、「ロシア経済の基礎知識(ジェトロ)」、「カザフスタンを知るための60章(明石書店)」、「現代中央アジア(日本評論社)」など。