ショッピングモール検索アプリ「モールダッシュ」の利用拡がる(マレーシア)
3カ月でユーザー18万人、共同創業者に聞く

2018年11月28日

マレーシアではデジタル系スタートアップ企業の育成・支援が加速しており、フィンテック、ヘルスケア、デジタルマーケティングなど多分野で若手起業家が生まれている。2018年10月にNTTコミュニケーションズが主催した「スタートアップチャレンジ」では、ショッピングモール検索アプリを開発するモールダッシュがベスト・イノベーション賞を受賞した。同社の共同創業者アンドリュー・フー氏に、起業の経緯やマレーシアのスタートアップ環境などについて聞いた(インタビュー日:10月23日)。


モールダッシュ共同創業者のアンドリュー・フー氏(ジェトロ撮影)
質問:
「モールダッシュ」の概要や特徴は。
答え:
「モールダッシュ」は、2018年7月に配信を開始したショッピングモール検索アプリ。マレーシア国内のショッピングモールにおける店舗、ブランド、取扱商品、価格、立地、プロモーションなどが検索できる。10月現在で、クアラルンプール首都圏を中心としたショッピングモール50店の検索ができる。アプリ配信直後は1,000人程度だったユーザー数は、3カ月間で18万人に拡大した。
アプリ開発を全て内製化しており、ユーザーからのフィードバックを反映させるまでの速さが強みだ。ショッピングモールの各フロア地図は自社デザイナーが手書きで作成し、各店舗の写真やメニューリスト、価格も自社で情報収集している。掲載されている全てのショッピングモールの情報を統一のフォーマットで見ることが可能だ。地道な作業が、高いユーザビリティーにつながっていると自負している。
質問:
起業するに至った経緯は。
答え:
大学から英国に留学し、卒業後はロンドンの投資銀行に4年勤務した。従業員2万人を超える大企業だったが、官僚的な組織体制などに疑問を持ち、マレーシアへの帰国を決意した。金融分野での経験を生かし、趣味のファッションやショッピングに関連して社会貢献できないかと考え、友人と共同でモールダッシュを立ち上げた。
マレーシアには約1,000のショッピングモールがあるが、電子商取引(eコマース)の発達などにより、実店舗での買い物が減少しつつある。巨大なモールが多く、「どこに何が売っているか分からない」「地図を見ても店の場所が分からない」といった消費者のストレスも、客足減少の要因だろう。モールダッシュでは、店舗名やブランド名だけでなく、製品名での検索も可能となっている。オンラインプロモーションなどと組み合わせることで、消費者の不満を解消し、ショッピングモールへの客足の増加を狙う。

「モールダッシュ」画面。ショッピングモールを選択すると、店舗検索などが可能。地図では
各フロアの配置だけでなく、現在地から目指す店までの行き方も表示される(モールダッシュ提供)
質問:
政府などの支援やマレーシア国内のスタートアップイベントについて。
答え:
政府は、スタートアップ企業に対して非常に協力的だ。財務省直属のイノベーションセンター「MaGIC」とは緊密な協力関係を築いている。MaGICが2017年に主催した世界起業コミュニティーサミット(GES)にも参加した。州政府ではセランゴール州の支援が手厚い。当社は2018年のセランゴール・アクセラレーター・プログラムに参加し、ファイナリスト10社に選ばれた。同プログラムでは、4カ月間、さまざまな研修やメンターからのアドバイスを受けられ、非常に有益だった。
質問:
今後の展望は。
答え:
マレーシア国内では資金調達を行い、商業化に向けた仕組み作りに取り組む。ユーザーにはアプリを無料提供し、ショッピングモール側から料金を得るモデルを検討している。掲載中のモール以外に、集客に課題がある中規模モールからも問い合わせが多い。また、モールダッシュのユーザー18万人の内訳をみると、約6割が女性で、世代別では25~34歳が37.2%、18~24歳が25.0%を占める。これらのユーザーの検索傾向などのマーケティングデータを蓄積し、店舗に提供することも可能だ。また、映画のチケットやレストラン予約など新機能の追加も検討している。
ASEAN域内での展開も検討しており、まずはシンガポール、タイへの進出を検討中だ。現在の「モールダッシュ」アプリは「あったらいい(Good to have)」アプリだが、将来は検索エンジンのグーグルやカーナビアプリのウェイズのように「なくてはならない(Must have)」アプリに成長したい。
質問:
日本市場への関心は。
答え:
日本には約3,000店のショッピングモールがあると聞いており、魅力的な市場だ。日本を旅行する外国人にとって、買い物する際の言語の壁は高いのではないかと思う。こうした訪日外国人向けのサービス展開にも潜在的需要を感じている。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。