連結性強化でASEAN向け事業拠点としての関心高めるインド

2018年4月6日

インドからの東南アジア諸国連合(ASEAN)地域向けサービスや物品貿易が拡大している。サービスではとりわけ、コンピューター・サービス分野でインドを活用する動きが顕著だ。インドとASEANとの経済関係はまだ限定的ながら、両地域をつなぐインフラ整備が今後進んでいくことにより、さらなる深化が見込まれる。

コンピューター・サービス、輸出と投資が拡大

インドの貿易状況をモノとサービスに分けてみると、サービスが占める割合が大きい。インド準備銀行(RBI、中央銀行)の国際収支統計によると、2016年度(2016年4月~2017年3月)のサービス輸出額は1,631億ドル(暫定値)と、モノとサービスを合わせた輸出額全体の約4割を占める(表1)。サービス輸出のなかでも最も多いのがコンピューター・サービスで、737億ドルとサービス輸出の5割近くを占める。

表1:インドの貿易状況(国際収支ベース)(単位:10億ドル)(△はマイナス値)
項目 2015年度 2016年度(暫定値)
受取
(輸出)
支払
(輸入)
収支 受取
(輸出)
支払
(輸入)
収支
モノ 266.4 396.4 △ 130.1 280.1 392.6 △ 112.4
サービス 154.3 84.6 69.7 163.1 95.7 67.5
モノ+サービス 420.7 481.0 △ 60.4 443.2 488.3 △ 44.9
注1:
年度は4月~翌年3月。
注2:
計算処理により足し上げが合わない。
出所:
インド準備銀行資料を基に作成

RBIが2017年12月に発表した「2016年度のコンピューター・ソフトウエアおよび情報技術サービス輸出に関する調査結果」によれば、調査回答企業によるサービス輸出先〔商業拠点の設立を除く(注)〕は、米国およびカナダ向けが最も多く、全体の60.3%を占める。次いで欧州(23.1%)、アジア(10.7%)と続く。米国・カナダ向け、欧州向けの割合が前年度(それぞれ61.7%、23.5%)から低下した一方、アジア向けは前年度(8.4%)から増加した。特に、日本、中国、韓国、ASEAN加盟国などを含む東アジアの割合が7.2%(2015年度)から8.1%(2016年度)へ拡大した。

コンピューター・サービス関連でインドを活用する動きは、対インドの企業合併・買収(M&A)動向からも垣間見ることができる。コンピューター・サービス関連に限定した対インドM&A件数を、2012~2014年と、2015~2017年の3年間ずつで比較すると、増加傾向にあることがわかる。買収側の国籍別にみると、各期間とも米国企業が最多となっているが、シンガポール企業による買収件数の増加が著しい(表2)。シンガポール企業による案件には、通信大手シンガポール・テクノロジーズ・テレメディア(STテレメディア)による、インド同業タタ・コミュニケーションズが所有するアジア企業など向けのデータセンターの持ち分を取得する案件などが計上されている。

表2:対インド・コンピュータサービス関連M&A件数 (単位:件数)
国・地域 2012~2014年 2015~2017年
世界 101 165
階層レベル2の項目米国 59 76
階層レベル2の項目ASEAN 3 28
階層レベル3の項目シンガポール 2 19
階層レベル3の項目マレーシア 0 4
階層レベル3の項目インドネシア 1 3
階層レベル3の項目タイ 0 1
階層レベル2の項目カンボジア 0 1
階層レベル2の項目日本 8 11
階層レベル2の項目その他 31 50
注:
標準産業分類(SIC)7371~7379を対象とした。
出所:
トムソン・ロイター資料(2018年3月27日時点データ)を基に作成

最近の動きをみても、ASEAN市場向けの配車アプリを手掛けるシンガポールのグラブ(Grab)は2018年1月、インド南部カルナタカ州ベンガルールのデジタル決済システム企業を買収したと発表した。同社は、通信環境が厳しいインドに対応している買収先の技術を評価し、ASEANでのビジネス拡大に必要だとする。グラブ社は2017年3月には既に研究開発拠点(R&Dセンター)をベンガルールに置いており、買収先は同R&Dセンターに加わる予定だ。

日系企業では、ブロックチェーン技術開発などを手掛けるチェーントープ(chaintope、福岡県飯塚市)が2018年1月、インド西部マハーラーシュトラ州プネに研究開発(R&D)センターを現地企業と共同して開設すると発表した。チェーントープ社はマレーシアにも拠点を置くが、多くの技術者がいるインドを新たな研究開発の拠点にしていく意向だ。

ASEANと近接するインド北東部に注目する向きも

インドのモノの貿易においても、ASEANが占める割合が徐々に拡大しつつある。インドの往復貿易額に占めるASEANの割合は、2015年が10.3%、2016年が10.4%、2017年が10.9%と、直近3年はいずれも約1割程度に過ぎないが、ゆるやかに増加傾向にある。ASEANとの往復貿易額を港別にみると、インド西部のナヴァシェヴァ港が最も多いほかは、チェンナイ港やコルカタ港といったいずれもASEANに面するインド東海岸の港が上位に名を連ねる(表3)。

表3:インド港別往復貿易額(2015~2017年平均)

全体(単位:億ドル、%)
港名 往復貿易額 (2015~2017年平均) 構成比
1 ナヴァシェヴァ港 907 13.4
2 デリー空港 408 6.03
3 ムンバイ空港 407 6.02
その他 5,045 74.6
合計 6,767 100.0
対ASEAN10 (単位:億ドル、%)
港名 往復貿易額 (2015~2017年平均) 構成比
1 ナヴァシェヴァ港 107 15.0
2 チェンナイ港 70 9.9
3 コルカタ港 41 5.8
その他 496 69.4
合計 715 100.0
出所:
グローバル・トレード・アトラス(2018年3月27日時点)を基に作成

コルカタ港が位置する西ベンガル州などの北東部は特に経済開発が遅れていると指摘されるが、ASEANと地理的に近く、近年注目が集まっている。電動三輪車のデザイン・生産・販売を行う現地日系企業関係者が「アッサム州をハブとして、ネパールやバングラデシュといった周辺国およびASEANへの販路を拡大していきたい」(2018年3月8日付通商弘報)とするなど、ASEANに近いインド北東部を活用したビジネス戦略を検討する企業が出てきている。

連結性強化で経済関係深化へ

在インド日系企業からは、ASEANとの取引拡大を望む声が聞かれる。ジェトロが在インド日系企業向けに実施したアンケート調査(2017年10~11月)によれば、事業/製品の最も有望な輸出市場としてASEAN諸国(ブルネイを除くASEAN加盟9カ国の合計)を回答した在インド日系企業の割合は18.9%と、アフリカと回答した割合(17.1%)を上回り、最大の有望輸出市場となっている。また在インド日系企業からは、低コスト化、品質の向上、さらにはリスク分散などを目的として、ASEANからの調達率を引き上げたいとする声も聞かれる。

しかし、上述のとおり、インドとASEANとの貿易取引はまだ限定的である。両地域の結節点となるインドとミャンマーの間の往復貿易額はインドの対ASEAN往復貿易額の3%(2015~2017年の3年間の平均)に満たない。アジア開発銀行関係者からは、インドとASEAN諸国との経済統合が遅れている理由の一つとして、「鉄道でのアクセスがないほか、飛行機のアクセスも限られているなど、コネクティビティ(連結性)が限定されている」との指摘が聞かれる。

インド政府は既に、ASEANとの連結性強化に向けて手を打っている。「アクト・イースト政策」を掲げているインド政府は、北東インドをASEANとの連結性強化の重要拠点と位置付けている。2018年1月のデリー宣言では、物理的かつデジタル面での連結性を深めるためのインド政府による10億ドル拠出を再確認するとともに、インド・タイ・ミャンマー間の高速道路の早期完成に向けて努力することなども盛り込まれた。

また、日本政府は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げており、南アジアとASEAN諸国との結節点という地政学的な強みを持つインド北東部をハードとソフトの両面で支援・協力していく構えだ。在インド日本国大使館は、2017年8月にインド政府との間で「日印北東部開発調整フォーラム」、また同年12月には「日印アクト・イースト・フォーラム」を発足させている。

インドの「アクト・イースト政策」と日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」が交わるインド北東部におけるインフラ整備、またRCEP(東アジア地域包括的経済連携)などを通じた制度的インフラ強化によるサービス貿易の活発化などを通じて、インドとASEANとの経済関係深化が今後、加速していくことが見込まれる。


注:
「サービス貿易」は、サービス供給者と消費者が移動しない形態(越境取引:第1モード)、サービス供給者のいる国へ移動してきた消費者にサービス供給者がサービスを供給する形態(国外消費:第2モード)、サービス供給者が海外に拠点を設立して消費者にサービスを提供する形態(商業拠点:第3モード)、サービス供給者が消費者のいる外国に移動する形態(人の移動:第4モード)の四つに分類される。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
朝倉 啓介(あさくら けいすけ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2005~2009年)、国際経済研究課(2009 ~2010年)、公益社団法人日本経済研究センター出向(2010~2011年)、ジェトロ農林水産・食品調査課(2011~2013年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2013~2018年)を経て現職。