「一帯一路」構想とASEAN・ミャンマーとの親和性
相手国とWin-Winのプロジェクト構築を

2018年5月9日

2017年5月、北京にて「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムが開催され、100を超える国・地域の代表らが参加した。それからさかのぼること約3年半前の2013年9月、習近平国家主席は中央アジア歴訪時に「シルクロード経済帯」を、翌10月の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域歴訪時には「21世紀海上シルクロード」を提起した。現在、「一帯一路」構想はアジア、アフリカ、欧州の広大な地域にまたがるが、本稿ではASEAN、特に筆者が2011年から2014年にかけて駐在したミャンマーとの関連性から、その構想をひもとく。

図1:『一帯一路』構想図(六大経済回廊)
『一帯一路』構想は、諸外国との協力の枠組みを6つの経済回廊で結ぶ。ミャンマーはその一つ、つまり中国西南部からインドシナ半島を経てインド洋に抜けるルートに位置する。
出所:
ジェトロ作成

80カ国余りにまたがる経済圏構想に

「一帯一路」構想は元々、2013年11月に開催された中国共産党第18 期中央委員会第 3 回全体会議(三中全会)にて採択された改革プランで、内陸・辺境地域の開放加速、自由貿易協定の締結加速等が基となっている。その後、「第13次5カ年計画」(2016年~2020年)にて長期にわたる国家戦略として位置付けられ、現在では沿線のアジア、アフリカ、欧州の80カ国以上にまたがる広大な経済圏構想に発展した。

2018年4月8日~11日にかけて海南省博鰲で開催されたボアオアジアフォーラムで、習近平国家主席は「一帯一路」を経済グローバル化対応のための国際協力プラットフォームにすると表明した。また、同4月12日に北京で開催された「一帯一路」貿易投資フォーラムでは、「一帯一路」の推進にあたり、相手国との相互尊重が重要である旨が示された。

「一帯一路」の基本理念については、自由貿易協定(FTA)のような制度的統合を目指すものではなく、(1)鉄道・道路・港湾等のインフラ整備、(2)貿易投資の拡大、(3)アジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金等を通じた資金協力等を重点協力分野としている。中国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の停滞や、中国が不参加の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の推進による焦燥感等を背景に、陸(一帯)と海(一路)でつなぐ広域経済圏の構築に中国が動いたものといえよう。

「一帯一路」には多くのASEAN関連投資が

現在、中国企業による対外直接投資(2016年、ストックベース)において、「一帯一路」沿線国が占める金額は、表の通り1,294億1,400万ドル、対外直接投資全体の9.5%に上る。中でもASEAN10カ国の合計は715億5,400万ドルと、沿線国の55.3%と過半を占める。

表:中国企業による「一帯一路」沿線国への対外直接投資(単位:100万ドル、%)
国名 金額 構成比
シンガポール 33,446 25.8
インドネシア 9,546 7.4
ラオス 5,500 4.3
ベトナム 4,984 3.9
ミャンマー 4,620 3.6
タイ 4,533 3.5
カンボジア 4,369 3.4
マレーシア 3,634 2.8
フィリピン 719 0.6
ブルネイ 204 0.2
ASEAN(10カ国)合計 71,554 55.3
その他53カ国 57,860 44.7
63カ国合計 129,414 100.0
注1:
2016年、ストックベース。
注2:
「一帯一路」沿線国(63カ国)は国家統計局の整理による。
出所:
国家統計局資料を基にジェトロ作成

2017年5月に北京で開催された「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムにおいて、「一帯一路協力覚書」を交わしたASEANの国にはシンガポール、ミャンマー、マレーシアの3カ国が、「経済貿易協力取り決め」を交わしたASEANの国にはベトナム、カンボジア、ラオス、フィリピン、インドネシア、ミャンマーの6カ国が含まれる。また、同フォーラムでは、インドネシアと共同で「ジャカルタ-バンドン高速鉄道」、ラオスと共同で「中国・ラオス鉄道」のプロジェクト推進を加速することも触れられた。先述の通り、「一帯一路」沿線国では中国企業による対ASEAN投資がさかんに行われているが、特にエネルギー、港湾、鉄道、発電所建設等の産業・交通インフラの整備が重点的に行われている。

筆者は2011年から2014年にかけて、ASEAN加盟国の一つであるミャンマーに駐在したが、同国は六大経済回廊の一つである中国西南部からインドシナ半島を経てインド洋に抜けるルートに位置する。また、ミャンマーの北東部は雲南省に接しており、1988年から2010年までミャンマーを統治した軍事政権の時代より国境貿易がさかんに行われている。歴史的にもミャンマーは中国と経済的に深いつながりを有する。

こうした背景もあり、ミャンマーの対内直接投資に占める中国の割合は26.2%(1988年度~2017年度までの累計、認可ベース)と第1位となっている。貿易面でも中国はミャンマーにとって最大の貿易相手国で、貿易総額に占める中国の割合は37.2%(2016年)と、第2位のタイ(15.4%)を大きく上回る。このように、ミャンマーにとって中国は貿易、投資両面において最も影響力を有する国となっている。

ミャンマーにおける「一帯一路」構想の最前線は、同国西部のラカイン州にある港町チャオピューだ。そこから中国雲南省瑞麗へ771キロに及ぶ天然ガス・パイプラインが敷設され、2013年に開通した。中国の天然ガス(2711類)輸入に占めるミャンマーの割合は第8位の11億7,200万ドル(2017年)と3.6%にとどまるが、2013年はわずか9,500万ドルだったことを考えると、その増加ぶりは顕著だ。ミャンマーにとって中国は最大の輸出先(40.8%、2016年)だが、同国向け輸出品のうち、同パイプラインを通じた天然ガスは3割近くに上る。現在ではミャンマーの貴重な外貨獲得手段となっている。

こうした対中国の大型インフラ案件は、ミャンマーの軍事政権時代に決められたものが多い。2011年に民政移管を果たすまで、ミャンマーは欧米諸国から厳しい経済制裁を受け、西側諸国や国際機関からの経済援助は緊急人道支援以外のものは長年にわたり停止させられた。こうした権力の空白期間に中国がミャンマーに急接近し、さまざまな大型のインフラ整備を行ったという構図だ。

図2:ミャンマーと中国の各地名の位置関係
ミャンマー西部、ラカイン州にある港町チャオピューは、同国における『一帯一路』構想の最前線。2013年、中国雲南省瑞麗まで771キロに及ぶ天然ガス・パイプラインが開通した。
出所:
ジェトロ作成

相手国との相互尊重に重点を

では、こうした中国によるインフラ整備はミャンマーではどのように受け止められているのだろうか?先述のパイプライン敷設と並び、中国によるミャンマーでの大型インフラ開発案件に、ミッソンでの水力発電事業がある。ミッソンとは、中国と国境を接するカチン州のイラワジ川上流に位置する地域の名前だ。軍事政権時代に同地域に大型水力発電所の建設プロジェクトが進められたが、ミッソンは風光明媚(めいび)な地区としてミャンマー人に知られており、同プロジェクトは生態系をはじめ環境破壊をもたらすと地元住民から根強い反対運動が起きていた。しかもダムで発電される電力のほとんどが中国へ供給され、現地の住民には還元されない点が問題視されていた。

こうした地元での反対運動は、軍事政権時代は全て武力で弾圧されたが、2011年3月に発足した当時のテインセイン政権は、国内の民主化を積極的に進め、軍事政権時代に構築された中国との蜜月関係をいったん見直し、2011年9月、ミッソンの建設プロジェクトを全面凍結した。

ミャンマーと中国とでは、175倍もの経済格差があり(2016年の国内総生産(GDP)換算)、ミャンマー人の中国に対する警戒感は根強い。テインセイン元大統領がミッソンでのダム建設を凍結し、中国一辺倒の外交政策を見直した時、多くのミャンマー人がその判断を支持したことからも、中国に対する不信感がうかがえる。

2018年4月12日に北京で開催された「一帯一路」貿易投資フォーラムでは、中国は「一帯一路」構想の推進にあたり、相手国の意思を尊重し、現地の技術を発展させるような計画を提示し、Win-Winの成果が得られる必要性について改めて触れた。

今後中国が「一帯一路」を相手国からも歓迎される構想に発展させることができるかどうかは、沿線国が真に自国のメリットも享受できる、相互尊重型のプロジェクトを提示できるかにかかっているといえよう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
水谷 俊博(みずたに としひろ)
2000年、ブラザー工業入社。2006年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(2011~2014年)。ジェトロ海外調査部アジア大洋州課(2014~2018年)を経て現職。