「次世代自動車」への投資が活発化する武漢市(中国)
変化を迎える現地自動車産業

2018年10月29日

湖北省の省都、武漢市の2017年の自動車生産台数は約190万台に上る。武漢市は中国自動車産業の一大拠点であるが、同市に進出する自動車メーカーが近年、相次いで人工知能(AI)に代表される情報技術や新エネルギーを組み合わせた「次世代自動車」に関する投資を行っている。次世代自動車をめぐり、同市の自動車産業はいま変化を迎えている。

1990年代以降、成長を続けてきた武漢市の自動車産業

武漢市統計局によれば、同市における2017年の自動車産業の付加価値総額は3,000億元(4兆8,000億円、1元=16円)を突破し、自動車産業は8年連続で同市最大の産業となった。2017年の自動車生産台数は189万7,800台で、全国自動車生産量の6.5%を占めた。2012年時点で80万台程度だった同市の自動車生産台数は、5年で2倍以上の規模に成長した(図参照)。

図:武漢市における自動車生産台数の推移(万台)
2009~2017年における武漢市自動車生産台数。2009年49万台、2010年67万台、2011年69万台、2012年80万台、2013年95万台、2014年112万台、2015年143万台、2016年177万台、2017年190万台。
出所:
武漢市国民経済・社会発展統計公報を基にジェトロ作成

武漢市では、1988年に「中国・フランス合資自動車30万台生産プロジェクト」が締結され、これに基づき1992年、同市に神龍汽車(東風汽車とフランス・プジョーシトロエンの合弁会社)が設立された。その翌1993年には、自動車産業の拠点となる「武漢経済技術開発区」が中国国務院によって設置され、2003年に東風ホンダ(東風汽車とホンダの合弁会社)が同開発区内に設立された。また、同年には東風汽車の本部も、日産自動車との合弁を契機に武漢市へ移転した。そして、2009年には武漢市内における自動車生産台数が約50万台となった(図参照)。2015年に上海GM(上海汽車と米国・ゼネラルモーターズの合弁会社)、2016年に東風ルノー(東風汽車とフランス・ルノーの合弁会社)が相次いで武漢市に進出。2017年には、東風ホンダの年間生産台数が72万台、生産額が1,100億元に達し、湖北省内で初めて単体で生産額が1,000億元を超える企業となった。また、2019年以降には東風ホンダの第3工場や東風日産の武漢工場も稼働を控えている。

地場系をはじめ、日系、フランス系、米国系の大手自動車メーカーが武漢市に進出し、これらの完成車メーカーに部品を供給するサプライヤーも500社以上集積したことで、武漢市は中国有数の自動車生産拠点として発展を遂げている(表参照)。

表:武漢における自動車産業の動向
出来事
1988年
  • 「中国・フランス合資自動車30万台生産プロジェクト」締結
1992年
  • 神龍汽車(東風汽車とフランス・プジョーシトロエンの合弁会社)設立
1993年
  • 「武漢経済技術開発区」設立
2000年
  • 神龍汽車の生産台数が15万台に
2003年
  • 東風ホンダ(東風汽車とホンダの合弁会社)が同開発区内に設立
  • 東風汽車の本部が武漢市へ移転
2009年
  • 武漢市内の自動車生産台数が約50万台に
2015年
  • 上海GM(上海汽車と米国・GMの合弁会社)が武漢市に進出
  • BYDが武漢市に新エネ車工場を建設
  • 江淮汽車が武漢市に新エネ車工場を建設
2016年
  • 東風ルノー(東風汽車とフランス・ルノーの合弁会社)が武漢市に進出
  • 南京金龍が武漢市に新エネ車工場を建設
2017年
  • 東風ホンダが湖北省内で初めて単体で生産額が1,000億元を超える企業に
2018年
  • 吉利汽車が武漢市に進出を決定
2019年以降
  • 東風ホンダの第3工場が稼働予定
  • 東風日産が武漢工場を建設予定
出所:
長江日報記事および各社ウェブサイトを基にジェトロ作成

従来の自動車に情報技術を融合させた「次世代自動車」

そうした中、武漢市では近年、従来の自動車に情報技術を融合させた「次世代自動車」が登場し、自動車産業に変化をもたらしている。次世代自動車には、各種センサーやコントローラー、アクチュエータなどの装置が搭載されており、自動車をインターネットに接続することで、自動車間での情報共有、安全かつ快適な効率の良い運転、そして自動運転を実現できるようになった。武漢市でも、多くの自動車メーカーが次世代自動車に関する研究開発を行っている。

例えば、自動運転技術の研究開発を行う武漢環宇智行科技は、2018年9月17日に上海市で行われた世界人工知能大会において、同社が開発した自動運転ソフト「Athena」を発表した。このソフトを搭載した自動車は、自動運転状態での走り出し、車線変更、加速、方向転換などの実験に成功しており、同社は今後、自動運転車の量産も視野に入れている。

武漢市に本部を置く東風汽車も、中国通信大手の中国移動や通信機器メーカー大手の華為技術(ファーウェイ)との共同開発で、無人運転のミニバスを開発。2019年からは東風公司技術センターエリアでの試験運行を始め、今後は全国展開も進めていくという。また同社は2017年、一定条件下の高速道路での自動運転実験に成功しており、2018年4月には重慶市の道路上で自動運転のテストを行う許可証も取得した。今後、同社は2020年までに乗用車と商用車に「レベル3」(注1)の運転技術を搭載し、高速道路での自動運転を可能にする。また、2025年までに「レベル4」(注2)での無人運転を実現させる予定だ。

また、自動運転技術以外にも、東風汽車は人工知能システムの「WindLink3.0」を搭載した次世代自動車を開発した。同システムには音声認識機能や自己学習機能がプログラムされており、複雑な会話も理解することができる。例えば、車内で「近くの100元くらいで食べられるレストランを探して」と言うと、モニターにお勧めのレストランが表示される。同社は、2021年までに同社の主要モデルである「東風風神」にこのシステムを搭載する予定だ。

こうした次世代自動車への投資を促進すべく、2016年11月に国家インテリジェント・ネットワークモデル基地が武漢市に設立され、次世代自動車産業の発展に向けたクロスボーダー・プラットホームが立ち上がった。武漢市政府は、このプラットホームを通じて、従来型の自動車産業から新エネルギー車やインターネット・コネクテッドカーといった新しい自動車産業へのグレードアップを推し進めている。特に、武漢市における自動車産業の中心地である武漢経済技術開発区では、全国に先駆けて自動車の軽量化、電動化、スマート化、(インターネットを通じた)ネットワーク化、シェア化に向けた次世代自動車のテスト基地も建設中だ。

EVや新エネ車への投資も加速

武漢市に進出する自動車メーカーは、電気自動車(以下、EV)を中心とする新エネルギー車(以下、新エネ車)においても、投資を活発に行っている。前出の東風汽車は、2018年9月17日に1回の充電で351~500キロメートルの走行が可能となるEV「東風風神E70」を発表した。このEVは快速充電モードでは30分で80%の充電が可能で、これまでEVの課題であった走行可能距離と充電スピードの双方を大きく向上させた。

東風汽車は、モーターや電子制御システム、バッテリーといったEVに関連するコア技術のレべルアップに向けて、既に200億元以上の投資を行っている。また、新エネ車の分野では40件の発明特許を含む438件の特許を取得しており、新エネ車に係る国家・産業標準を設定する作業にも参画している。2018年7月には東風新エネルギー自動車産業園が開業し、EVの研究開発および生産の拠点となる予定だ。また同社は、プジョーシトロエンやルノー、日産ともEVやプラグインハイブリッド車の共同開発を行うなど、積極的な新エネ車の研究開発を行っている。

このほかにも、安徽省に本部を置く江淮汽車が武漢市郊外に年間生産台数1万台の新エネ車の工場を建設したほか、商用車メーカーの南京金龍は51億元を投じて年間生産台数1万台の新エネ車工場を建設した。中国を代表するEVメーカーのBYD(本部:広東省)も50億元を投資し、武漢市内東部の黄陂区に年間生産台数7,000台のEV生産工場を建設した。また、浙江省に本部を置く吉利汽車は、2018年に武漢市内に年間生産台数20万台の新エネ車工場を建設することを決定している。

次世代自動車をめぐる変化はビジネスチャンス

情報技術と新エネルギーとの融合によって、中国の自動車産業は大きな変化を迎えている。改革開放(1978年)以降、中国有数の自動車生産拠点として発展を遂げてきた武漢市でも、各社がこうした情報技術や新エネルギーを融合した「次世代自動車」への投資を活発化させている。武漢市政府も次世代自動車分野での投資誘致を積極的に行っており、武漢の自動車産業は今後、新たなステージに入ることが予想される。こうした変化を受けて、中国企業との価格競争が激しい電子部品産業から、EVや自動運転の分野で発展が予想される自動車部品産業へ転換し、武漢市をはじめとする中部地域への進出を図る日系企業も多く見受けられるようになった。今後は、次世代自動車をめぐる変化を新規参入のチャンスと捉え、日系企業は高い競争力を持つ自動車関連企業を見極めながら、積極的にビジネスでのつながりをつくることが求められるであろう。


注1:
米国自動車技術者協会(SAE International)が定める5段階の自動運転レベル上、特定の場所で完全な自動運転となり、緊急時のみドライバーが操作を行う、上から3番目の技術レベル。
注2:
特定の条件下で完全な自動運転となり、システムが主体となって運転を行う、上から2番目の技術レベル。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
片小田 廣大(かたおだ こうだい)
2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課(2014~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。