リエカ港、コンテナ取扱量の拡大目指す(クロアチア)
新ターミナルはじめ動き出す大規模再開発

2018年7月17日

クロアチア最大の商業港で、近年コンテナ取扱量が伸びているアドリア海沿岸のリエカ港は、クロアチアが旧ユーゴスラビアから独立(1991年)した後に本格的に開発が始まった。旧ユーゴスラビアを中心とする地域では、ユーゴスラビア解体の過程で起きた紛争、リーマン・ショックや欧州債務危機などの影響や各国での改革の遅れなどで経済が長らく停滞したが、近年は回復基調にある。リエカ港は、コンテナ取扱量の拡大に向け、新埠頭の第1期工事が2018年中にも完成するのをはじめ、大規模投資が予定されている。

リエカと港の生い立ち

リエカは、アドリア海北東クバルネル湾の奥、イストラ半島の付け根の東側に位置し、50~60キロメートル離れた同半島の反対側にはイタリアのトリエステ港やスロベニアのコペル港がある。リエカ港は、EUの汎欧州運輸ネットワーク(TEN-T)に組み込まれ、クロアチアの首都のザグレブへは約170キロ、高速道路で約2時間である。リエカは、旧ユーゴスラビア時代には製油所や製紙工場を擁する工業都市で、18世紀に開かれた港は小規模にとどまっていた。20世紀始めにハンガリーのブダペストとつながる鉄道が建設されたことで、リエカ港の貨物取扱量は一時期、欧州第10位になったこともあったが、第二次世界大戦やクロアチアのイストラ半島独立紛争の影響などもあり港湾として大きく発展することはなかった。また、クロアチア独立後の混乱期には、製油所などが閉鎖されたことで技術進歩からも取り残され、リエカは情勢が安定した後もかつてのような工業都市として復興を遂げることはなかった。

図:リエカ港及びアドリア海北部主要港
リエカ港はクロアチアのアドリア海沿岸、イストラ半島の東側の付け根に位置。周辺には、スロベニアのコペル港、イタリアのトリエステ港及びベネチア港がある。
出所:
ジェトロ・ウィーン事務所作成

本格的な開発の始まり

クロアチアは1991年にユーゴスラビアからの独立を宣言したものの、その後の紛争は1995年まで続いた。1996年になりリエカにクロアチア初の港湾局が設立、周辺5港の運営が統合されて本格的な港湾としての開発が始まった。1999年には政府主導でイタリアおよびマルタと結ぶフィーダー船の航路が開設され、貨物の取扱量は急増し始めた。2002年に約1万5,000TEU(20フィートコンテナ換算個数)だったコンテナ貨物取扱量は、2017年には約25万TEUとなっている。取り扱う貨物は、石油類、バルク貨物、家畜や木材などで、クルーズ船などの観光にも対応している。中でも、一般コンテナおよび木材の取り扱いは、リーマン・ショック前の水準を超えるまでに回復している。


現在のコンテナ埠頭の様子(ジェトロ撮影)

現状、リエカ港本体の運営会社ルカ・リエカは、ポーランドの物流大手OTロジスティクスが株式の25%を、クロアチア政府およびクロアチアの年金基金が残りを保有している。また、コンテナターミナルは、フィリピンの港湾運営大手のインターナショナル・コンテナ・ターミナル・サービス(ICTSI)が運営している。

リエカ港では、石油関連の設備が充実している。21基のタンクの容量の合計は100万立方メートル、またクロアチアからセルビアやハンガリーを結ぶパイプライン、50万トン級の超大型タンカーが接岸できることが強みである。

リエカ港港湾局(ルカ・ウプラバ・リエカ)のデニス・ブコペラ社長によると、スロベニアのコペル港やイタリアのベネチア港との比較において優れているのは、取扱量に余裕があることで、コンテナ埠頭などを拡張している。コペル港は鉄道輸送能力が需要の限界に近づきつつあるのに対して、リエカは今後の需要増加に十分に対応可能であるという。また、資金の面でも、EUのコネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)などから1,155億ユーロの補助を得ているほか、世界銀行からも融資を受けている。

日本企業との連携でアジアビジネス開拓

リエカ港は、アジア方面では香港やシンガポールに直行便航路を持つ。また、リエカ港港湾局(ルカ・ウプラバ・リエカ)によると、川崎汽船、商船三井および日本郵船が設立した、定期コンテナ船事業を行うオーシャン・ネットワーク・エクスプレスと連携し、対アジアビジネスの本格的な開拓を始めた。具体的には、リエカ港、コペル港(スロベニア)、ベネチア港(イタリア)、ピレウス港(ギリシャ)とエジプトの地中海沿岸のダミエッタ港を2週間で循環するフィーダー船を就航した。これにより、アジアからのコンテナがスエズ運河を経て地中海に抜けたところにあるダミエッタ港とアドリア海の各港とのネットワークが強化された。

大規模新コンテナ埠頭の建設

リエカ港は設備を充実させるため、全長680メートルの新コンテナ埠頭を建設する。現在はその1期目となる480メートル分をイタリアの建設会社3社からなるコンソーシアムが建設中で、年内に完成予定である。2022年の全体の完成時にはコンテナ貨物とRoRo船貨物を合わせた年間取扱量は60万TEUを超える計画である。2018年末または2019年の初めに新埠頭全体の運営(コンセッション)および新埠頭の2期目の工事に関する入札を行う。審査を経て、おおむね入札の1年後をめどに委託企業を決定する予定。


建設中の新コンテナ埠頭(ジェトロ撮影)

新ターミナルの特徴は、港の水深が30メートル、埠頭も水深20メートルと深く、全長370メートルまでの最大級のコンテナ船が接岸できることにある。リエカ港港湾局のボイコ・コツィヤン開発プロジェクト部長によると、深い海底の地盤を改良してケーソンを設置、その上に鉄筋コンクリート製の床版を築く工法を採用しているため、工期は短く経済的であるという。また、18キロ離れたところに総面積150万平方メートルのインターモーダル(異なる輸送手段の組み合わせ)物流センターを設け、リエカ港と鉄道や高速道路で接続する構想があり、バルカン地域の物流拠点となることを目指す。

執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所長
阿部 聡(あべ さとし)
1986年通商産業省(現経済産業省)入省。2016年7月より現職。