【中国・潮流】急速に進展する長江デルタ一体化計画

2018年10月9日

人口は2億2,205万人でブラジルを上回り、インドネシアに次ぐ世界第5位、GDPは2兆6,228億ドルでフランスを上回り、英国に次ぐ世界第6位、輸出額は7,968億ドルで日本を上回り、ドイツに次ぐ世界第4位、輸入額は5,394億ドルでオランダを上回り、香港に次ぐ世界第8位(いずれも2016年データ)。これが上海市、江蘇省、浙江省、安徽省の華東地域1市3省を合わせた経済規模である。

この世界でも有数の経済規模を誇る華東地域で、今、大きく動き出しているのが「長江デルタ一体化」だ。この動きに注目すべきなのには理由がある。「長江デルタ一体化」を推進するための最もハイレベルな枠組みは、1市3省の書記、省長がそろって参加する「長江デルタ地区主要指導者座談会」(以下、座談会)だが、この座談会は2003年3月に当時、浙江省書記だった習近平氏が提唱し、2005年12月25日に杭州で第1回が開催されている(安徽省は2008年の会議から参加)。つまり、「長江デルタ一体化」は、習近平氏肝いりの取り組みであるからだ。

さらには、現在、上海市書記を務め、この取り組みを強力に推進している李強氏が、第1回が開催された2005年当時には浙江省共産党委員会の秘書長として習近平浙江省書記を支え、その後、習近平氏は上海市書記を経て、国家副主席、国家主席に就任。李強氏自身はその後、浙江省の省長、江蘇省の書記を歴任し、2017年に上海市書記に就任したという経歴を重ね合わせると、その意味はより重く感じられる。

2018年3月には、「長江デルタ一体化」を推進するための常設事務局として「長江デルタ区域合作弁公室」が上海市に設立され、1市3省から15人の職員が出向し、関連業務にあたる体制が構築された。

2018年6月1日には、14回目となる座談会が上海市で開催された。その座談会では、「長江デルタ地区一体化発展三年行動計画(2018~2020年)」が審議、同意された。同計画は、交通・エネルギー、科学イノベーション、産業、情報化、信用制度、環境保護、公共サービス、ビジネス金融など12の協力分野を含み、交通インフラの結合、エネルギーの相互確保、産業の協同イノベーション、高速情報のネットワーク整備、環境保護の連携、公共サービスの利便性普及、市場開放の推進など7つの重点領域におけるプロジェクトやタスクが明示され、今後のロードマップが定められた。実際に、同計画の策定の前後から、政府各部門で1市3省の会議が頻繁に開催され、具体的な協力が進展してきている(表参照)。

表:長江デルタ一体化に向けた協力(2018年)の具体例
日付 合意内容 部門
3月25日 1市3省人材サービス戦略合作枠組み協議 人力資源・社会保障局
4月20日 長江デルタ地区知的財産権一体化発展枠組み協議 知識産権局
5月11日 長江デルタ区域の養老分野の協力と発展を推進するためのコミュニケ 民政局
5月17日、18日 長江デルタ区域の生態環境保護司法協力メカニズムに関する意見 検察院
5月26日 政法システムにおける、よりハイレベルで安全な長江デルタと法治長江デルタの建設推進に関する全体案 政法委員会
5月27日 長江デルタ区域の警務一体化枠組み協議 公安局
6月14日、15日 長江デルタ地区の立法工作のさらなる整備のための協同座談会 人大法制委員会
6月20日 長江デルタ地区の政治協商連動メカニズムの設立に関する協議 政治協商会議
7月5日、6日 長江デルタ地区の人大工作協力メカニズムの深化に関する協議
長江デルタ地区の人大常務委員会地方立法工作協力の深化に関する協議
人大常務委員会
出所:
各種報道に基づきジェトロ作成

上海を中心とする華東地域は1990年代以降、多くの日系企業が進出し、その拠点数は2017年10月1日現在で2万2,044拠点(注)と、世界全体の29.1%を占める圧倒的な集積を誇る。しかしながら、中国経済の発展に伴ってその投資環境は大きく変わり、コストの上昇や環境規制の強化なども含めたさまざまな課題に直面するようになる半面、市場としてのチャンスは大きく広がりつつある。そのような中で進む「長江デルタ一体化」計画は、進出日系企業にとっても新たなチャンスやリスクをもたらすものであろう。この計画の行方から目が離せない。


注:
外務省「海外在留邦人数調査統計」平成30年(2018年)要約版を基にジェトロで算出。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所長
小栗 道明(おぐり みちあき)
1994年、ジェトロ入構。ジェトロ・北京事務所(1999~2004年)、ジェトロ・広州事務所(2004~2006年)、本部企画部海外地域戦略主幹(北東アジア)などを経て、2015年より現職。