西アフリカ物流実走調査(6)
コートジボワールとの回廊にも課題

2018年12月26日

コートジボワールのアビジャンからナイジェリアのラゴスに至る「アビジャン~ラゴス回廊」は、西アフリカの2大都市を結び、沿線に多くの港湾がある利用可能性の高い回廊だ。一方、さまざまな事情により輸送の主役は海路に譲っている。同回廊の一部である、アビジャンから隣国ガーナの国境までを実走して物流状況を調査した。

世界遺産のグラン・バッサムまでの道路状況は良好

コートジボワール最大の都市アビジャンは、アフリカにおける物流ハブの1つだ。西アフリカ最大の貨物取扱量を誇るアビジャン自治港には、国内向けのみならず、内陸国のブルキナファソやマリなどに向けた物資も集まる。アビジャンとブルキナファソの首都ワガドゥグを結ぶ鉄道は、大型トラックによる道路輸送と併せて、物流の中核を担っている。アビジャンは、ラゴスへと通じる回廊の西側の起点でもある(図参照)。

アビジャン中心部のプラトー地区から約13キロ離れたフェリックス・ウフェ=ボワニ国際空港付近までは、20分ほどで到着した。この区間の道路状況は良好だが、時間帯と進む方向によっては激しい渋滞も発生する。

空港の5キロほど先にはジャンクションがあり、海沿いを通る旧道と内陸に入る新道に分岐する。新道は中国の援助で建設された片側3車線の幹線道路で、道幅は広く街灯も整備されている。2つのルートは、約17キロ先にある、世界遺産の都市グラン・バッサムの東端で合流する。

ルート唯一のトラック計量所

合流地点を過ぎると、道路状況は大きく変わる。片側1車線となって穴や水たまりが増え、街灯もなくなる。舗装はされているが、スピードを出して走行すると危険だ。

グラン・バッサムから15キロ進んだボヌアに、このルート唯一の計量所がある。2013年に開業した同所は、通過するトラックの重量を確認し、過積載の場合は超過重量に応じた罰金を徴収している。業務は民間企業に委託されており、計量は迅速だった。なおコートジボワールでは、2017年11月30日から2018年3月31日にかけて、西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)が定めた車両などの重量規制が順次、施行された。ここには過積載に対する罰則が盛り込まれており、罰金に加え、過積載貨物の差し押さえなどが定められている。調査時点では、過積載の車両も罰金を支払えば通行できていたが、現在は規制が強化されていると見られる。

計量所からさらに55キロほど進むと、アボワソに至る。アボワソには税関の地域拠点があり、ガーナとの国境を所管している。国境とは60キロほど離れているが、国境にある税関支署のシステムが不通になった場合は、アボワソで通関業務を行うこともあるという。

アボワソを過ぎると、道路状況は再び良好となる。片側1車線ではあるものの、穴や水たまりが減り、街路灯も設置されていた。一方、集落の付近に、減速のための突起(スピードバンプ)が現れる。スピードバンプはアスファルトを盛り上げただけの簡素なもので、夜間の通行時には見落とさないよう注意を要する。

15キロほど先のエオリエでは、道沿いに税関のテントが設置されていた。担当の職員によると、ガーナ側から来るトラックや旅客車両に対し、通関を行ったか確認する役割を担っているという。職員は24時間常駐しており、不備がある場合は国境まで戻るよう指導する、とのことだった。

両国の税関設備に大きな格差

エオリエから45キロほどで、国境の町ノエに到着する。アビジャン中心部からここまで目立った渋滞はなく、聞き取り調査に要した時間を除くと、約170キロを3時間かからずに走破した。

ノエには、通関代理店と思われる店舗が多く存在していたほか、路肩には輸出通関を待つトラックが多く駐車していた。トラック運転手によると、積み荷の品目数によって、通関にかかる時間が大きく変わるとのことで、約1日で通関できることもあれば、1週間程度待機する場合もあるそうだ。通関に要する時間の平均は2~3日だという。


国境付近の道路に駐車する通関待ちのトラック(ジェトロ撮影)

コートジボワール税関ノエ支署は約100人の職員で運営されており、申告は毎日午前6時~午後6時まで受け付けている。支署長によると、中国の援助で建設されたコンテナ・スキャナーが完成し、運用が始まるとのことだった。申告書類の作成は既に電子化されているので、検査も機械化されれば、通関の効率が上がりそうだ。税関周辺では世界銀行による道路整備も行われており、スキャナー導入と併せて混雑の改善も見込まれる。


ノエ支署で税関検査を受けるトラック(ジェトロ撮影)

税関には税収と通関所要時間について目標が課されており、後者は24時間以内を目指している。トラック運転手の話からすると達成できない場合も多いようだが、同署はISO9001:2008を取得したり(現在9001:2015を取得すべく取り組んでいる)、ガーナ税関との間でデータのやり取りを始めたりするなど、業務改善には積極的なようだった。

国境のガーナ側の町、エルボにあるガーナ税関エルボ支署は設備が不十分で、支署長によると、スキャナーはおろかフォークリフトすらないという。設備不足は密輸の取り締まりにも影響を与えており、バイクやボートが足りないため、犯人を追跡できないそうだ。トラックスケールも、壊れたまま修理のめどが立っていなかった。


エルボ支署で税関検査を受けるトラック(ジェトロ撮影)

ガーナ税関でも、支署に税収目標が課されていた。目標を達成できないと、職員の年末賞与が支給されないという。阪急阪神エクスプレスによれば、どこの国でも12月になると税関検査が厳しくなる傾向があるとのことで、背景にこうした事情の存在が示唆された。

回廊の潜在力を引き出すには不確実性の低減を

今回の調査では、アビジャン~ラゴス回廊のうち西端の約170キロを実走した。総合的には、予想よりもスムーズな移動が可能だった。ルート上には税関の拠点1カ所と警察や森林警備隊の詰め所数カ所があったが、停止を求められることはなかった。積み荷のあるトラックで移動する場合は、多少事情が異なると予想されるが、検問などは大きな障壁にはならないと思われる。

道路状況もおおむね良好だった。ただ、グラン・バッサムからアボワソまでは整備状態が悪く、街灯もないため、特に夜間の走行は十分な注意を要する。またルート全体を通じて、道路を横切る架線や道路に張り出した樹木が散見された。大型トラックの通行には十分な注意が必要だろう。

課題は越境である。通関の所要時間が1日から1週間までバラついていては、輸送計画の立案が困難だ。目標設定やスキャナーの整備といった努力はされているが、運用能力不足・資金不足といった障害も多い。

税関に課せられた収入目標と、それに連動した職員賞与のシステムも問題をはらむ。各国とも、関税制度の一部に税関の裁量が大きい賦課課税方式(注)を導入しているので、目標達成と賞与獲得のために、高い税額を請求されるような事態が生じないとも限らない。

回廊沿線の国々は西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)に加盟している。ECOWASは、貿易自由化計画(ECOWAS TLS)を策定して、域内貿易を奨励しているが、運用体制は脆弱(ぜいじゃく)だ(詳細は西アフリカ物流実走調査(5)を参照)。

沿線各国間の貿易も、多いとは言えないのが実情だ。2017年のコートジボワール貿易統計によると、輸出入総額に占める沿線4カ国の割合は、輸出で6.3%、輸入で12.2%。輸入は活発に見えるが、その7割以上は主に原油を取引しているナイジェリアが相手で、陸送になじむ取引は少ないと思われる。

アビジャン~ラゴス回廊の総延長は約1,000キロ。福岡~東京間に相当する距離が、5つの国と各国最大の都市を結んでいる。関税同盟も考えれば、1カ所で作った製品を各国へ陸送するのに適した環境である。だが、現在の物量は海路をメインとして賄える程度であり、不確実性の高い陸路に切り替える誘因は少ない。運輸業者によれば、輸送費用も海路の方が安価だという。

しかし、陸路の利用も広まりつつある。食品大手のユニリーバやネスレは、ナイジェリアで製造した商品をECOWASの関税免除制度を利用して、コートジボワールまで陸送している。ナイジェリアのセメント大手ダンゴテ・セメントも、陸路で製品を輸送すべく、コートジボワール税関へ調査に訪れたという。

回廊の潜在能力を引き出すために必要なのは、回廊内の整備状況のバラつきをなくすことと、導入した設備や制度を着実に維持・管理することだろう。未舗装区間の舗装、整備した道路のメンテナンス、TLS運用体制の強化といった取り組みを通じて不確実性を低減できれば、回廊の利点は十分に発揮できる。

さまざまな課題を解決するためには、人材の育成が重要だ。税関能力を向上し、通関制度を実務者レベルにまで浸透させることは、陸送の改善だけでなく、地域経済統合の促進にもつながる。この回廊が、ECOWASの経済統合や安定的な発展を促進する原動力になることを期待してやまない。


注:
輸入者の申告ではなく、税関の判断によって納付すべき税額を決める方式。コートジボワールの場合、インボイス価格が100万CFAフラン(約20万円、1CFAフラン=約0.2円)以下の輸入は賦課課税方式で税額を決定する。
執筆者紹介
農林水産・食品部 農林水産・食品事業推進課
岡崎 太(おかざき ふとし)
2015年、ジェトロ入構。総務部総務課(2015~2017年)、サービス産業部クリエイティブ産業課(2017年)、アビジャン事務所を経て現職。