バーレーンを各国展開に向けた準備の場に
バーレーンのスタートアップ事情

2019年3月14日

バーレーンは小国ではあるが、政府により、スタートアップにとってビジネスしやすい環境が整えられている。サンドボックス制度(注1)の導入などを進め、金融セクターに強みがあることから、特にフィンテック分野が関心を集めている。国の特性を生かして成功を収め、さらに近隣諸国に展開しようとするスタートアップも現れている。

スタートアップにとってビジネスしやすい環境

バーレーンは人口148万人という小国であり、市場規模は限られているが、隣国のサウジアラビアをはじめGCC(湾岸協力会議)の域内諸国へアクセスしやすい立地にある。また、ほとんどの業種において100%外国資本による市場参入が認められているほか、法人税は0%であり、最低資本金制度も撤廃されているため、政府がスタートアップ企業のような資金力が乏しい企業にとってもビジネスを開始しやすい環境を整えている。

さらに近年では、破産法やクラウド・ファンド規制、個人情報保護法、サンドボックス制度など、域内で初となる制度を多数導入している。また、非石油セクターのビジネス環境改善のために設立された公的機関Tamkeenによる、事業コストや自国民雇用、銀行借り入れに対する補助金や研修、メンターの紹介などの政府機関による手厚いサポートに加え、民間のインキュベーターやアクセラレーターの数も増加している。

投資誘致を所管するバーレーン経済評議会(EDB)は、バーレーンに立地するメリットとして、(1)GCC諸国に展開しやすい戦略的な立地、(2)教育レベルの高い人材、(3)他のGCC諸国と比較した際の事業・生活コストの安さ、(4)外資の活動制限の少なさ、(5)域内初の制度を多数導入しているパイオニア精神を挙げた。

バーレーンの起業家については、正式な統計はないが、自国民と外国人の割合が同数程度との意見が多く、セクター別にみると、ソフトウエア開発やeコマース、サイバーセキュリティー、フィンテックが多いという。

サンドボックス制度導入など注目が集まるフィンテック分野

バーレーンは、知識労働者の60%以上、GDPの17%を金融セクターが占めるため、特にフィンテックについては、域内初となるサンドボックス制度の導入や、ワンストップショップとしてのバーレーン・フィンテック・ベイの開業など、ビジネス環境を整備し、域内外からの投資誘致を強化している。関連イベントも多数開催され、2019年2月26~27日に開催された「GCC ファイナンシャル・フォーラム」には2日間で30人以上が登壇し、800人以上の金融セクター関係者が一堂に会した。

その中で、サルマン・ビン・ハリーファ・アル・ハリーファ財務・経済相は、経済多角化・活性化に向けて、最も重要なセクターの1つとして金融セクターを挙げた。また、フィンテック分野での女性の活躍を支援するバーレーン・フィンテック女性事業者協会(Women in Fintech Bahrain)の会長ダレル・バヒージ氏は「金融セクターは最も保証されたセクターであり、最近のイノベーションを支援するためのイニシアチブにより、自身のコンセプトをテストし、それを踏まえて域内に拡大しようと、バーレーンに来る起業家が現れている」と述べた。カンファレンスに併催された展示会には関係機関・企業らが出展し、バーレーン中央銀行のブースでは、サンドボックス制度について個別の説明に応じていた。


GCC ファイナンシャル・フォーラムのカンファレンス(ジェトロ撮影)

GCC ファイナンシャル・フォーラムの展示ブース(ジェトロ撮影)

バーレーンの特性を生かして成功したゲットバカラ

フィンテックに加え、eコマースなど、モバイルアプリを絡めたスタートアップも目立っている。 ゲットバカラ(GetBaqala, Inc.)は、2016年に設立したオンライン・グローサリー・サービスを提供するスタートアップ企業である。2018年11月27日に、共同設立者兼 CEO(最高経営責任者)のアムジャード・プリヤリ氏に話を聞いたところ、登録店舗の商品をインターネットで注文すると、バーレーン国内のどこでも1時間以内に配達が可能で、インタビュー時のユーザー数は2万5,000~3万5,000人、毎月40%増のペースで売り上げが伸びているという。

質問:
なぜこの事業をバーレーンではじめようと思ったのか。
答え:
自分自身はインド出身で、バーレーンにゆかりがあるわけではないが、前職でドバイ勤務の時に、この地域でeコマースが拡大している中、オンライン・グローサリーはまだ少ないことに注目し、起業を決意した。パートナーとともにどこで起業するか検討したが、(アラブ首長国連邦の)ドバイやGCCの他の都市ではなくバーレーンを選んだ理由は、(1)人口の適度な多様さとアラブ人口の割合、(2)規制の少なさ、(3)コストの安さ、(4)市場のサイズ、が理由である。
(1)人口の適度な多様さ:ドバイは本当に多様な人々が住んでいるため、食品のニーズが細分化され、ターゲットが絞りにくい。一方で、バーレーンにも在住外国人は多いが、自国民がある程度いるので、アラブ食材に一定のニーズがある。また、ドバイに比べてサウジアラビアやクウェートに近く、バーレーンを含めた3カ国でGCCのアラブ人人口の6~7割を占めるため、将来的に市場を拡大させやすい。逆に、中国人など外国人向けの食材を扱う店舗やオーガニックなど特定分野の店舗もあるので、ニッチなニーズを満たすこともできる。バーレーンであれば、アラブ食品市場をベースに、ニッチな市場を攻めていくこともできると考えた。
(2)規制の少なさ:やはり外国資本100%で出資できることは魅力的。eコマースについても、特に支障となるような規制はなかった。
(3)コストの安さ:ドバイと比べて、事業コスト、生活コストが安い。特に家賃と人件費が安価である。人件費についてはTamkeenの自国民雇用補助金を活用し、バーレーン人を6人雇用しているが、これはドバイでは考えられない。自国民を雇用することでローカル市場への参入にも奏功している。
(4)市場のサイズ:バーレーンは市場も面積も小さいが、われわれとしては、これくらいのサイズで始められたことは非常に良かった。店舗から各地への物流ネットワーク構築などがやりやすく、これからサウジアラビア、クウェートへ展開するための基礎的なノウハウを身に着けることができた。サウジアラビアについては、間もなくサービスを開始する予定である。
質問:
なぜ急速に売り上げを拡大できているのか。
答え:
一般的な食品から、民族料理用食材、オーガニック食品、ベジタリアン向けなど、特定ニーズに基づくニッチな商品まで、5,000品以上取りそろえており、買い物に行く手間や時間を省きたい人々に人気を得ている。最近、同様のサービスを提供する会社も増えているが、商品の取り扱い数は当社が圧倒的に多い。
質問:
資金調達はどうしているのか。
答え:
資金は設立時に、バーレーン開発銀行と米国のソーシャル・キャピタル(Social Capital)から受けた。ソーシャル・キャピタルの出資は、われわれがGCCで初めてだ。サウジアラビアへの展開については、リヤドのファンドのマナファ・キャピタル(Manafa Capital)から資金を得ようとしている。バーレーンで資金調達が難しいと思ったことはない。バーレーン経済評議会(EDB)が設立を発表した1億ドル規模のアル・ワハ・ファンド・オブ・ファンズ(Al Waha Fund of Funds)(注2)という、フィンテックやスタートアップ向けのファンドが間もなく運用開始されれば、ベンチャーキャピタル(VC)の資金はより潤沢になるだろう。

GetBaqalaのオフィスとプリヤリCEO(ジェトロ撮影)

注1:
サンドボックス制度とは、革新的な技術やサービス(ドローン、自動走行、フィンテック、ロボットなど)を事業化する目的で、地域限定や期間限定で現行法の規制を一時的に停止する制度。企業が制約されずに、革新的な技術の事業化に向けて、砂場のように自由に試行錯誤できるところから命名された。
注2:
ファンド・オブ・ファンズとは、投資信託のうち、運用会社が別の投資信託に投資するもの。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山本 和美(やまもと かずみ)
2009年、ジェトロ入構。途上国貿易開発部、大阪本部ビジネス情報提供課等の勤務を経て2015年7月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
ガーダ・アシュラフ
カイロ大学卒業後、6年間の調査会社での勤務等を経て2016年4月ジェトロ・ドバイ事務所入所。大学ではマーケティングを専攻。