資源産業港として発展を目指す民間港アス(ブラジル)

2019年5月9日

リオデジャネイロ市から北東に319キロの位置にあるアス港は、2014年10月の開港以来、原油や鉄鉱石を扱う資源港としての地位を確立している。ブラジル経済省統計で港湾別に2018年の輸出額(各税関の実績のうち運輸手段別で「海運」の合計)をみると、16億3,100万ドルと全体の1.5%を占めるにすぎない(注1)。しかし、原油(関税コード2709)に限ってみると、輸出額は13億9,700万ドルと全体の9.0%を占める。原油輸出拠点としては、ニテロイ港(リオデジャネイロ州)、イタグアイ港(リオデジャネイロ州)、サントス港(サンパウロ州)に次ぐ港となる(表1参照)。鉄鉱石(関税コード2601)では、2018年に輸出額2億3,500万ドル(3.6%)と、サンルイス港(マラニョン州)、ビトリア港(エスピリトサント州)、イタグアイ港(リオデジャネイロ州)に次ぐ金額となっている(表2参照)。(注2)

表1:主要な原油輸出港(2018年)
港名 金額(百万ドル) 数量(千トン)
ニテロイ港(リオデジャネイロ州) 5,367 13,287
イタグアイ港(リオデジャネイロ州) 4,845 11,051
サントス港(サンパウロ州) 2,483 5,817
アス港(リオデジャネイロ州) 1,397 2,988
その他 1,385 3,449
合計 15,477 36,593

注:原油(関税コード:2709)に関して、運輸手段で海運の項目を抽出し集計。アス港の数値に関してはカンポス・ドス・ゴイタカゼス税関の実績を採用。
出所:経済省貿易統計(COMEXSTAT)を基にジェトロ・サンパウロ事務所作成

表2:主要な鉄鉱石輸出港(2018年)
港名 金額(百万ドル) 数量(千トン)
サンルイス港(マラニョン州) 2,672 52,050
ビトリア港(エスピリトサント州) 1,903 29,513
イタグアイ港(リオデジャネイロ州) 1,673 36,943
アス港(リオデジャネイロ州) 235 3,391
サントス港(サンパウロ州) 0 0
合計 6,482 121,896

注:鉄鉱石(関税コード:2601)に関して、運輸手段で海運の項目を抽出し集計。アス港の数値に関してはカンポス・ドス・ゴイタカゼス税関の実績を採用。
出所:経済省貿易統計(COMEXSTAT)を基にジェトロ・サンパウロ事務所作成

アス港はもともと、リオデジャネイロ州北東部沖合にカンポス海盆という海洋油田開発区域(注3)があり、後背地には鉄鉱石の主産地であるミナスジェライス州があることから、鉱物資源港として民間事業者が開発した経緯がある。開発・運営に当たるのはプルーモ・ロジスティカ(以下、プルーモ)で、米国に拠点を置くエネルギー・インフラ投資会社EIGグローバル・エナジー・パートナースが91.7%、アラブ首長国連邦のアブダビ政府投資会社ムバダラが6.9%を出資する国際企業だ。

プルーモの傘下には、石油ターミナルを運営するドイツ系石油貯蓄・ロジスティクス大手オイル・タンキングとの合弁会社アス・ペトロレオ、鉄鉱石ターミナルを運営する鉱物資源大手アングロ・アメリカンとの合弁会社フェホ・ポートがある。この2社がアス港の主要取扱品目の石油、鉄鉱石の港湾業務を担う。港湾全体の開発・運営を行うのはアス港湾会社で、臨海工業団地の管理、貨物ターミナルを運営している。同社には、2017年にベルギーのアントワープ港が出資し、運営面を含めた支援をしている。その他に、プルーモの傘下には、(1)エネルギー大手BPと船舶燃料ビジネスを担う事業体、(2)オランダ・ブラジルの合弁会社GranIHCとオフショア石油開発向けサービスを行う事業体、(3)BPおよびシーメンスと天然ガスの処理および火力発電所の運営を行う事業体(注4)、がある。


石油輸出ターミナルに接岸するタンカー
(プルーモ提供)

天然ガス火力発電プロジェクトの建設現場
(プルーモ提供)

原油、鉄鉱石を扱うオフショアの第1ターミナルの水深は20~25メートルあり、原油ではVLCC(注5)、スエズマックスが、鉄鉱石ではケープサイズの船舶が接岸可能だ。鉄鉱石については、産出地のミナスジェライス州から520キロに及ぶパイプラインで港湾部まで輸送している。オンショアの第2ターミナルの水深は10~14.5メートルで、主に輸入でドライバルク・一般貨物ターミナル(T-Mult)として運用されている。なお、第2ターミナルにはオフショア油田開発支援に携わる企業が複数進出している。具体的には、支援船サービスを行う米系エディソン・チョウエスト・オフショアが世界最大のサービス拠点をアス港に置き、フィンランド系バルチラ、米系インタームーア、英系テクニップFMC、米系NOVである。

臨海工業団地を含めたアス港の面積は130平方キロ、そのうち自然保護地区を除いた事業用地は90平方キロと、米国ニューヨーク市マンハッタン島の面積の1.5倍に相当する。プルーモでは今後、造船などオフショア油田開発関連企業に加え、沖合の豊富な原油・天然ガス資源を背景とした石油化学産業の立地を促したいとしている。

第2ターミナルのT-Multでは、将来的にはコンテナ貨物の取り扱いも計画している。アス港はまだ沿海輸送定期船ルートには組み込まれていないが、T-Multの接岸部水深は13.1~14.5メートルでパナマックスの接岸も可能だ。近隣のビトリア港、リオデジャネイロ港では取り扱い貨物の増加で港湾部の渋滞問題も見られる中、中長期的にその代替港としての地位を目指している。

国内港湾は基本的に公社が保有し、民間事業者がターミナル運営というケースが多い。しかし、アス港は、港湾保有者自体が民間事業者という点でユニークな特徴を有する。そのメリットとしてプルーモでは、投資企業や荷主のニーズに合わせた柔軟な対応が可能な点に加えて、他港で必要な港湾労働者管理組織(OGMO)所属の労働者を雇用する義務がなく、労務コストや人材面で裁量の幅が広く、効率性が高いという特徴を挙げている。また、投資企業のニーズに合わせた対応という点では、港内で活動する事業会社の多くは合弁で、プルーモがリスクシェア・パートナーとしての役割を担う可能性もある。実際に港内で運営されているプロジェクト、オフショア石油開発向けサービスや火力発電所プロジェクトには、プルーモも出資している。

臨海工業団地立地企業向けの税制インセンティブでは、州税の商品流通サービス税(ICMS)について、資材の調達(電気代、水道代を除く)に関して通常税率が7%~18%のところ、2%の税率で保留されるほか、市税の都市不動産税(IPTU)、サービス税(ISS)の減免が適用される(表3参照)。さらに、工業団地の一区画について、輸出加工区(ZPE)として認可されている。ZPEとは、売上額の80%を輸出に仕向けることを前提に、立地企業に対してさまざまな税制インセンティブを与える制度で、北東部セアラ州では韓国企業と鉄鉱石大手バーレとの合弁会社ペセン製鉄(CSP)が立地するZPEセアラ(港湾はペセン港)が運営されている(注6)。アス港では、豊富な原油取扱量から化学製品などの石油由来製品に加え、後背地で産出される鉄鉱石、果物、農作物、石材などの一次産品加工品の企業立地を促したい考えだ(注7)。

表3:アス港立地企業向け税制インセンティブ
区分 税金 内容 根拠法令
州税 商品流通サービス税(ICMS) 機械・装置・部品・付属品・原材料・消費財(燃料代・水道代を除く)の調達にかかる税率、通常は7%~18%のところを2%に保留。 州法令第6976号/2015
市税 都市不動産所有税(IPTU) アス港の所在地サンジョアンダバーハ市の税率、通常は0.7%~1%のところを0.5%に低減。また、課税対象となる土地価格の改定につき通常の価値修正の50%に低減。 市法令105号/2008
市税 サービス税(ISS) 通常の税率は2%~5%のところを、2%に低減。 市法令105号/2009

出所:アス港

アス港は開港して間もないため、臨海工業団地には新たな進出企業に向けた広大な土地がある。ターミナル内には、オフショア油田開発関連企業の集積が既に見られるほか、豊富な原油・鉄鉱石の取り扱い実績、アントワープ港のノウハウを生かした港湾の効率性、大型船の入港も可能な港湾インフラ、経済中心地である南東部の立地など、今後の発展に必要な条件はそろっている。プルーモでは、広大な工業団地を擁し、進出検討企業の要望に基づいた完全民間港湾ならではのサービス提供が可能としており、新たな投資候補地としての優位性を語っている。


注1:
アス港の取り扱い実績に関しては、カンポス・ドス・ゴイタカゼス税関の実績を本文に記載。ただし、港湾運営会社プルーモによると、同港に隣接する工業団地に立地した企業は、オフショアで事業を行う石油産業向け取引があり、同税関の実績として記録されていない品目が一部ある。
注2:
2017年のアス港の鉄鉱石輸出額は9億9,400万ドルと全体の5.2%を占めた。2018年の取扱額減少は、アングロ・アメリカンが保有する鉄鉱石パイプラインに問題が生じ、輸送が滞ったことが原因。プルーモによると、2018年12月に再稼働したため、2019年の取扱額は2017年を上回る見込みという。
注3:
ブラジル石油・天然ガス・バイオ燃料庁(ANP)によると、ブラジルの石油・天然ガス生産量は2018年12月に日量340万6,000バレル(うち天然ガスが71万5,000バレル)だが、アス港沖合にあるカンポス海盆における生産量は136万2000バレル(うち天然ガスが2万3000バレル)となっている。
注4:
このプロジェクトは、80億レアル(約2,320億円、1レアル=約29円)の資金を投じ、再ガス化ターミナルと天然ガス火力発電所を建設するもの。後者に関しては2基で3GWの発電量を見込み、2021年以降順次稼働を予定している。
注5:
Very Large Crude Carrierの略称で、20万重量トン以上30万重量トン未満の原油タンカー
注6:
ZPEセアラに関しては、2017年9月の報告を参照。
注7:
ブラジル日本商工会議所が2018年11月28、29日に進出日系企業関係者による視察団を派遣したが、その際の参加者向けアンケートでは、進出可能性の考えられる業種に、石油精製、石油・石炭製品、鉱業といった業種が上位に挙げられた。
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所次長
二宮 康史(にのみや やすし)
ジェトロ・サンパウロ事務所調査担当、海外調査部中南米課、アジア経済研究所副主任研究員などを経て現職。