日系企業は雇用創出・輸出・R&D投資などに大きく貢献(米国)

2019年1月31日

1990年以降、日本から米国への直接投資は堅調に増加しており、2017年の日本の投資残高は2年連続で世界3位となった(2018年8月15日記事参照)。また、ジェトロ米国進出日系企業実態調査によると、米国への事業拡大を検討する日系企業の割合は、2012年以降6年連続で5割を超えるなど、今後も投資残高の増加は続くと見込まれる。米国における日系企業の活動として、米商務省などのデータから雇用者数、輸出額、研究・開発(R&D)投資額などの動向をみる。

南東部・中西部・西部地域で多い日系企業の総雇用者数

直接投資を通じた雇用創出は、雇用者所得や個人消費の増加に寄与する。米商務省経済分析局(BEA)の発表によると、2016年の米国における日系企業の総雇用者数は86万600人と、英国(123万7,500人)に次ぐ世界2位となっている。2010年比では19万8,900人の増加(30.1%増)となっており、2011年以降、6年連続で増加している。他のアジア大洋州諸国と比較しても、韓国(5万1,800人)の16.6倍、インド(6万6,800人)の12.9倍、オーストラリア(7万4,300人)の11.6倍、中国(7万9,800人)の10.8倍と、日系企業が最も多くなっている。

地域別には、南東部(24万5,100人)、中西部(23万6,600人)、西部(16万6,400人)におけるプレゼンスが高い(いずれも英国に次ぐ2位)。日本が上位3カ国に含まれる州は全米50州の約半数の23州となっており、南東部が9州(テネシー州、ケンタッキー州、アラバマ州、ミシシッピ州など)、中西部が8州(インディアナ州、オハイオ州、カンザス州、ネブラスカ州など)、西部が5州(カリフォルニア州、ハワイ州など)となっている。州別にみると、販売拠点の多いカリフォルニア州(11万7,900人)、製造拠点の多いオハイオ州(6万2,800人)やインディアナ州(5万600人)、拠点形態の多様さが特徴であるテキサス州(5万1,300人)などの総雇用者数が多く、カリフォルニア州やオハイオ州では日本が国別で1位となっている(表1参照)。

表1:米国内における日系企業の州別・雇用者数 (単位:万人)
州名 日系企業の州別
雇用者数
州ごとにみた
日系企業の順位
カリフォルニア 11.79 1
オハイオ 6.28 1
テキサス 5.13 3
インディアナ 5.06 1
テネシー 4.86 1
ケンタッキー 4.57 1
ニューヨーク 4.25 4
イリノイ 4.24 2
ミシガン 3.40 2
ジョージア 3.09 2
出所:
商務省経済分析局

日系製造業の雇用者数は10年連続で国別最大

日系企業の総雇用者数を業種別にみると、製造業(39万7,000人)、卸売業(26万8,700人)が多く、合わせて全体の8割弱を占める(表2参照)。次いで、その他(5万700人)、金融・保険業(4万8,400人)、情報業(4万6,700人)が続いている。

表2:米国内における日系企業の業種別・総雇用者数 (単位:万人)
業種名 日系企業の業種別・雇用者数
製造業 39.70
卸売業 26.87
金融・保険業 4.84
情報業 4.67
小売り業 2.50
専門・学術・技術サービス業 2.21
不動産賃貸・リース業 0.19
不動産賃貸・リース業 0.19
その他 5.07
出所:
商務省経済分析局

製造業に絞ると、2007年以降、日本は10年連続で国別最大となっている(表3参照)。2010年比では10万7,600人の増加(37.2%増)となっており、同期間の雇用増加分も国別最大である。米国の製造業雇用者数は、同期間に約81万9,600人(7.1%増)の微増にとどまっており、日系企業の伸びが全体を上回る。ジェトロ米国進出日系企業実態調査(2017年度)によると、2012年以降、6年連続で4割以上の企業が前年より現地従業員の新規採用を増やしたと答えており、日系企業は米国の雇用創出にも貢献している。

表3:米国内における製造業企業の国別・総雇用者数 (単位:万人)
国名 製造業企業の
国別雇用者数
2015年の順位
日本 39.70 1
ドイツ 28.78 2
英国 27.56 3
フランス 21.33 4
カナダ 19.43 6
スイス 19.33 5
オランダ 15.94 8
アイルランド 15.64 7
ブラジル 7.30 9
スウェーデン 6.98 10
出所:
商務省経済分析局

自動車工場のある州への投資が目立つ製造業投資

製造業の業種別・州別の投資動向は、「フィナンシャル・タイムズ」のデータに基づきみていく。2008~2018年上半期における製造・物流拠点の対米直接投資件数は、トヨタ、ホンダ、スバルの自動車工場がある中西部のインディアナ州(115件)が最も投資を集めたほか、テネシー州(74件)やケンタッキー州(67件)など、日産やトヨタなどの自動車工場のある州への投資が目立つ(表4参照)。製造業の業種別には、自動車部品(259件)、金属(67件)、プラスチック(64件)、産業機械・機器(62件)、自動車OEM(57件)などが多い。

表4:2008~2018年上半期の日本企業の州別直接投資件数
(製造・物流拠点)
州名 投資件数
インディアナ 115
テネシー 74
ケンタッキー 67
オハイオ 67
ジョージア 50
テキサス 44
アラバマ 40
カルフォルニア 34
ノースカロライナ 33
出所:
フィナンシャル・タイムズ

金融危機後の日系企業による輸出額の増加額は国別最大

投資先で生産された財を米国外へ輸出すると、GDPの増加にも寄与する。日系企業による米国から海外への財の総輸出額は、2016年時点で866億4,700万ドルと、米国の総輸出額の6.0% (GDP比0.5%)を占める。金融危機前の2007年から66.0%増加しており、同期間の増加額は国別で最大となっている。日本以外の国では、英国(465億700万ドル)、ドイツ(400億9,900万ドル)などが多い。

日系企業の業種別内訳をみると、卸売業(508億500万ドル)、製造業(346億4,000万ドル)が多く、合わせて全体の9割以上を占める。製造業の中では、自動車・同部品(153億9,900万ドル)が多く、製造業全体の半分弱を占める。

研究・開発(R&D)投資も大きく増加

米国拠点における研究・開発(R&D)投資の実施は、米国産業の生産性向上に寄与する。日系企業の研究・開発(R&D)投資額は、2016年に80億4,900万ドルと、2007年比で36.3億ドル増加(82.3%増)している。同期間における伸びは、G7参加国の中で最大となっている。

表5:G7参加国による米国内での研究・開発(R&D)投資額
(2016年) (単位:億ドル)
国名 米国内における研究・開発
(R&D)投資額
英国 89.2
日本 80.5
ドイツ 77.7
フランス 56.4
カナダ 10.4
イタリア 2.0
出所:
商務省経済分析局

米国に進出する日系企業は、製造業を中心とした長年にわたる対米投資を通じて、雇用者数・輸出額・研究・開発(R&D)投資額のいずれにもおいても、他国よりも高水準を維持している。先進国で唯一安定的に成長を続ける米国市場に対して、日本企業の投資は継続的に拡大しており、今後も投資拡大を通じてさまざまな側面から米国経済に貢献していくと考えられる。


変更履歴
一部の表現に誤記がありましたので、以下の通り訂正します。(2019年12月26日)
【修正前】金融危機後の日系企業による輸出額の伸びは国別最大
【修正後】金融危機後の日系企業による輸出額の増加額は国別最大
【修正前】同期間の伸びも国別で最大となっている。
【修正後】同期間の増加額は国別で最大となっている。
【修正前】同期間における増加額は、G7参加国の中で英国に次ぐ2位となっている。
【修正後】同期間における伸びは、G7参加国の中で最大となっている。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
権田 直(ごんだ ただし)
2004年に内閣府入府。内閣府では、GDP統計、月例経済報告、経済財政白書、経済財政に関する中長期試算の作成のほか、経済財政諮問会議の事務局業務などを担当。2016年12月よりジェトロに出向。現在は、調査レポート執筆や企業への情報提供などを担当。