ヤシ殻(PKS)に熱い視線(インドネシア)
バイオマス燃料の商談会、PKSの安定購入に期待と不安

2019年7月17日

近年、バイオマス発電の燃料として、パームオイルを絞ったあとのヤシ種殻のPalm Karnel Shell (PKS)が注目されている。インドネシアはパームオイルの生産量では世界一であり、PKSは豊富だ。一方、日本では、現在約90カ所のバイオマス発電所が計画されており、日本企業はFIT(電気の固定価格買い取り制度)の認可を得るためには、PKSの安定購入先の確保が必要だ。

各国のPKS争奪の様相へ

PKSの需給の推移をみると、その総量が不足するとの見通しがある。日本国内では、FIT制度の導入により、約90カ所のバイオマス発電所が計画されており、PKSなどバイオマス由来の燃料は年間1,000万トン以上必要と想定されている。現在、インドネシアから日本へのPKS輸出は年間25万トン(2018年)だ。インドネシア全体のPKS発生量は年間1,000万トンと言われているが、中国、韓国などもPKS買い付け量を今後増やすと思われ、日本の需要を賄いきれない。同じパームオイルから発生するEPB (Empty Fruit Bunch、空果房)を燃料として活用できるような取り組みも望まれている。EPBはPKSの外側にある房のことで年間3,400万トン発生しているが、現在はほとんどが廃棄物となっている。EPBには塩分が多いこと、とげ状の形状のため粉砕しないとボイラーを痛めるため、ペレット化など新しい技術が必要となるなど、実用化には時間がかかるとみられる。現状では、日本のバイヤーはPKSを安定して確保することが先決だ。


PKS(乾燥させた最終製品)(ジェトロ撮影)

EPB(空果房)、生の状態。このあと
粉砕・乾燥が必要(ジェトロ撮影)

初のPKS商談会、活況も供給・品質・コスト面が課題

こういった状況下、2018年度からジェトロ・ジャカルタ事務所には、売り手(インドネシアのPKSサプライヤー)からの問い合わせや、TTPP(ジェトロの国際ビジネスマッチングサイト)への登録が増えてきた。買い手(日本側のバイヤー)からは、「一部大手財閥グループ以外の売り手探しが難しい」という声が挙がっていた。こうした経緯もあって6月18日、ジェトロ・ジャカルタとしては初めてPKSに関わる商談会を開催した。予定を大幅に上回る売り手14社、買い手32社、合計80人近くが来場した。


ジェトロ・ジャカルタ事務所内で開催された
商談会の様子(ジェトロ撮影)

商談会の結果、早くも次回開催の希望が寄せられるなど、関係者の期待は大きい。一方で、商談会を通して供給、品質管理、価格面などの課題も見えてきた。

  1. 供給面:
    長期的な固定価格と安定供給が買い手の要求だが、インドネシア側は中小・零細のサプライヤーがほとんどのため、契約先として不安がある。また、積み出し港には一時保管所(ストックパイル)の建設などの準備が求められる。これらを満たすには、売り手側で何かしらの協同組合などの体制をつくり、量を確保して安定供給につなげる取り組みが求められる。
  2. 品質管理面:
    PKSは植物由来のため塩素カリウムが含まれており、燃焼時にダイオキシンの発生や焼却ボイラーの破損原因になる。また、水分も多く含まれている。これらを除去するため、乾燥・炭化する加工工程が必要になる。認証基準のRSPOやISPO(ともに後述)取得に要する品質管理コストも見込まれる。
  3. 価格面:
    PKSのスポット相場は1トン当たり100ドルだが、長期契約だと150ドル近くになる。このため、買い手にとっても長期契約とスポット契約を使い分けるポートフォリオ運用が理想的で、買い手側にもサプライヤーをサポートする方策、例えば、支払条件を分割して、契約時、集積時、船積み後にそれぞれ支払う契約条件が期待される。これは、パーム農園からの集積、保管場所、乾燥加工などの費用を加味すると、100%船積み後ではサプライヤーの資金負担が重いと考えられるためだ。

今後の国際認証や需給動向に注視が必要

PKSの今後の動向をみる上で重要な点が、国際認証や需給の推移である。

RSPOとは、「Round Table Sustainable Palm Oil(持続可能なパーム油のための円卓会議)」で、EUが提唱している国際的なパーム油調達基準の設定だ。

パームオイルは利用範囲が広く、食用油や菓子製品、洗剤、化粧品などに使われている。他の植物油よりコストが安いため輸出額が年々増えており、産地のスマトラ島とカリマンタン島での作付面積が増えている。しかし、パーム関連産業は原生林を伐採してパーム農園に切り替えている、労働集約型の産業のため、農園の労働者の待遇、特に児童を労働力として活用している例も見られ、EUから警告が出ている。こうした環境・人権に配慮してパーム油を生産している場合、EUは当該産品にRSPOを付与する。しかし、EU基準は厳格なため、インドネシアは独自の基準としてISPO(Indonesia Sustainable Palm Oil)を提言しており、RSPOとの基準調整が進められている。

今後、パームオイルの認定基準がそのヤシ殻であるPKSにも同様に課せられる可能性が高いという見方をする関係者もいる。日本側は、バイオマス発電FITの認定基準として、RSPOだけに限定しているわけでなく、ISPOを含めた第三者認証を排除していないものの、その動向が注視される。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所 経済連携促進アドバイザー
中沢 稔(なかざわ みのる)
1982年、総合商社に入社。1998年ジャカルタ駐在、2013年韓国駐在、2016年にインドネシアのプルワカルタの自動車部品メーカーへの出向を経て、2018年から現職。