【中国・潮流】武漢商工会は活動の活性化を通じて駐在員のストレス緩和

2019年2月28日

企業から海外に派遣された従業員、すなわち海外駐在員は、公私ともに環境が大きく変化するため、増大するストレスにより、メンタル面での不調や体調不良など健康被害につながるケースも少なくない。

こうした駐在員の健康被害は、駐在員はもとより、企業にとっても大きな損失となり得るが、各企業の対策は十分とは言えない。東京医科大学付属病院の調査によれば、海外駐在員のメンタルヘルス対策について、「対策が十分に行われている」と回答した企業は全体のわずか6.3%、「まあまあ行われている」と回答した企業と合わせても40%未満にとどまっている。

中国内陸部に位置する武漢市の在留邦人は500人超で、大半を駐在員(単身赴任の男性)が占めている。中には、現地法人に唯一の日本人として派遣されている駐在員も少なくない。このような環境がもたらす孤独感はストレスを増大させ、結果として、任期途中で帰国を余儀なくされるケースも散見される。こうした孤独感を少しでも和らげ、ストレスの解消を図ることは非常に重要だ。

こうした中、現地の商工会の活動の活性化は、駐在員のストレスに対する緩衝剤となり得るものとして注目すべき事象が武漢では生じている。

中国日本商会によれば、2018年度の中国(香港、マカオを含む)で活動中の商工会組織は44カ所ある。1995年に設立された武漢日本商工会は会員企業150社だが、最近、会員企業有志の献身的な努力により、商工会活動が活性化している。

各地の商工会活動と同様、武漢日本商工会でも相互の親睦のため、ソフトボール、ボーリング、旅行などのイベントやセミナ-を年間通じて開催している。こうしたイベントは、商工会役員会を中心に会員企業有志が文字通り「手作り」で行っている。これまでは、これらのイベントへの参加には濃淡があり、参加する人はいつも同じメンバーになりがちだった。最近、軽音楽を愛するサークルや出身地域ごとのサークルなどが自然発生的に立ち上がり、商工会の活動に包摂することで、より多くの人が商工会活動に参加するようになり、商工会活動の活性化につながっている。

例えば、年末恒例の商工会主催の忘年会は、今や在留邦人や現地スタッフなど300人が集まる一大イベントだ。2017年の忘年会では、音楽的才能に恵まれた駐在員が、武漢に対する愛情をこめて作詞作曲した「武漢Fly away」が披露され、会場で大きな喝采を浴び、今では商工会のテーマソングとなった。2018年末の忘年会でも全員で合唱し、みんなが一体となって感動と興奮を体感するイベントになった。


盛り上がりを見せた武漢日本商工会主催の忘年会(2018年12月9日)(ジェトロ撮影)

この模様は地元政府にも注目され、地元メディア(「長江日報」2018年12月17日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )を通じて広く紹介され、日本に対する好感度の上昇につながっている。

このほか、商工会活動を通じて、新たな事業機会が誕生するケースも増えている。2018年、武漢商工会は会員企業関係者を対象に湖北省内の地方都市へのミッションを派遣したが、そのうちの1社は地元企業と大きな商談を成立できた。また、工場やオフィスなどの見学会について商工会を通じて周知することで、会員企業間で商談が成立するケ-スも生まれるなど、事業機会の創出にもつながっている。

このように、商工会活動の活性化が商工会活動へ参加する人の増加につながり、参加者の増加が商工会のさらなる活性化につながるなど、好循環が生じている。

そして、駐在員の生活も商工会活動への参加を通じて、自らの属性以外の人と仕事を超えたフラットな人間関係が構築されることにより、日々の生活に刺激と変化がもたらされている。こうした新たな人間関係の構築が、日々のストレスに対する緩衝剤となりつつある。

執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所 所長
古谷 寿之(こや としゆき)
1993年、通商産業省入省。経済産業省商取引消費経済政策課市場監視官、同大臣官房広報室海外報道班長を経て2015年7月から現職。