EUの新しい動物医薬品規制と輸入食品への影響
抗生物質耐性菌への対策を強化

2019年4月8日

抗生物質は、病気の治療や予防を目的として、動物にも人間にも使用されており、とりわけ家畜の飼育過程においては、病気予防の観点から広く用いられている。しかし、畜産業における抗生物質の過剰な投薬により、薬剤耐性菌が出現し、動物のみならず人間への影響も問題視されている。この問題に対処するため、EUは、家畜に対する抗菌薬の使用ルールの見直しに乗り出した。

薬剤耐性菌対策の必要性

家畜に対して抗生物質を過剰に投薬すると、抗生物質が効かない薬剤耐性菌が出現することがある。そして、その薬剤耐性菌に汚染された畜産物の摂取を通じて、薬剤耐性菌が人間にも伝播(でんぱ)し、抗生物質が人間に対しても効かなくなってしまう恐れがある(注1)。世界保健機関(WHO)によると、EEA(欧州経済領域:EU、アイスランド、リヒテンシュタインおよびノルウェー)において、薬剤耐性菌が原因の病気による死者は年間3万3,000人に達しており、早急に有効な対策を打つことが求められている(注2)。

新しい動物医薬品規制の概要

こうした背景から、欧州委員会は2014年9月10日、家畜への抗生物質の使用制限に関する規制案を発表した。同規制案は、その後の4年にわたる議論を経て、2018年12月11日にEU理事会により採択され、薬剤添加飼料に関して定めた「欧州議会・理事会規則2019/4外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」と、動物医薬品に関して定めた「欧州議会・理事会規則 2019/6外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」が2019年1月7日に官報掲載、同月27日に発効した。これらの新規則は、2022年1月28日から適用が開始される。

両規則は、「EU域内における医薬品部門の研究の進歩を促すこと」および「人間を薬剤耐性菌の健康被害から守るために取り組むべき具体的な対策を示すこと」を目的としている。両規則では、EU加盟国が順守すべき事項として、主として以下の内容が定められている(注3)。

  • 動物集団における抗生物質の予防的使用の禁止
  • 医薬品添加飼料による抗生物質の病気予防目的での使用の禁止
  • 伝染病のまん延を防ぐ目的での抗生物質の感染予防的(metaphylaxis)な使用の制限
  • 成長の促進または収量の増加を目的とした抗生物質の使用禁止を再強化
  • 特定の抗生物質をヒトの治療専用に確保する可能性
  • EU加盟国に対して、抗生物質の販売と使用に関するデータ収集の義務付け

EUへの輸入品に影響も

前述の動物医薬品に関する新規則2019/6の一部の規定は、EU域外からEUに輸入される動物由来の製品にも適用される。具体的には、同規則第118条において、以下のとおり規定されている。

  • EU域外の第三国からEUに輸入される動物または動物由来の製品に関しては、当該第三国の事業者に対して第107条(2)を適用する。また、これらの事業者は、第37条(5)において規定された指定抗生物質を用いてはならない〔第118条(1)〕。
  • 本条(1)の適用に関する必要な規則の詳細を規定し本条を補足するため、欧州委員会は委任規則を採択するものとする〔第118条(2)〕。

第118条で言及されている第107条(2)および第37条(5)では、それぞれ次のように規定されている。

  • 抗生物質を動物に対して成長の促進または収量の増加を目的として使用してはならない〔第107条(2)〕。
  • 欧州委員会は、実施規則により、ヒトの特定の感染症の治療のために確保すべき抗生物質を指定する〔第37条(5)〕。

以上を整理すると、規則2019/6の適用が開始される2022年1月末以降、EUに輸入される動物性の食品については、(1)成長促進や収量増加を目的とした抗生物質の使用禁止、(2)欧州委員会が「ヒト用」として指定した特定の抗生物質の使用禁止、が課されることとなる。また、具体的な指定抗生物質の範囲など、詳細は今後制定される委任規則・実施規則によって規定される。

日本の畜産業においても、家畜への抗生物質の予防的投与は広く行われており、日本で日常的に家畜に使用されている抗生物質がEUで「ヒト用」として指定された場合、当該抗生物質を投与された家畜を原料とする食品は、EUへの輸入が認められなくなる。日本からは、既にEUへの輸入が解禁されている生鮮牛肉(和牛)に加え、2019年2月から3月にかけて日本産の鶏卵と乳製品についてもEUへの輸入が解禁され(2019年2月26日付ビジネス短信参照2019年3月8日付ビジネス短信参照)、今後、日本産の畜産物のEU市場への展開が期待されている。一方で、今後制定される委任規則・実施規則の内容によっては、今般の新しい動物医薬品規制が日本産畜産物の輸出の障壁となる可能性もあり、本規制の今後の動向を注視していく必要がある。


注1:
農林水産省- 家畜に使用する抗菌性物質について外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注2:
World Health Organization- Statement World Antibiotic Awareness Week 2018: There is only One Health!外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注3:
European Commission- Question and Answers on the new legislation on Veterinary Medicinal Products (VMP) and Medicated Feed外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
鵜澤 万実子(うざわ まみこ)
2019年、ジェトロ・ロンドン事務所インターンシップ
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
市橋 寛久(いちはし ひろひさ)
2008年農林水産省入省、2017年7月からジェトロ・ロンドン事務所。