日本のGSP卒業国となったブラジルとメキシコ、その影響は?

2019年4月26日

2019年4月1日に、ブラジル、メキシコ、中国、タイ、マレーシアが日本の一般特恵関税制度(GSP: Generalized System of Preferences)の対象国から全面卒業した。GSPとは、開発途上国の経済成長の促進を目的に、先進国が開発途上国の産品に対して、一般の税率より低い関税率(特恵税率)を適用する制度。4月1日時点で日本GSPの特恵受益国外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は133カ国・地域あり、そのうち46カ国は、後発開発途上国に対して適用している特別特恵受益国に指定されている。また、特恵税率の対象品目は、農水産品では有税品目約1,900品目中の約400品目、鉱工業品では有税品目約4,300品目中の約3,100品目となっている。

経済発展を遂げた、主に新興国の特恵対象国は、所得水準や近年の国際貿易額に応じて見直しされ、一定の要件(表1参照)を満たした場合に、全面適用除外措置(全面卒業)や部分適用除外措置(部分卒業)の国・地域に指定される(表2参照)。

表1:日本の一般特恵関税制度(GSP)の卒業要件
種別 対象国 対象品目・措置
全面卒業 「高所得国」(注)に3年連続して該当した国・地域 全品目を特恵税率対象から除外
部分卒業 「高所得国」に該当した国・地域 輸入額10億円超・輸入シェア25%超の品目を特恵税率対象から1年間除外
国別・品目別特恵適用除外措置 すべての特恵受益国・地域 輸入額15億円超・輸入シェア50%超の品目を特恵税率対象から3年間除外

注:「高所得国」とは、世界銀行の統計で1人当たりGDPが1万2,736ドル以上の国・地域。なお、4,036ドル~1万2,475ドルが「高中所得国」、1,026ドル~4,035ドルが「低中所得国」、1,025ドル以下が「低所得国」。
出所:財務省関税局

表2:日本の一般特恵関税制度(GSP)の全面卒業国・地域一覧
卒業(除外)年月日 国・地域
1981年4月1日 ギリシャ(注)
1986年4月1日 スペイン(注)、ポルトガル(注)
2000年4月1日 アラブ首長国連邦、イスラエル、カタール、キプロス、グアム(米)、クウェート、グリーンランド(デンマーク)、ケイマン諸島(英)、シンガポール、大韓民国、台湾、ニューカレドニア(仏)、バミューダ(英)、バハマ、ブルネイ、米領ヴァージン諸島、香港、マカオ、蘭領アンティール
2003年4月1日 スロベニア
2004年5月1日 エストニア(注)、スロバキア(注)、チェコ(注)、ハンガリー(注)、ポーランド(注)、マルタ(注)、ラトビア(注)、リトアニア(注)
2006年4月1日 バーレーン
2007年1月1日 ブルガリア(注)、ルーマニア(注)
2007年4月1日 仏領ポリネシア
2009年4月1日 サウジアラビア
2011年4月1日 オマーン、トリニダード・トバゴ、バルバドス
2012年4月1日 英領アンギラ地域、英領ヴァージン諸島地域、英領ジブラルタル地域、英領タークス及びカイコス諸島地域、英領フォークランド諸島及びその附属諸島地域、スペイン領カナリー諸島地域、スペイン領セウタ及びメリリア地域
2013年4月1日 クロアチア
2016年4月1日 クック
2017年4月1日 ウルグアイ、セントクリストファー・ネービス、チリ
2018年4月1日 アンティグア・バーブーダ、セーシェル
2019年4月1日 タイ、中華人民共和国(香港地域及びマカオ地域を除く。)、ブラジル、マレーシア、メキシコ

「(注)」は、EU(EC)加盟に伴う除外(13カ国)。
出所:財務省関税局

ブラジルは対日輸出の特恵関税制度が終了

ブラジルが2019年4月1日から、日本のGSP対象国から全面卒業したことにより、ブラジルにとって対日輸出の特恵関税制度が終了した。2018年の日本の対ブラジル輸入額は68億8,970万ドルで、輸入額の42.1%を鉄鉱石が占める。そのほか、ブラジルからは鶏肉やコーヒー、大豆などの農産品や、工業用アルコールなども輸入されている(表3参照)。

表3:日本の対ブラジル輸入品目(2018年)(単位:100万ドル)
HS 品目名 輸入額 シェア
2601 鉄鉱石 2,898.0 42.1%
0207 肉及び食用のくず肉で家きんのもの 763.5 11.1%
0901 コーヒー 328.3 4.8%
7202 フェロアロイ 303.2 4.4%
2207 エチルアルコール及び変成アルコール 264.3 3.8%
1201 大豆 242.2 3.5%
4703 化学木材パルプ 202.5 2.9%
7601 アルミニウム 200.6 2.9%
2009 果実又は野菜のジュース 169.8 2.5%
1005 とうもろこし 156.8 2.3%
その他 1,360.4 19.7%
合計 6,889.7 100.0%

出所:Global Trade Altasよりジェトロ作成

他方、GSP対象品目のみに絞った輸入統計によると、2018年の輸入額は166億8,968万円で、上位7品目で約80億円を占めている(注)。品目別にみると、うま味調味料の原料であるグルタミン酸ソーダ、繊維素材のポリエチレン、ポリエステル素材やペットボトルの原料となるエチレングリコールなどが上位だ(表4参照)。

上位7品目で最恵国待遇(MFN)税率とGSPを比較すると、でんぷん誘導体(3505.10.100)の税率差が5.44%と最も大きい。またエチレングリコール(2909.44.000)、マンニトール(2905.43.000)、酵素類(3507.90.000)がGSPで無税だったが、MFNで2.8~3.9%が課税されることになった。MFNとGSPの関税額は、上位7件あわせて1億7,517万円の差であった。

表4:GSPを利用した対ブラジル輸入実績(2018年)(単位:1,000円)
HS 品目名 輸入額 関税率 関税額 関税額の差
MFN GSP MFN GSP
2922.42.100 グルタミン酸ソーダ 4,978,655 6.50% 5.20% 323,613 258,890 64,723
3901.20.010 比重が0.94以上のポリエチレン 1,242,547 6.50% 2.60% 80,766 32,306 48,459
2909.44.000 エチレングリコール又はジエチレングリコールのモノアルキルエーテル 531,475 3.70% 0.00% 19,665 0 19,665
2905.43.000 マンニトール 376,697 2.80% 0.00% 10,548 0 10,548
3507.90.000 酵素及び他の項に該当しない調製した酵素、その他のもの 376,571 3.90% 0.00% 14,686 0 14,686
3505.10.100 エステル化でん粉その他のでん粉誘導体 233,481 6.80% 1.36% 15,877 3,175 12,701
3901.40.010 比重が0.94未満のエチレン-アルファ-オレフィン共重合体 261,143 2.80% 1.12% 7,312 2,925 4,387
上位7品目 8,000,569 4.71% 1.47% 472,465 297,296 175,169
その他 8,689,114
合計GSP利用 16,689,683

注:3901.20.010に対するGSP税率は、2.6%または8.96円/kgのうち、いずれか低い方となっていた。ただし、表中では便宜的に2.6%とした。
出所:財務省貿易統計

メキシコの全面卒業はほぼ影響なし

ブラジルと同時に、メキシコも全面卒業国となった。ただし、貿易面での影響はほとんど見られない模様だ。2018年のGSPを利用した輸入実績は少なく、MFNもしくは日本・メキシコ経済連携協定(日墨EPA)を利用した輸入であった。GSPで輸入された品目は、日墨EPAの関税削減対象品目外となっているトルティーヤチップス(1905.90.239)とチコリー(その他のもの)(0705.29.000)のみであった。

メルコスールとのEPAの可能性は

ブラジルは、日本のGSPから卒業したことで、対日輸出時の特恵関税を享受することができなくなったが、ブラジルが日本とEPAを締結するという道もある。ブラジルはアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイと南米南部共同市場(メルコスール)を形成している。メルコスールの通商交渉は、加盟国が全会一致で協定締結に合意した場合に限って採択するコンセンサス方式が取られている。2019年1月に大統領に就任したジャイール・ボルソナーロ氏は、日本とのEPA交渉に前向きな姿勢を見せている。しかし、メルコスールとしての交渉を進めるか、ブラジル単独での交渉とするか、明示的な表明はしておらず、今後の動向に注目が必要だろう。


注:
GSPのドル建て輸入統計は公表されていないため、財務省輸入統計の円建てデータを利用した。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)などを経て現職。