業績好調も人件費などコスト増を懸念(中国)
2018年度広州日本商工会アンケート

2019年2月8日

広州日本商工会は2018年11~12月に、法人会員626社(2018年9月現在)に対し、事業方針や経営上の課題などに関するアンケートを実施した(有効回答85社)。2018年の売り上げが増加すると回答した企業は全体の54%に上り、今後事業を拡大すると回答した企業も65%あり、いずれも過半数を占めた。他方、賃金上昇や人材不足、従業員の定着率悪化を懸念する企業が依然として多かった。

内販比率50%以上の企業が8割超

このアンケートは、毎年オンラインで実施される。今回は85社から回答を得た。回答企業の割合を業態別にみると、生産現地法人が40%、販売現地法人が26%、駐在員事務所が9%、香港現地法人による委託加工が4%、中国現法の分公司などその他が21%だった。

業種別(複数回答可)では、自動車関連が27%と最も多く、電気・電子(15%)、貿易・流通(11%)、機械・素材(9%)が続いた。

自動車産業など内需型産業が多く立地する広州市とその周辺では、従来から売り上げに占める内販の割合が高い。アンケートによると、現時点で内販が売り上げの50%以上を占める企業数は、60社(当該項目を回答した企業の85%)に上った。

2018年は5割超の企業が売り上げ増

2018年の業績予想については、売上高が「大幅増加」すると回答した企業は6社(7%)で、「多少増加」(40社、47%)と合わせると、全体の過半数を占めた。他方、「大幅減少」(2社、2%)、「多少減少」(14社、16%)と回答した企業は、合わせても2割程度にとどまっている。

今後の事業展開の方向性については、全85社のうち、「事業を拡大する」と回答した企業は55社(65%)で、「現状維持」と回答した29社(34%)を合わせるとほぼすべてを占めた。一方、「縮小」と回答した企業は、1社(1%)にとどまった。

事業拡大の内訳を見ると、「駐在員・社員を増強」と回答した企業は「自動車関連」「貿易・流通」「運輸・物流」などの22社(当該項目を回答した企業の32%)。「生産ラインを増設」「工場を増設」と回答した企業は、「自動車関連」「機械」「化学品」など31社(45%)に上った。「その他」(13社、19%)では、「倉庫増設」「新規事業の立ち上げ」「生産品目の増加」といった回答が挙がった。

事業拡大の背景については、回答した計67社のうち、「中国市場での販売好調」が20社(30%)と最も多く、「納品先での生産拡大」(19社、28%)、「市場開放進展で商機拡大」(12社、18%)が続いた。

中国企業との取引拡大を志向

今後の戦略については、「中国企業・市場にも販路を広げる」との回答が42社(29%)と最も多かった。「中国企業からの調達」も21社(15%)と多く、中国企業との取引強化を重視する傾向は従来から変っていない。「製品の加工度合いを高め高付加価値化」「より高級品の製造に転換」と回答した企業は、合わせて36社(25%)に上った。

近年の人件費上昇を受け、「(製造工程の)自動化を進める」との回答も、32社(22%)と多かった。

「その他」(12社、8%)では、「効率化による1人当たりの生産性向上」「他社に委託している業務の内製化」などのコメントが出ている。

将来の移転先として関心のある国・地域としては、「広東省珠江デルタ内」が47社(45%)と依然として多く、次いで自動車産業の集積が進む「湖北省」(13社、12%)、華北や華東など「その他中国」(12社、11%)が続いた。

「その他諸外国」(9社、9%)では、ベトナムが複数挙がった。

化学品の取り扱いは依然困難

税務に関する経営上の問題としては、例年と同様に「移転価格」が20社(18%)と最も多かった。「移転価格税制の規制強化により、グループ内他社からの仕入れ価格が高額となり、(広州での)販売が困難」との回答が寄せられた。

税関に関する問題については、「通達・規則内容の周知徹底が不十分」が29社(21%)と最も多かった(図1参照)。「法令の変更が頻繁な上、規則の周知期間が短い」というコメントのほか、税関部門内で新規則の周知が不十分なためか、「地域により運用が異なる」といった声が上がっている。

ほかには、「化学品の取扱規制の強化」(23社、17%)、「税関手続きの煩雑さ」(22社、16%)が多かった。うち、前者については、「輸入通関に時間が掛かる」「(化学品の運搬に)危険物用トラックを利用しても、通行不可の道路が多い」「米国製原材料に対する関税が非常に高い」などの声が出ている。

図1:経営上の問題(税関)
29社が「通達・規則の周知徹底が不十分」、23社が「化学品の取扱い規制強化」、22社が「税関手続きの煩雑さ」、20社が「通関に時間がかかる」、13社が「関税分類の認定基準が不明瞭」、9社が「関税の課税評価の査定が不明瞭」、20社が「その他」をそれぞれ挙げた(複数回答)。

出所:広州日本商工会

多くの企業が賃金上昇を懸念

労務に関しては、「賃金の上昇圧力」が59社(41%)と、7年連続で最多であった(図2参照)。次いで、「募集しても必要人数が採れない」(28社、19%)、「定着率の悪化」(22社、15%)「労働法への対応」(16社、11%)の順であった。

賃金上昇については、毎年高水準で賃金が上昇する中、「物価上昇率と賃金上昇率が比例していない」「昇給率と事業拡大による企業収益改善のスピードが合わない」「地場企業とのコスト競争に対抗できない」などの声が聞かれた。

人材不足や定着率悪化に関しては、「ワーカーが不足する中、募集しても応募が少なく、入社してもすぐに辞める」「最近新入社員の定着が悪い。入社後数週間で3~5割が退職する」「周辺の地場企業が賃金を引き上げる中、人材の定着率が悪化している」などのコメントが出ている。

図2:経営上の問題(労務)
59社が「賃金の上昇圧力」、28社が「募集しても必要人数が取れない」、22社が「定着率の悪化」、16社が「労働法への対応」、8社が「労働争議への対応」、11社が「その他」をそれぞれ挙げた(複数回答)。

出所:広州日本商工会

販売・生産減などが生じた場合、どのように対応するかについては、前年と同様に「雇用削減」(38社、48%)、「雇用維持」(33社、42%)の順であった。後者に関しては、雇用維持のため、「昇給抑制」「残業削減」「自動化等によるコスト削減」「新規事業の拡大」などのコメントが寄せられた。「その他」(8社、10%)では、「欠員が出ても後任を補充しない」との回答が散見された。

その他の問題点については、「調達コストの上昇」(33社、24%)、「限界に近づきつつあるコスト削減」(32社、24%)、「環境規制の厳格化」(29社、21%)、「売掛金の回収」(23社、17%)の順であった(図3参照)。

「調達コスト」に関しては、化学品の価格が上昇しているという。環境規制については、「規制に対応するため、高額な設備投資を要する」「(環境部門により)査察を突然受け、理由も分からないまま罰金を科される」とのコメントが寄せられた。

売掛金に関しては、「国有企業の場合、回収に平均1年を要する」「故意による未払いが多々生じる」「顧客先からは長期手形で代金を回収する一方、サプライヤーには(納品後)短期間に代金を支払うため、キャッシュフローが悪化している」との回答が挙がっている。

図3:経営上の問題点(その他)
33社が「調達コストの上昇」、32社が「限界に近づきつつあるコスト削減」、29社が「環境規制の厳格化」、23社が「売掛金の回収」、4社が「加工貿易制度への規制強化」、2社が「政府からの立ち退き要求」、2社が「電力不足」、1社が「遊休地の返還圧力」、10社が「その他」をそれぞれ挙げた(複数回答)

出所:広州日本商工会

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 次長
粕谷 修司(かすや しゅうじ)
1998年、ジェトロ入構。中国・北アジアチーム(1998~2000年)、ジェトロ青森(2000~2002年)、ジェトロ・香港事務所(2002~2008年)、知的財産課(2008~2011年)、生活文化産業企画課(2011~2014年)を経て、現職。