日本の伝統とモダンの融合が欧州で高評価(ドイツ)
フランクフルトで、消費財分野世界最大級のアンビエンテ開催

2019年4月4日

日本で作られたデザインは欧州で根強い人気を誇る。一方、成熟市場でもある欧州で評価されるためには、商品がバイヤーや消費者の心に訴える確たるものが必要になる。その秘訣(ひけつ)の1つは、日本のものづくりの工程を知ってもらい、その価値を伝え、そして、欧州の消費トレンドを把握して日本のものづくりとそのトレンドを融合させることだ。ジェトロの事業を通じて見えた、欧州で評価される伝統技術の可能性とモダンデザインの傾向を紹介する。

招聘プログラム通じて、ものづくりの背景を海外に伝える

ジェトロは3月4~8日、日本のデザイン製品・日用品・伝統工芸品の海外展開を支援するため、雑貨や贈答品の展示会「京都インターナショナルギフトショー」に合わせ、ドイツからの1社を含む海外バイヤー5社を日本に招聘(しょうへい)した。訪問プログラムでは、京都での展示会の前に、優れた伝統産品を多く持つ金沢を訪問、ワークショップを開催して、蒔絵(まきえ)やその技法などを紹介した。ものづくりの現場を視察できるプログラムはバイヤーから好評をもって迎えられた。参加者でモダンな個人商店が集まるベルリン・ミッテ地区でキッチン商品を扱う小売店「コッホテール」の購買を担当するマヤ・ウェルカー氏は「伝統工芸品の作業工程を知ることで商品価値を理解できた。漆の商品がなぜ高価なのかが分かった」と語った。ワークショップ翌日の商談会では、石川県や近隣の県から23社の日本企業が集まり、自社の商品をバイヤーに紹介した。京都では、バイヤーたちは京都インターナショナルギフトショーを視察したほか、京都をはじめとした関西の企業との商談会を開催。着物や帯など織物についてのワークショップも行われた。

消費財分野のカギとなるトレンド発信地、アンビエンテ

今回訪日した海外バイヤーや、商談に参加した日本企業の多くが、訪問または出展の経験があり、消費財分野のカギとなる展示会がある。ドイツのフランクフルトで開催される消費財分野では世界最大級の展示会「アンビエンテ」だ。2019年は2月8~12日に開催され、92の国・地域から4,451社が商品を展示し、166カ国・地域から約13万6,000人が来場した。ジェトロは日本企業6社を取りまとめ、ホール1.1(ホールテーマはキッチン・トレンド)とホール4.0(テーブル・コンテンポラリー・デザイン)の2カ所にジャパンパビリオンを設置した。


多くのバイヤーが来場したアンビエンテ
(メッセ・フランクフルト提供(C) Messe Frankfurt Exhibition GmbH/Thomas Fedra)

アンビエンテでは、セミナーや、事前に審査が行なわれるデザインの受賞商品の展示など、サイドイベントも多数開催される。デザインに関する一連のセミナー「アンビエンテ・アカデミー」では、2019年のトレンドを取り上げた。アンビエンテが注目する消費財に関するトレンドは3つあり、1つ目は「上品な住居(tasteful residence)」、2つ目は「穏やかな環境(quiet surrounding)」、3つ目は「喜びあふれる雰囲気(joyfilled ambience)」だ。「上品な住居」とは、タイムレスなデザインを持った高級品や洗練されたデザインなどで、濃い色使いと肉感的な素材が使われた商品だ。「穏やかな環境」とは、自然の美しさやナチュラルさを前面に出し、シンプルなデザインかつ落ち着いた印象がポイント。例えば、材料が木や石などの自然なものが多く使われる。色に関しても、茶色や緑などの自然な色使いが流行している。これに対し「喜びあふれる雰囲気」は、いろいろな模様と色を混ぜ、明るく、遊び心あふれるポップさがあるデザインがポイントだ。デザインで活気や楽しみを表現する。これら3つのトレンドをより感覚的に理解できるように、トレンドごとにショールームが設置された。これに加えて、「持続可能性」が引き続き市場での重要な潮流となっており、展示品には再生利用された材料や、持続可能性がある原料から作られていることをうたった商品が多く見られた。


3つのトレンドの1つ「穏やかな環境」を示すショーケース(ジェトロ撮影)

日本の伝統と革新的なデザインの融合に商機

会期中に行われた「フューチャー・シンカー(Future Thinker)」というプログラムでは、福井県の箸や食器を扱う企業スタイル・オブ・ジャパンがトップ・デザイナー賞を受賞した。このプログラムは、アンビエンテ主催企業のメッセ・フランクフルトとオランダのフォンティース応用科学大学が実施しており、同大学のトレンドの研究者や学生が研究内容を踏まえて出展ブースを独自に選び、来場者にガイドツアーを提供するもので、同時に最もデザインが優れている商品を選定する。選ばれた商品は、同社がドイツ人デザイナーのウルフ・ワーグナー氏とデザインを共同で考案した木材の箸とスプーンがセットになって木箱に入ったものだ。日欧の食文化の違いをもとに、箸文化の日本と、料理によってナイフ、フォーク、スプーンを使い分ける欧州の文化をフュージョンにした革新的なアイデアが注目された。木材を使ったシンプルなデザインがトレンドにふさわしく、足を止めたバイヤーが多かった。


「フューチャー・シンカー」でトップ・デザイナー賞を
受賞した木材の箸とスプーンのセット(ジェトロ撮影)

上述の訪日バイヤーのウェルカー氏も、アンビエンテに足を運ぶ1人だ。「伝統的な技術で作られるモダンな商品は外国人にとって魅力的だ。モダンでありながらも日本らしさが分かる商品は素晴らしいと思う」とコメント、日本の伝統とモダンデザインが融合する商品は欧州市場で評価が高いと話した。

執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
ヴェンケ・リンダート
2017年より、ジェトロ・ベルリン事務所に勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所 ディレクター
油井原 詩菜子(ゆいはら しなこ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部(2011~2013年2月)、ビジネス情報サービス部(2013年3月~2014年9月)、ジェトロ・ウィーン事務所(2014年10月~2015年9月)、ビジネス展開支援部(2015年10月~2017年10月)、海外調査部(2017年7月~2017年10月)を経て現職。