武漢市の2018年GRP成長率は8%(中国)
人材確保が新たな経営課題に

2019年3月1日

武漢市統計局と国家統計局武漢調査チームは1月25日、2018年の武漢市の経済状況を発表した。域内総生産(GRP)成長率は前年比8.0%増となり、中国全体の6.6%を1.4ポイント上回った。GRP総額は1兆4,847億2,900万元(約23兆7,556億6,400万円、1元=約16円)で、湖北省全体のGRP(3兆9,366億5,500万元)の4割近くを占めた。武漢市のGRPが2017年に続き8%に達したことを受けて、武漢市統計局は「新産業への転換が加速し、質の高い経済発展を推進してきた」と述べている。

図:武漢市におけるGRPの推移(2012~2018年)
2012年は前年比11.4%増の8,004億元、2013年は10%増の9,015億元、2014年は9.7%増の1兆69億元、2015年は8.8%増の1兆906億元、2016年は7.8%増の1兆1,913万元、2017年は8%増の1兆3,410億元、2018年は8%増の1兆4,847億元。

出所:武漢市統計年鑑を基にジェトロ作成

戦略性新興産業を中心に投資が増加

産業別に見ると、第三次産業がGRPに占める割合は54.6%で、サービス業が同市最大の産業となった。第二次産業のGRP比は43%で、うち、コンピュータ・通信およびその他電子設備製造業が前年比12.5%増、医薬品製造業が9.4%増、電気機械・器材製造業が7.4%増だった。

投資の面では、戦略性新興産業(注)における投資が24.3%増で、同市投資総額の約3割を占めた。新エネルギー自動車産業の投資は前年比3.6倍、ハイテク技術製造業は56.5%増となった。また、工業技術改革にかかる投資は前年比28.9%増で、うち、エネルギー・環境保護は前年の3.4倍、情報技術製造業は2.4倍、設備製造業にかかる技術改革投資が39.5%増と大幅に増加した。

武漢市の2018年の1人当たりの可処分所得は前年比9%増の4万2,133元となり、初めて4万元を突破した。都市住民に限ると4万7,359元となり、上海市の2014年の可処分所得の水準に達した。

賃金上昇なども依然として経営課題に

武漢市が全国平均を上回るペースで経済成長を遂げているのは、自動車産業を中心に製造業企業の集積が進んでいるためだ。現在、武漢市には地場系、外資系を含め500社を超える自動車関連サプライヤーが集まっている。日系企業も、自動車関連サプライヤーを中心に同市への進出が進み、2010年に80社程度だった武漢日本商工会の会員企業数は、2018年には162社にまで増加した(2018年4月時点)。

しかし、自動車産業を中心に企業進出が急速に進んだ結果、地場系や外資系企業ともに人材の確保が難しくなってきている。ジェトロが2018年に実施した進出日系企業実態調査でも、武漢市をはじめ湖北省の日系企業からの経営上の問題点として「人材の採用難」が「従業員の賃金上昇」や「競合相手の台頭」に次ぐ経営課題に浮上した(表参照)。

表:湖北省進出日系企業における経営上の問題点
順位 2017年 2018年
1位 従業員の賃金上昇 従業員の賃金上昇
2位 競合相手の台頭(コスト面で競合) 競合相手の台頭(コスト面で競合)
3位 限界に近づきつつあるコスト削減 人材(技術者)の採用難
(製造業のみ)
4位 主要取引先からの値下げ要請 人材(一般ワーカー) の採用難
(製造業のみ)
5位
(2018年は同率4位)
通関に時間を要する 限界に近づきつつあるコスト削減
(製造業のみ)

出所:ジェトロ進出日系企業実態調査を基に作成

実際に武漢エリアに進出している日系企業(製造業)にヒアリングした結果では、「自動車関連を中心に、ここ数年で一気に工場が増えたため、従業員の採用が難しくなっている」「今後も工場の進出が増えることから、ますます人の採用が難しくなるのではないか」といった声が多かった。

武漢市は大学卒業生の武漢での就職を支援

武漢市には80校以上の大学 (短大を含む)が設置されており、中国で最も大学が多い都市の一つとなっている。その学生数は約120万人に上り、さいたま市の人口に匹敵する。国家重点大学の武漢大学や華中科技大学をはじめ、華中師範大学、武漢理工大学などの有名大学があり、特に理系の学科が有名なのも特徴だ。しかし、これまで武漢市には大学卒業生の就職の受け皿となるような企業が少なく、卒業生の多くが上海市や広州市、深セン市といった沿岸部の大都市に移り、若い人材の流出が続いていた。

武漢市政府は2017年4月に市内で実施される各種就職支援策の実行機関として「武漢市招才局」(以下、招才局)を設立した。招才局は、主要プロジェクトとして「100万人の大学生の定住・創業・就職プロジェクト」と「100万人の大学卒業生Uターンプロジェクト」を推進している。

「100万人の大学生の定住・創業・就職プロジェクト」では、武漢市内の各大学での就職フェアの開催や大学卒業生を対象とした戸籍取得の簡易化、比較的安価な値段での優先的な住宅供給、同市内の企業910社を対象に大学卒業生の最低年俸を設定するといった就職支援策を打ち出している。招才局の発表によると、こうした支援策を受けて2018年に武漢市で就職・起業した大学卒業生は約40万人となり、前年比で3割近く増加した。

「100万人の大学卒業生Uターンプロジェクト」は大学卒業後に沿岸部の大都市に就職した卒業生を対象に、武漢での再就職や投資を呼びかけるもので、大学OB会を活用しながら、技術やノウハウを持った高度人材の獲得にも力を入れている。

製造の現場ではワーカーが不足との声も

しかし、実際こうした政策を通じて武漢市での就職を選択するのは技術者やマネジメントに関わる人材が中心で、武漢市に進出する日系製造企業からは「高度な技術力を持った人材やマネジメント人材以上に、製造の現場で働くワーカーが不足している」といった声も多い。行政側もこうした現場の課題を踏まえ、進出企業のビジネス環境整備を引き続き行っていくことが期待される。


注:
次世代情報技術産業、生命健康産業、スマート製造産業、新素材産業、新エネルギー産業、省エネ・環境保護産業、デジタル・クリエーティブ産業、新エネルギー自動車産業、航空宇宙産業などを指す。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
片小田 廣大(かたおだ こうだい)
2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課(2014~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。