内需の寄与度が5ポイントにとどまった1~3月期の中国のGDP成長率
2019年5月23日
中国の2019年1~3月期(第1四半期)のGDP成長率は前年同期比6.4%であった。2019年の成長率は低下するとの見方が広がる中、前四半期と同率を維持した。しかし、需要項目別寄与度は消費が4.2ポイント、投資が0.8ポイント、純輸出が1.5ポイントで、2018年と比べると内需(消費、投資)の弱さが目を引く。
2019年1~3月期の中国のGDP成長率は前年同期比6.4%であった。政府の目標が2018年の「6.5%前後」から、2019年は「6.0~6.5%」に引き下げられ、2019年の成長率低下を予想する声が多い中、1~3月期については前四半期と同率を維持したが、注目されるのは需要項目別寄与度である。消費が4.2ポイント、投資が0.8ポイント、純輸出が1.5ポイントで、2018年と比べると内需(消費、投資)の弱さが目を引く。内需寄与度でいえば、2018年は7ポイント程度あったのに対し、2019年1~3月期は5ポイント程度に過ぎない。
内需の急減速
内需の関連指標をみると、消費(社会消費品小売総額)は2018年が前年比9.0%増であったのに対し、2019年1~3月期は前年同期比8.3%増と伸びがやや低下した(表1参照)。一方、全国固定資産投資(除く農業農家)は、5.9%増から6.3%増に伸びが高まった。
ここでいうGDP成長率が実質値であるのに対し、社会消費品小売総額も全国固定資産投資も名目値なので、違いがあるのは当然ではあるが、そうだとしても、投資の寄与度が大きく落ち込んだ(2.1→0.8)のに、全国固定資産投資の伸びが高まっている点は意外である。この伸びの高まりは資本財の価格(デフレーター)上昇によるところが大きく、実質では増えなかったということだろうか。
年月 |
GDP 成長率 |
寄与度 | ||
---|---|---|---|---|
消費 | 投資 | 純輸出 | ||
2018年 | 6.6 | 5.0 | 2.1 | ▲ 0.6 |
2018年1~3月 | 6.8 | 5.3 | 2.1 | ▲ 0.6 |
2018年4~6月 | 6.7 | 5.4 | 2.1 | ▲ 0.7 |
2018年7~9月 | 6.5 | 5.0 | 2.1 | ▲ 0.6 |
2018年10~12月 | 6.4 | 4.4 | 2.2 | ▲ 0.3 |
2019年1~3月 | 6.4 | 4.2 | 0.8 | 1.5 |
注:太字部分は当局からのデータ発表がないため、年初来累計の寄与度から計算したもので、参考値。
年月 | 社会消費品小売総額 |
全国固定資産投資 (農業農家を除く) |
---|---|---|
2018年 | 9.0 | 5.9 |
2018年1~3月 | 9.8 | 7.5 |
2018年1~6月 | 9.4 | 6.0 |
2018年1~9月 | 9.3 | 5.4 |
2018年1~12月 | 9.0 | 5.9 |
2019年1~3月 | 8.3 | 6.3 |
資料:中国国家統計局、CEIC
1~3月期の投資動向について、国家統計局の4月18日付のウェブサイトには、「投資の伸びが緩やかに 構造は継続的に最適化へ」と題した彭永涛投資司司長のコメントがある。彭司長は「一連の『投資安定』政策の実施に伴い、全国固定資産投資の伸びは着実に回復している」と述べている。そして、「弱点補強、新たな動力、モデルチェンジ・高度化などの分野の投資が引き続き行われ、投資の構造が引き続き最適化され、供給構造の最適化に対する投資の重要な役割が引き続き目立った」との見方を示した後、表2のデータを紹介している。
項目 | 前年同期比、% | 2018年通年の伸びとの差 | 2019年1~2月期の伸びとの差 |
---|---|---|---|
全国インフラ投資 | 4.4 | 0.6 | |
鉄道運輸業 | 11.0 | ▲ 5.1 | |
道路運輸業 | 10.5 | 2.3 | |
データ通信業 | 35.5 | 32.4 | |
生態保護環境ガバナンス業 | 43.0 | 0.0 | |
社会領域投資 | 14.3 | 2.4 | 4.1 |
教育 | 14.7 | ▲ 0.1 | |
文化体育娯楽業 | 22.7 | 6.6 | |
衛生社会活動 | 3.4 | ▲ 3.1 | |
製造業 | 4.6 | 0.8* | ▲ 1.3 |
ハイテク製造業 | 11.4 | 5.2 | |
医療機器計測器製造業 | 16.9 | ||
電子通信機器設備製造業 | 14.4 | ||
製造業技術改造投資 | 16.9 | 2.0 | |
不動産開発投資 | 11.8 | 0.2 | |
不動産着工面積 | 11.9 | 5.9 | |
分譲住宅(商品房)販売面積 | ▲ 0.9 | 2.7 | |
全国分譲住宅(商品房)在庫面積 | ▲ 9.9 |
(605万平方 メートル減) |
|
民間投資 | 6.4 | ||
社会領域投資 | 26.6 | 9.2 | |
不動産開発投資 | 13.0 | ||
外資企業、香港マカオ台湾企業 | 8.7 | 2.6 | 5.3 |
香港マカオ台湾企業 | 2.8 | ▲ 11.5 | 2.8 |
外資利用 | 17.0 | ▲ 2.7 | |
東部 | 4.3 | 1.0 | |
中部 | 9.6 | 0.2 | |
西部 | 7.8 | 0.2 | |
東北部 | 2.9 | ▲ 2.8 |
注*:2018年1~3月期比
出所:中国国家統計局
さまざまなデータを紹介してはいるが、例えば「全国インフラ投資」は、個々に高い伸びを示すものがあるものの、全体では2018年通年より0.6ポイント高まったに過ぎない。「製造業」にしても、ハイテク関連などは2桁増だが、全体では前年同期比0.8ポイントの上昇にとどまる。さらにいえば、0.8ポイント上昇というのは、2018年通年との比較ではなく前年1~3月期との比較だという。その点、「社会領域投資」は前年同期比14.3%増で2018年通年より2.4ポイント上昇、「外資企業、香港マカオ台湾企業」も8.7%増で同じく2.6ポイント上昇と一定の加速をみている。しかし、金額がないので、全国固定資産投資に対するインパクトが分からない。不動産開発投資は前年同期比11.8%増だが、近年の固定資産投資総額と対比するとその規模は2割弱にとどまる。加速の度合いについての言及はない。また、表の右の列にはコメントにあった2019年1~2月期の伸びと1~3月期の伸びの変化を列挙した。1~2月から1~3月にかけて伸びが高まった項目は多いのだが、この時期は春節があり統計の振れも大きい。
2019年1~3月期はGDP成長率が低下せず、鈍化傾向にあった投資(全国固定資産投資)も持ち直しているということなのだが、成長率が維持されたことより、内需の急ブレーキへの関心の方が勝る。
- 執筆者紹介
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アジア経済研究所新領域研究センター主任調査研究員
箱﨑 大(はこざき だい) - 都市銀行に入行後、日本経済研究センター、銀行系シンクタンク出向、香港駐在エコノミストを経て、2003年にジェトロ入構。北京事務所次長、海外調査部中国北アジア課長を経て2018年より現職。編著に『2020年の中国と日本企業のビジネス戦略』(2015)、『中国経済最前線―対内・対外投資戦略の実態』(2009)がある。