総選挙、モディ首相の地元でBJP完勝(インド)
グジャラート州のビジネス環境改善に向けた取り組みにも追い風
2019年6月17日
インド下院総選挙の結果、インド人民党(BJP)が大勝し、ナレンドラ・モディ首相の続投が決まった。モディ首相の地元である西部グジャラート(GJ)州では、国民会議派(INC)が一部の議席を獲得するとの出口調査結果もあった。しかし、モディ首相の人気や戦略的な地元遊説などが奏功し、BJPが全26議席を獲得して完勝。州都ガンディナガールから立候補したアミット・シャーBJP総裁も圧勝した。同州の選挙結果とビジネスの展望に迫る。
モディ首相人気や戦略的な地元遊説などが奏功
ナレンドラ・モディ首相の地元であるインド西部グジャラート(GJ)州では、26議席をめぐり371人が立候補し、4月23日に投票された。投票率は64.11%と、これまでの最高投票率だった1967年の63.77%を52年ぶりに上回った。そんな中、インド人民党(BJP)が全26議席を獲得。背景として注目すべき点は、(1)有権者のモディ首相支持=BJPへの投票の動き、(2)ジュナガド、スレンドラナガール、アムレリ、アナンドなど、国民会議派(INC)が優勢の地域におけるBJP議席獲得、(3)INCのリーダーシップ不足だ。
今回のGJ州での結果を見ると、モディ首相の地元での人気の高さと、首相続投を望む有権者の声がBJPへの投票に反映された。開票結果を見ると、GJ州では62%の有権者がBJPに投票し、INCの32%を大きく上回った。出口調査によると、有権者の25%はモディ首相(が所属する政党)を理由にBJPに投票したと回答し(同回答の全国平均は17%)、40%は支持政党に、25%は候補者を基準に投票したという。結果、BJPは州内各選挙区で最低12万票、最大68万票の得票差をINC候補者につけて勝利した(表参照)。
選挙区 | 当選者(全てBJP) | 得票数 | 2位(全てINC) | 得票数 | 票差 |
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メーサナ | シャーダベン・パテル | 659,525 | A J パテル | 378,006 | 281,519 |
ガンディナガール | アミット・シャー(BJP総裁) | 894,624 | C.J. チャブダ | 337,610 | 557,014 |
アーメダバード東部 | ハスムク・ソマバイ・パテル | 749,834 | ギータベン・パテル | 315,504 | 434,330 |
アーメダバード西部 | キリトバイ・ ソランキ | 641,622 | ラジュ・パルマール | 320,076 | 321,546 |
スレンドラナガール | マヘンドラバイ・ムンジパラ | 631,844 | ソマバイ・パテル | 354,407 | 277,437 |
ジュナガド | チュウダサマ・ラジェシュバイ・ナランバイ | 547,952 | パンジバイ・ヴァンシュ | 397,767 | 150,185 |
アムレリ | カチャディヤ・ナランバイ・ビカバイ | 529,035 | パレシュ・ダナニ | 327,604 | 201,431 |
アナンド | ミテシュ・パテル | 633,097 | バーラットシン・M・ソランキ | 435,379 | 197,718 |
ナブサリ | C. R. パティル | 972,739 | ダールメシュ・ パテル | 283,071 | 689,668 |
出所:インド選挙管理委員会資料などを基にジェトロ作成
州南西部のジュナガド、州中部のスレンドラナガールでは、2017年の州議会選挙でそれぞれ5議席中4議席をINCが獲得しており、今回の総選挙でもINC優勢との報道があったが、モディ首相の地元での選挙活動により、BJP候補者への投票を後押しする結果となった。選挙期間中、モディ首相はINCの支持基盤が強いとされている地域を中心に、6回の遊説と1回の政治集会を行った(4月10日:州南西部ジュナガド、州南部ソンガド、17日:州北部ヒマットナガール、州中部スレンドラナガール、アナンド、18日:州南西部アムレリ、21日:州北部パタン)。4月17日のアナンド遊説でモディ首相は、2月に発生したカシミール地方での治安部隊に対する自爆攻撃への報復としてインド軍が実施した空爆に触れ、国家安全保障面の実行力をアピールした。さらに、堅調な経済成長や農村地域への電力供給・トイレ設置や女性の社会進出といった過去5年間のBJP政権の成果を強調。INCへの批判なども随所にユーモアを織り交ぜながら語り、そのたびごとに会場に集まった約2万人の支持者から大歓声が上がった。
一方、BJPの戦略的な選挙活動に比べると、INCの同州での選挙活動は精彩に欠けた。有望視されていたINCのパレシュ・ダナニ氏(アムレリ地区)は、同州におけるリーダー的存在だったため、他のINC候補者の応援に奔走し、自身の選挙区での活動が不十分となってしまい敗北した。INC内で州首相候補者を擁立できなかったことも、INCに明確なリーダーがいないと有権者に判断され、票離れにつながった。さらに、GJ州の3大コミュニティーの1つである「タコール」での得票を期待できたはずのアルペシュ・タコール氏が第1回投票前にINCを離党し、同コミュニティーからのINCへの投票数が激減した。
アミット・シャー総裁は圧勝、第2次モディ政権で内務相に就任
州都ガンディナガールから立候補したアミット・シャーBJP総裁は894,624票を獲得し、2位のINC候補とは歴代最多の557,014票差で圧勝した。今回、GJ州で12回以上の遊説を行い、有権者にモディ首相の続投とBJPへの投票を訴えた。前回2014年の総選挙で立候補したBJP重鎮のL.K.アドバニ氏の得票差(483,121票差)を上回り、地元の支持が厚いことを証明した。アミット・シャー総裁は選挙期間中、モディ首相と全国各地を遊説したほか、1億人のBJP党員との意思疎通や、州、地区、村のBJP活動拠点への選挙キャンペーン活動指示など、BJPの組織的な運営に的確に対応するなど、中心的な役割を果たした。こうした取り組みが総選挙でのBJP圧勝に寄与したと内外から評価され、また、前回の総選挙以降、BJP総裁としてモディ首相を支えてきた功績もあり、5月31日に第2次モディ政権での内務相就任が発表された。宣誓式ではモディ首相、ラージナート国防相に続いて宣誓した。これは、シャー内務相が新内閣でモディ首相の右腕としての活躍を期待されている証左ともいえる。シャー内務相は今後、安全保障上の懸念であるカシミール紛争問題への対処などの課題に取り組む予定だ。
ビジネス環境改善策により、GJ州の投資環境改善も加速する見込み
BJPの大勝により、基本的には第1次モディ政権の政策が継続されると考えられる。経済面では、製造業振興策「メーク・イン・インディア」の継続、中小零細企業やスタートアップへの税制優遇などの支援を目標として掲げている(2019年4月12日付ビジネス短信参照)。ビジネス環境改善策の目玉として、世界銀行が示す国別ビジネス環境の指標「Doing Business」で現在の77位から50位以内を目指す方針だ。州レベルでは、2015年からインド商工省傘下の産業・国内取引促進局(DPIIT、旧DIPP)と世界銀行が実施している州別ビジネス環境改善度ランキングを導入し、継続的なビジネス環境改善が行われる仕組みを構築した。2015年はGJ州が1位を獲得したものの、2016年は3位、2017年は他州の評価も高まってきたこともあり5位にとどまった(2018年7月18日付ビジネス短信参照)。州政府は1位奪還を狙うべく、先行事例研究のため州政府高官らが「Doing Business 2019」で1位を獲得したニュージーランドを訪問するなど精力的だ。
選挙後、州政府はスズキやホンダ二輪、マンダル日本企業専用工業団地など、自動車産業を中心とした日系企業が多数進出するマンダル・ベチャラジ特別投資地域(SIR)を優先開発地域に指定し、地域内の道路や電力などのインフラ整備加速を図る方針を明らかにした(6月4日付「タイムズ・オブ・インディア」紙)。ムンバイ~アーメダバード間の高速鉄道事業の入札が開始されるなど(2019年6月11日付地域・分析レポート参照)、両大都市間に位置する同地域のインフラ面での優位性が強化され、さらなる日系企業の進出に好材料がそろう。
こういった背景により、同州への進出機会を検討する日系企業による現地視察はますます増えると予測されており、一層ビジネス環境改善に向けた州政府の新たな政策に注目したい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アーメダバード事務所
丸崎 健仁(まるさき けんじ) - 2010年、ジェトロ入構。ジェトロ・チェンナイ事務所で実務研修(2014年~2015年)、ビジネス展開支援部、企画部海外地域戦略班(南西アジア)を経て、2018年3月よりジェトロ・アーメダバード事務所勤務。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アーメダバード事務所
サンチット・オザ - 2013年9月からジェトロ・アーメダバード事務所勤務。州政府などとの渉外を主に担当、事業・調査の業務補佐。