若い起業家の意欲を支えるルワンダのエコシステム
アフリカ最大級のICT会議(TAS2019)をキガリで開催

2019年6月3日

ルワンダの首都キガリで5月14~16日に、情報通信技術(ICT)分野でアフリカ最大級の会議である第5回「トランスフォーム・アフリカ・サミット2019」(TAS2019)が開催された(2019年5月17日付ビジネス短信参照)。「アフリカにおけるデジタル経済の加速」をテーマに、世界107カ国から政府や民間企業の関係者ら5,631人が集まった。本会議では、政府や民間企業関係者らがアフリカにおけるデジタル経済の促進や、デジタル格差の解消について議論し、併設している国別パビリオンでは各国企業がロボティクスやドローン、VR(拡張現実)などを含むさまざまな分野の技術を展示した。ルワンダのICTスキルの教育市場に注目する英国企業ロボティカルと、ピッチイベントで優勝したスタートアップのイキザミニの2社に、ルワンダでの活動やビジネスモデル、今後の有望分野について話を聞いた(5月16日)。

政府主導でデジタル経済を促進

5月15日に開催された開会セレモニーでは、ルワンダのポール・カガメ大統領、ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領、マリのイブラヒム・ケイタ大統領が、アフリカにおけるデジタル経済の促進について討論を繰り広げた。

左からウフル・ケニヤッタ大統領、ポール・カガメ大統領、
イブラヒム・ケイタ大統領(ジェトロ撮影)

カガメ大統領は、アフリカがデジタル経済の時代に突入したことを述べ、「経済の変革と繁栄には技術の習得が必要不可欠だ」と強調した。また今後は、特にデジタルインフラに投資をしていくことで、より手頃な価格でのネットワークサービスの提供と、インターネットへのアクセス改善を実現していくとした。デジタル化に対応するために、アフリカ諸国が歩調を合わせて協力することを呼び掛けた。ケニアのケニヤッタ大統領は、アフリカにおけるデジタル経済を実現するため、安価なインターネット接続の実現、ビジネスプロセスのデジタル化、政府サービスのデジタル化、イノベーション主導型の起業家精神、デジタルスキルの促進を5つの柱として掲げた。マリのケイタ大統領は、デジタル化への移行に伴い教育やヘルスケアなどへのアクセスなどが可能になり、人々の生活が変化していると述べた。マリにおいても、デジタル経済への変革やインターネットの普及が進み、市場が拡大しているとし、デジタル分野への投資を呼び掛けた。

プログラミング教育ロボットでルワンダのICT人材育成に寄与

パビリオン会場では、各国の企業が自社の商品・技術をアピールした。国別パビリオンには、アフリカからルワンダ、コートジボワール、ケニアの3カ国が出展。現在ルワンダで、南アフリカ共和国を拠点とする大手通信事業会社MTN ルワンダと提携する英国ロボティクス企業のロボティカルは、プログラミング教育ロボットである「マーティー」を展示し、来場者の注目を集めていた。


ロボティカルの社員ら(ジェトロ撮影)

プログラミング教育ロボットのマーティー
(ジェトロ撮影)

マーティ―はプログラミング機能を有するロボットで、9つのコントロールモーターとセンサー、加速度計が搭載されている。ユーザーは楽しみながらコーディングスキル(PythonやScratch、Javaなど)やロボティクスを習得することができる。マーティ―には、教師を対象にしたオンライン教材キットも付属されており、プログラミングや電子工学、ロボティクスを基礎から生徒に教えることができる。すでに世界50カ国以上で販売されており、主に初等・中等教育で導入されている。ルワンダは政府を挙げて、STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)分野の教育を推進しており、本製品が同国のICT人材育成に寄与すると見られる。イベントの最終日に行われた閉会セレモニーでも、ルワンダのポーラ・インガビレICT・イノベーション相がマーティ―について、「すでに多くの学校で導入されている。総合科学技術の重要なツールになるだろう」と紹介した。また、同社のマイルズ・バックス氏はジェトロのインタビューに対し、「日本ではすでにロボットが販売されているため競争が予想されるが、マーティ―のようなプログラミング教育ロボットはまだない。日本の学校で導入される可能性は十分にあると期待している」と、日本での販売にも意欲を示していた。国別パビリオンには、日本もブースを設け、18の企業・団体が出展した。

現地スタートアップを支えるルワンダのエコシステム

同日には、東アフリカのスタートアップによるピッチイベントが開催され、注目を集めた(2019年5月17日付ビジネス短信参照)。優秀賞を受賞したイキザミニの創設者兼最高執行責任者(COO)であるエリーシャ・ムヒギルワ氏に話を聞いた。


東アフリカのスタートアップピッチイベントで優秀賞獲得の
イキザミニのエリーシャ・ムヒギルワ氏(ジェトロ撮影)

ムヒギルワ氏は、出身地ルワンダを拠点に活動している。大学を卒業後、2016年に運転免許試験用のオンライン教材を扱うプラットフォームを構築した。将来はフランス語圏も含む周辺国にも拡大する予定のようだ。ムヒギルワ氏によると、スタートアップにとってルワンダは魅力的な環境だという。例えば、政府はスタートアップ育成のため、会社設立にあたってオフィスの提供や免税制度、インキュベーターとのメンターシップ、多くのスタートアップコンペティション開催などの支援を行っている。同氏に、今後のビジネス展開と有望分野について尋ねたところ、アフリカの教育を受けられない若者のために、プラットフォーム事業を展開したいとのことだった。ルワンダの大学卒業者人口は総人口の7%に限られており、特に地方に住む人々は貧困から抜け出すすべを知らないという。教育プラットフォームに需要がある、と語った。アフリカ域内の今後のスタートアップ市場について話を聞くと、ルワンダは政府の支援のおかげで整備が進んでおり、スタートアップが成功しやすい環境が整っているとし、他のアフリカ諸国もこのようなシステムを採用していけば、大陸全体でより早くデジタル化が加速すると思う、と述べた。

女性のデジタル経済への進出を促進

閉会セレモニーでは、アフリカのデジタル改革の最前線にいる女性をテーマに、ルワンダのジェンダー・家族計画省のソリーン・ナイラハビマナ相やガーナのウスラ・オウスエクフル通信相、国際労働機関(ILO)のアフリカ地域ディレクターであるシンシア・サミュエル・オロンジュオン氏らが、男女間のデジタル格差の問題について議論し、性差に固執しない政策が必要であることを強調した。会場は満員で、女性だけではなく、男性もセッションに聞き入っていた。

セレモニーの最後には、アフリカの15~23才の女性を対象に、STEMを活用してアフリカの課題を解決することを目的としたピッチイベント「Ms.Geek Africa 2019」の優勝者が発表された。15カ国、250人以上の応募者の中から2019年Ms. Geek Africaに選ばれたのは、コンゴ民主共和国出身のジョセフィーヌ・ウワゼ・ンデゼ氏。妊婦の健康状態を観察し、リアルタイムで妊婦の医療情報を救急医療サービスに転送する、ブレスレット型のモバイルプラットフォームを開発した。同氏が主眼を置く社会課題は妊産婦死亡率の減少だという。ンデゼ氏には、賞金300万ルワンダ・フラン(約36万円、1ルワンダ・フラン=約0.12円)と、米国電気電子技術者協会(IEEE)のメンバーシップの権利が授与された。そのほか、ケニアのドローンによる違法密猟監視システムや、セネガルの血液バンクの在庫管理、ドナー(臓器提供者)とのマッチング機能を備えたウェブプラットフォームなどが各種の賞を受賞した。


2019年Ms. Geek Africaのジョセフィーヌ・ウワゼ・ンデゼ氏(ジェトロ撮影)

ルワンダの1人当たりGDPは約800ドルと低いものの、ここ数年、実質GDP成長率は7%を超えて推移し、アフリカ諸国の中でも高い成長を遂げている。現地スタートアップや若い起業家たちの成長への渇望と社会課題解決への意欲からも、今後、ルワンダがICTなどの最新技術を活用してデジタル経済を発展させていくことは明らかだ。さらに同国には、カガメ大統領のリーダーシップを筆頭に、それを支えるエコシステムも整いつつある。今後は民間セクターが主導権を握るビジネス発展が期待される。一方、急速な発展に伴い、不足しているICT分野への教育と関連分野の人材確保、制度整備や資金調達などのニーズが高まってきている。日本企業がこれらを補うことができれば、デジタル経済への移行で勢いを増すルワンダにとって、有望なパートナーとなり得るのではないだろうか。

※本調査は総務省「平成31年度アフリカにおける情報通信・郵便分野の情報収集・調査事業」の一環として実施したもの。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
閔 普鮮(みん ぼそん)
2018年、ジェトロ入構。民間企業勤務を経て、現職。