米国合法大麻業界に大きな変化

2019年1月25日

米国の今後5年間(2019~2023年度)の農業政策などを定めた2018年度改正農業法が2018年12月20日、トランプ大統領の署名を経て成立した(2019年1月7日ビジネス短信参照)。法案には産業用大麻(ヘンプ、注)の大規模栽培を認める条項が含まれており、農業者支援の一環として、ヘンプが農作物保険の対象になるほか、研究開発でも連邦政府の助成金の申請が可能となる。また、連邦法においてヘンプが規制対象物質から外され、違法薬物でなくなるとの内容も含まれている。法案を後押ししてきたミッチ・マコーネル上院多数派院内総務(共和党、ケンタッキー州)は「農業所得が減少し、生産者が苦境にある中、産業用ヘンプは農家の未来にとって明るい材料だ」と述べた。

合法大麻を取り巻く連邦規制の緩和に向けた動きに伴い、米国人消費者の大麻関連商品への関心が高まっている。米国の経済専門家は、同法案の成立が追い風となり、2019年は合法大麻業界が大きく勢いづく年となるとの見解を示している。

地域レベルでも合法化の動き

当該法案の成立よりも前から、州レベルでは大麻の使用を合法化する動きがあり、2018年11月7日時点で、10州(アラスカ、カリフォルニア、コロラド、メーン、マサチューセッツ、ミシガン、ネバダ、オレゴン、バーモント、ワシントン)およびコロンビア特別区(ワシントンDC)において、大麻の医療・嗜好(しこう)目的の使用が合法化されている。ニューヨーク州では、医療目的のみで大麻の使用が認められているが、アンドリュー・クオモ州知事は2018年12月17日、同州における嗜好目的での大麻使用の合法化を2019年に推し進めていく意向を発表した(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版2018年12月17日)。

このような連邦レベルおよび州レベルでの大麻の規制見直しをめぐる動きがある中、米国食品医薬品局(FDA)のスコット・ゴットリーブ長官は「大麻や大麻由来の商品に対する人々の関心が高まっていることは認識している」とし、大麻由来化合物をどのようにして合法化するかなど、効率的な法律の制定に向けた公聴会を計画している、と述べた(CNBC2018年12月20日)。公聴会では、業界の関係者らが、合法大麻商品における個々の経験や課題、また、大麻関連商品の安全性について、意見交換する予定となっている。

ゴットリーブ長官はまた、「大麻や大麻由来化合物を含む商品は、引き続きFDAの要件を満たす必要があるが、州際取引で合法的にそうした商品を扱いたい業者が利用できる経路(pathway)もある」と言及した。FDAは、大麻や大麻由来化合物を含んだ商品を、効率的に販売する合法な経路を築くための措置をとっていく一方で、根拠のない効果を主張する企業を取り締まる方針だという。中には、がんの治癒効果を主張する企業もあり、既にカンナビジール(CBD)製品(後述)を販売する複数の企業に対して、警告書を発行している。

注目される大麻の成分:カンナビジオール(CBD)

大麻には、「カンナビノイド」という100種類以上の薬理活性のある化合物が含まれている。カンナビノイドの主要成分は「デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール」(THC: delta-9 tetrahydrocannabinol)と、「カンナビジオール」(CBD: cannabidiol)の2種類に分けられる。THCとCBDは同じ化学式をもつが、原子の配置が異なる。このわずかな違いが体内に異なる影響を及ぼし、THCはCBDにはない向精神作用を引き起こす。一方、世界保健機関(WHO)などによれば、CBDにおいて向精神作用の効果、依存、乱用の可能性は確認されていないPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.0MB)。現在確認されているCBDの効能には、精神的な不安の緩和、吐き気の抑制、体の痛みや炎症の軽減などがあり、消費者の多くは、CBDによるリラックス効果を求めてCBD入り商品を購入している。

2022年までに19億ドルに達すると見込まれている合法大麻市場

大麻業界に関する調査データなどを提供しているニュー・フロンティア・データ(New Frontier Data)が発行する「ヘンプ・ビジネス・ジャーナル(Hemp Business Journal)」によると、2017年の米国における合法大麻産業の総売上高は約8億2,000万ドルであった。そのうち、CBDを使用した商品は1億9,000万ドル(23%)、大麻由来パーソナルケア製品は1億8,100万ドル(22%)、大麻を応用した工業用品は1億4,400万ドル(18%)、大麻由来食品は1億3,700万ドル(17%)であった(図参照)。大麻由来の食品ではスナック菓子が主流で、工業用品への応用は自動車分野で多くみられた。

図:2017年度のカテゴリー別大麻業界売上高
(総売上高:8億2,000万ドル)
CBDを使用した商品は、1億9,000万ドル(23%)、大麻由来パーソナルケア製品は1億8,100万ドル(22%)、大麻を応用した工業用品は1億4,400万ドル(18%)、大麻由来食品は1億3,700万ドル(17%)、消費者向け繊維製品は、1億500万ドル(13%)、栄養補助食品は、4,500万ドル(5%)、その他消費者向け製品は、1,600万ドル(2%)。

出所:「ヘンプ・ビジネス・ジャーナル(Hemp Business Journal)」

ヘンプ・ビジネス・ジャーナルによれば、2018~2022年の5年間の合法大麻市場全体の年平均成長率は推定14.4%で、2022年までに19億ドル規模に成長すると予測されている。大手食料品スーパーマーケットのホール・フーズ(Whole Foods)は2018年11月15日、「2019年10大食品トレンド」の1つとして、「CBD入り品」を発表した。CBDを使用した食品は、あめやスナック菓子にとどまらず、コーヒー、料理油、茶、ビール、パスタと広範囲に及ぶ。嗜好目的での大麻使用が合法な地域では、大麻入りカクテルを提供するバーも存在する。こうした大麻産業の盛り上がりは、「ゴールドラッシュ」や「グリーンラッシュ」と呼ばれている(小売業界誌「リテイル・リーダー」2018年11月21日)。

産業用ヘンプの大規模栽培を合法化する法案は成立したものの、現時点ではFDAによる規制の変更が行われておらず、また、合法大麻関連商品の製造、販売に関わる規制は州間で異なっている状況がどのように変化するのかも不透明なため、今後の業界をめぐる動きが注目されている。


注:
本法案における、「ヘンプ」という用語は、「大麻(学名Cannabis sativa L.)」の植物および、その植物のいずれかの部位(種子と全ての派生物、抽出物、カンナビノイド、異性体、酸、塩、異性体の塩を含む)であり、成長しているか否かにかかわらず、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(delta-9 tetrahydrocannabinol)の濃度が乾燥重量ベースで0.3%以下であるもの」を指す。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
西條 有香(さいじょう ゆか)
2018年よりジェトロ・ニューヨーク事務所に勤務、米国の食品市場調査を担当。米国における日本産食品の魅力を広めるため現地企業を対象としたセミナー運営にも携わる。日本、マレーシア、カナダ、スウェーデン、フィンランドを経て、現在、米国在住歴5年目。