中・東欧諸国、ポテンシャル生かし市場拡大へ
2019年政治経済展望セミナー(中・東欧編)報告

2019年2月22日

ジェトロは2月1日、在英日本商工会議所の後援により、「2019年政治経済展望セミナー(中・東欧編)」をロンドンで開催した。ウィーン、ブダペスト、ブカレスト、プラハ、ワルシャワのジェトロ事務所長がそれぞれの政治・経済動向や有望な産業について説明した。

堅調な成長続く中・東欧諸国

ウィーンの阿部聡所長は、オーストリアとセルビアやスロベニアなど南東欧諸国を概観し、南東欧諸国のモノづくりの拠点としてのポテンシャルに言及した。マケドニアでは、北マケドニアへの国名変更に関してギリシャと和解する動きがあった。経済面では、2018年は多くの国が3~4%成長し、2020年にかけ堅調な成長が続く見込みだ。スロバキアは自動車中心に輸出が伸び、1人当たりGDPはチェコ並みの水準となっている。各国に日系の製造業が進出しているわけではないが、ドイツ、イタリアの企業は多く、中国も出始めるなどしている。2018年1月に安倍晋三首相がバルトと東欧を訪問した際には、「西バルカン協力イニシアチブ」の下、地域全体への協力を推進することを述べている。一方で、中国の存在感も大きく、インフラや自動車関連の進出が多い。オーストリアでは10年で対中輸出が倍増している。「一帯一路」の下、2017年には中国からスロバキアのプラチスラバまで貨物列車が到着するといった輸送面の接続も見られる。

ブダペストの本田雅英所長は、ハンガリーは第4次フィデス政権の下、国家主権、就労、家族を重視する政策を取っているとした。難民問題で世論の批判を浴びる面があるが、教育に産学が連携したデュアル・エデュケーション・システムを取り入れて技能を培う。政府は、製造業を中心に約80社・団体と戦略的協力協定を結び、政府との直接対話の機会を設けており、日本企業もこれに参加している。経済は2020年まで減速傾向にあるとはいえ、3%成長を維持する見込みだ。

ブカレストの水野桂輔所長は、ルーマニアを「大きなポテンシャルがあるが、生かしきれていない、もったいない国」と評した。政治面では汚職が残るものの、2019年上期はEU議長国を務めるため、責任ある立場で政局の安定化が望まれる。経済面では、都市部と農村部の所得やインフラの格差が拡大している一方で、引き続き内需が高く、GDP成長率(2017年はEUトップの7.0%)を牽引している。また、近年盛んなITスタートアップをはじめ、ルーマニア国民が成功モデルとして米国を思い描くことが多いといった側面も語られた。

チェコでは人手不足に政府対応も

プラハの木村玲子所長は、政治面では、親ロシア・親中国を前面に押し出すミロシュ・ゼマン大統領およびアンドレイ・バビシュ首相の下、隣国ポーランドやハンガリーと並び、反イスラム(難民)の傾向が見えるとした。経済面では、2018年以降は2%台の伸びとなるが、世界経済フォーラムの評価では総合ランキングで29位(旧共産圏では最上位)、またマクロ経済の安定性の項目では全140カ国中トップと高い指標を示した。一方で、国内では人手不足問題が顕在化しており、ウクライナなど外国人労働者の就業手続きの簡素化などを進めると同時に、労働集約型の製造業からファクトリー・オートメーション化や産業の高付加価値化を目指す。

ワルシャワの清水幹彦所長は、経済は概して好調と述べた。与党・法と正義(PiS)はポピュリズム政策の一面もあるが、中小企業からはビジネス環境を考慮して政策を進めるといった見方もされる。経済成長に合わせて労働コストは上昇するものの、国内の失業率は2017年に6.6%と、周辺国と比較すると雇用の余地があり、企業進出の少ない地域もある。また、2018年6月には投資援助法が発効し、企業が進出先で優遇措置を受けやすくなるといったチャンスも生まれている。

その他、有望な産業として、電気自動車(EV)やモノのインターネット(IoT)分野での各国の促進政策や企業動向についても説明された。講演後に行われたパネルディスカッションでは、インフラ整備について中国の「一帯一路」が進む中、アジアと欧州の陸上輸送がつながることで、日本にとっても海上輸送より早い輸送ルートがもたらされる可能性があり、それはビジネスのメリットになり得るとする見解や、今後成長する中・東欧諸国が生産拠点であるとともに、消費市場としても見ることができるようになりつつあることが紹介された。


ディスカッション/Q&Aセッション(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2018年3月から現職。