日本食レストランの展開には3つのポイント(ラオス)
ラオスの日本食市場を探る(2)

2019年5月17日

「ラオスの日本食市場を探る(1)」では、ラオスの日本食レストラン市場のトレンドを紹介した。後編となる本稿では、日本食レストランをラオス国内に展開するための重要なポイントとして、店舗物件探し、食材調達方法、従業員教育の3つを紹介する。

店舗物件探しにラオス人と手を組むのも一手

ラオスの首都ビエンチャンで、優良な店舗物件を見つけるのは容易ではない。大型のホテルやショッピングモールの数が限られており、大半の日本食レストランは路面店として展開している。他方、ラオスでは外国人による土地所有が認められておらず、店舗出店の際は貸店舗物件を選定する必要がある。ただし、貸店舗物件の情報を提供するサイトはほとんどない。そこで、知人の紹介、口コミ、フェイスブックなどを通じて情報を得るのも一手となる。

出店に適した地域を回り、貸店舗物件のオーナーと直接交渉することは必要だ。しかし、日本の「基準地価」や「公示地価」といった、土地取引や物件価格の目安となるような指標がラオスにはないため、賃貸相場が不透明だ。土地・物件オーナーの提示額が実勢相場から乖離(かいり)することがある点には注意が必要だ。この点、ラオス企業とパートナーシップを組むことは有力な選択肢となる。外食事業は外資100%での進出も可能だが、地場パートナーの保有する土地・物件を借りる、あるいはパートナー企業と組んで物件情報の収集や家賃交渉をすることで、単独出店による負担を軽減することができる。

土地の市場価格が設定されていない点は、有利に働くこともある。タイ系の日本食レストラン「Naoki Japanese Restaurant」は、ビエンチャン中心部のシーホム地区の主要道路から路地を入った場所に店舗を構えている。駐車場スペースがないなど条件は悪いが、集客が見込まれるため、家賃相場は高い地区だ。だが、物件オーナーと知り合いであったことから、破格の家賃で店舗を借りることができたという。同店は、メニュー価格を抑えることで、会社員や銀行員といった中間所得層の集客に成功している。

食材調達方法やメニューに工夫

食材調達方法は、(1)市場での購入、(2)国内の卸業者を通じた買い付け、(3)タイからの買い付けの、主に3つが挙げられる。ビエンチャン市内でレストランを経営している複数の店舗にヒアリングしたところ、野菜は庶民の台所である市場で調達し、肉や魚、調味料などは卸業者から仕入れるケースが多いことが分かった。市場では、ラオス産のみならず、タイなど周辺国産の新鮮な野菜やコメが販売されている。


市場には新鮮な食材が並ぶ(ジェトロ撮影)

近年は、タイの日本食レストランチェーンによるラオス出店が散見されるが、タイ本国で大量調達した食材をラオスに供給する体制があれば、食材調達コストが抑えられる。しかし、ほとんどの店舗はラオス国内で単独展開しており、食材の大量調達は非現実的だ。地元の市場で仕入れることができる食材と、割高な輸入食材を選別しておくことが求められる。

また、調達コストを抑えるために、系列店や近隣の店舗と共同調達するなど工夫している事例や、調達と在庫管理の負担が大きい魚介類を使ったメニュー(すしや刺し身など)を外して、ラオス国内や隣接するタイのノンカイで調達できる食材で提供できる、ラーメンや肉料理(トンカツなど)にメニューを絞る事例も見られる。

スタッフの定着や育成が重要

日本人が経営する日本食レストランは、従業員教育に力を入れることでサービスの質を上げ、他店との差別化を図っている。特に、フロアスタッフは接客経験がない者が多く、基本的な接客マナーから指導しているケースも多い。A社では、日本と同レベルの接客サービスを目指し、勤務中のスマートフォンの利用禁止といった基本的なことから、グラスの置く場所などの細かなマナーに至るまで教えている。「何をするか/してはいけないか」だけでなく、接客サービスの意味まで教えることが育成のコツだ。ちなみに、同レストランのサービスは、SNSの口コミでも好評だ。

調理スタッフについては、日本人経営店の場合、日本人シェフを配置しているレストランが多い。一方、日本食レストランでの調理経験があるタイ人シェフを採用・育成をしているケースや、ラオス人スタッフを育成し、調理スタッフを確保しているケースも見られる。

従業員の勤務管理も重要だ。例えば、ラオスの学生は就業経験がなく、遅刻や無断欠勤、突然の退職などが起きやすい。就業ルールの教育に加えて、従業員が定着するような職場環境づくりが求められる。

日本食と日本産食材の普及に向けてPR

ビエンチャンの日本食レストラン数は約30店舗とされ、このうち日本産食材・飲料品を扱っている店舗は約半数とみられる。ジェトロ・ビエンチャン事務所は2018年秋から、日本産食材を使用・PRしているレストランや小売店を「日本産食材サポーター店」(2019年3月31日時点で9店舗)に認定するなど、日本食・日本産食材の普及に向けたPRを進めてきた。

また、日本産生鮮食材のビジネス需要開拓のために、2019年1月末にはプロモーションイベントを行った。イベントには外食、ホテル、小売店の経営者や食材調達責任者ら20人が参加した。日本人シェフが牛肉、魚介類、野菜、果物合わせて16の日本産食材を調理して、本格的な和食、および和食とラオス料理を掛け合わせた料理として提供した。

ラオス人参加者の興味を引いたのは、和牛、タラバガニ、マグロなど知名度が高い食材だった。同様に、ワサビもラオス人に広く認知されているが、市場に出回っているのは練りワサビ。会場内で流れた本ワサビの映像を見て、練りワサビとは全く違うものであることを知り、驚きの表情を隠せない参加者もいた。他方、日本人参加者からは「白身魚の刺し身は淡泊な味。魚種ごとのわずかな味わいの違いを楽しんでもらうには、少し時間がかかるのではないか」という声が聞かれた。


日本産生鮮食材のPRイベントで提供された刺し身。解凍ではなく、
生鮮の刺身が食べられることに来場者は感動していた(ジェトロ撮影)

ラオスでは日本食への人気は高まってきているが、本場の味を知っている消費者は限られている。日本産食材を用いた、本格的な日本食をラオスで普及するためには、日本産食材の特徴や調理方法を分かりやすく紹介、PRしていく必要がある。

ラオスの日本食市場を探る

  1. タイのトレンドを追い風に日本食市場が拡大(ラオス)
  2. 日本食レストランの展開には3つのポイント(ラオス)
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山口 あづ希(やまぐち あづき)
2015年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課(2015~2018年)を経て現職。