フィリピンのヘルスケア市場、日本企業の商機とは
マニラで健康長寿広報展を開催

2019年5月9日

ジェトロは3月9~10日、「健康長寿」に関わる製品やサービスを紹介し、フィリピンでの商機の創出を目的とした「健康長寿広報展inマニラ」を開催した。所得水準の向上に伴いライフスタイルが変化するフィリピン。そこに潜む生活習慣病のリスクの解決に、日本製品・サービスはどのように役立つか。出展企業の紹介とともに報告する。

※本稿のほか、ジェトロが2019年2月に発行したヘルシーライフスタイル マニラ版PDFファイル(6.2MB) においても、フィリピンのヘルスケア分野のビジネス情報を紹介している。

健康管理や美容など、40社・団体が出展

ジェトロは3月9~10日にフィリピンのケソン市内の大型ショッピングモールにて「健康長寿広報展inマニラ」を開催した。同広報展は日系企業の健康関連製品やサービスをアジアの現地消費者に紹介することを目的に、2014年以降、ヤンゴン、ホーチミン、バンコク、ハノイ、ジャカルタで開催している。6回目となる今年は、近年の経済成長に伴う食生活の変化などにより、過体重や肥満人口の割合が急増し、将来にわたり健康関連需要の盛り上がりが期待される地であるフィリピンで開催した。

参加企業は5分野に大別され、スポーツウェアや競泳用トレーニング器具などの「スポーツ」、血圧計や体重体組成計などの「健康管理」、キノコやサプリメントなどの「健康食品」、車いすや介護用ベッドなどの「高齢者ケア用品」、美容家電や化粧品などの「美容」に、日本の健康長寿を支えるヘルスケア関連40社・団体が参加した。出展ブースでは各社がサンプル提供、体験イベントなどを行い、興味を持ってもらうような工夫を重ねて製品・サービスをアピールした。また、日本のスポーツの魅力の発信を目的として特設されたステージでは、フリースタイルバスケットやバイシクルモトクロス(BMX)、縄跳びの世界トップクラスの選手によるパフォーマンスのほか、バレーボールやけん玉の体験を実施し、多くの来場者から注目を集めた。

オープニングセレモニーで、ジェトロ・マニラ事務所の石原孝志所長は「フィリピンでは経済成長に伴って人々の食生活が変わり、肥満や糖尿病などの生活習慣病患者が増えつつある。一方で年代を問わず、食事制限や運動に取り組む人も増えてきている。市民の方々には、健康的なライフスタイルを増進し、日本の長寿を支えてきたヘルスケア関連製品・サービスを体験してほしい」と呼びかけた。


パフォーマーとタイアップした商品を展示したタミワ玩具(本社:兵庫県加西市)(ジェトロ撮影)

ライフスタイル変化、生活習慣病が社会課題に

フィリピンの2018年の実質GDP成長率は6.2%と、2012年以降7年連続で6%以上の成長を達成している。人口は2015年に1億人を突破し、東南アジアではインドネシアに次ぐ規模を誇る。注目すべきはその若さだ。国民の中央年齢は23.7歳で、全人口の約6割が30歳未満と、豊富な若年層を抱えている。国連統計によれば、人口ボーナス期(注1)は2062年まで続くとされ、市場の将来性は外資にとって大きな魅力となっている。

図1:フィリピンの人口ピラミッド(単位:万人)
フィリピンの人口ピラミッドは綺麗な富士山型。若者が多く、国民の平均年齢は23.7歳だ。

出所:国連データを基にジェトロ作成

経済成長は、フィリピン国内に大きな変化をもたらしている。2010年ごろから大型ショッピングモールやオフィスビル、中間層向けのコンドミニアムが次々と建設された。所得の向上につれて、街中には自動車やバイクの数が増え、行き交う人々はスマートフォンを持つようになった。好調な経済を表すように、経済開発が進められている。

他方、国民のライフスタイルも変わっていく。食生活は欧米型にシフトし、労働時間の増加にテレビやインターネットの普及が追い打ちをかけ、運動機会が減少した。世界保健機関(WHO)によると、2010年から2016年にかけて、運動不足人口(注2)の割合は15.8%から39.7%へと2倍以上に、また、体重過多(体格指数:BMI≧25)人口の割合は24.3%から27.6%に、同様に肥満(BMI≧30)人口の割合も5.0%から6.4%へと緩やかながらも増加している。現在、生活習慣病は社会課題として問題視されるようになった。フィリピンの死因上位10位(表参照)のうち、虚血性心疾患や高血圧性疾患、糖尿病など生活習慣に起因する死因が多い。

表:フィリピンの死因上位10位(2016年)
順位 死因 千人 比率(%)
第1位 虚血性心疾患 74.1 12.7
第2位 がん 60.5 10.4
第3位 肺炎 57.8 9.9
第4位 脳血管疾患 56.9 9.8
第5位 高血圧性疾患 33.5 5.7
第6位 糖尿病 33.3 5.7
第7位 その他心疾患 28.6 4.9
第8位 肺結核 24.5 4.2
第9位 慢性下気道感染症 24.4 4.2
第10位 泌尿器系疾患 20.0 3.4

出所:フィリピン統計局

こうした状況に対し、ドゥテルテ大統領は国民の健康増進に向けてさまざまな政策を打ち出している。2017 年に公共の場所での喫煙を禁止する大統領令を発令し、また、肥満や糖尿病など生活習慣病の予防を目的として、2018年1月には加糖飲料税を導入。さらに2019年2月、年金制度を強化する社会保障法と国民皆保険(ユニバーサルヘルスケア)法が成立しており、政府による健康対策が講じられている。

フィリピン人の健康増進へ貢献を目指す

公的医療拡充のための法整備は、フィリピンの医療市場にとって追い風だ。ビジネスモニターインターナショナルによると、2017年のフィリピンのヘルスケア市場は155億ドル、医療機器市場は5億ドルだが、2022年にはそれぞれ221億ドル、7.6億ドルに到達すると予想されている。今回の展示会に出展した企業は、拡大基調にあるヘルスケア市場で商機を探っているのだ。

医療機器メーカーのオムロンヘルスケアは「健康管理」分野で出展し、家庭用血圧計や体重体組成計を展示。担当者がフィリピン人医師に聞いたところ、「フィリピン人は野菜をあまり食べず、かつ小腹を満たす際にファストフードなど油の多いものを食べる」傾向にあるという。血圧計で高血圧の重症化を未然に防ぎ、死因トップである心臓病を予防できるようになる。生活習慣病の対策には、身体の状態を把握し生活習慣を改善していくことが不可欠。同社の製品は、一人ひとりが自身の健康状態を把握するのに役立つ。

健康食品・サプリメントの製造販売を手掛ける日系メーカーは、飲みやすく、かつ胃で溶けず腸で溶ける、ビフィズス菌サプリメントのさらなる認知度向上につなげるため出展した。フィリピンでは、油の多い食事でおなかの調子を悪くする人が多く、便通を改善するサプリメントの需要度は高い。「フィリピン人は食の次に健康にお金を使う。フィリピン当局(FDA)のレギュレーションに準じて申請登録をすれば、日本の機能性表示食品も販売は可能」と、同社担当者は語る。既に現地代理店を通してマニラ首都圏での販売を開始しており、富裕層を中心に売れ行きは非常に好調だという。

消費者の美意識の高まりも感じられた。数年前まで、ほとんどの女性は、眉毛を描き淡い色合いの口紅を塗るなどナチュラルメイクだったが、現在のマニラ首都圏では、目鼻・唇を際立たせるようなメイクをしている女性を見かけることが多くなった。実際に、モールには日本を含む外資系プレステージ・ブランドの濃い色合いの口紅や、カールキープなどのアイラッシュ製品、フェイスパック、化粧水、乳液といったスキンケア製品が並んでいる。所得向上につれてフィリピン人女性の美意識が高まっていることから、美容・パーソナルケア市場も拡大基調にある(図2参照)。

図2:美容・パーソナルケア市場規模の推移
フィリピンの美容・パーソナルケア市場は年々拡大を続けており、2022年には2,491億ペソ(約5,000億円)に到達する見込みだ。

出所:ユーロモニターを基にジェトロ作成


美容・健康食品が隣接するコーナーは
多くの人でにぎわっていた(ジェトロ撮影)

ヘアアイロンを体験できるブース。
フィリピン人女性はストレートできれいな
ロングヘア―を好む(ジェトロ撮影)

マニラ首都圏においては、1人当たりGDPが9,000ドルを超えており、日系企業が得意とする高付加価値製品を購入できる所得層も増えている。出展した企業からも「予想以上に所得水準の高い人が多く、ビジネスチャンスを感じた」と、フィリピンの潜在力に期待する声が聞かれた。発展途上のフィリピンだが、逆に言えば、国内市場の伸びしろは大きく、期待が集まっている。


注1:
生産年齢人口(15~64歳)が、従属人口(14歳以下および65歳以上)の2倍以上の状態。
注2:
1週間に穏健運動時間が150分以下、または激甚運動時間75分以下の18歳以上の人口。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。