中央政府、メガフードパーク・スキームで食料廃棄問題にメス(インド)
インド初となる食品加工団地の関係者に聞く

2019年4月26日

インドは、世界最大規模の生産量を誇る農業大国であるものの、流通面の課題や食品加工が広く普及していないことなどを背景に、大量の食料廃棄が問題となっている。これに対し、中央政府は「メガフードパーク・スキーム」を策定し、食品加工団地の開発やバリューチェーンの構築などで解決を図る。南部アンドラ・プラデシュ(以下、AP)州の「スリニ・メガフードパーク」は、同スキームで設立されたインド初の食品加工団地だ。ジェトロ・チェンナイ事務所は、2018年11月21日に同団地の開発業者や入居企業を訪問し、インド初となる食品加工団地の現状を取材した。

食品加工割合を高めて食料廃棄問題の改善を図る

インドは、パパイヤやマンゴー、バナナといった果物の生産量で世界1位、コメや小麦といった穀物は世界2位と、農業の盛んな国として知られている。一方、食料廃棄率は非常に高く、果実では総生産量のうち約3割が廃棄されるなど、インドでは金額にして約9,200億ルピー(約1兆4,720億円、1ルピー=約1.6円)相当の農作物が毎年廃棄されていると言われている。

このような課題に対し、中央政府は食品加工の割合を高めることで改善を図る。国内食品加工産業では、資金力に乏しい中小零細企業が大多数を占め、独力でのインフラ整備が難しいことが課題となっている中、中央政府の食品加工省は、2017年5月に食品加工産業振興政策「PMKSY(Pradhan Mantri Kisan SAMPADA Yojana)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(815KB) 」を発表した。インフラ整備および投資促進に向けたさまざまなスキームやインセンティブを用意し、効率的サプライチェーンの構築によって食品加工の割合を高め、農業従事者の所得向上や雇用機会の拡大などを目指している。

生産から販売までの流通円滑化を目指す

「メガフードパーク・スキーム」は、「PMSKY」の中で掲げられている主要なスキームの1つだ。同スキームでは、コールドチェーンおよび中央加工施設を備えた食品加工団地を中心として、周辺に集出荷場や一次加工施設を整備し、生産から販売までの流通の円滑化を図っている(図1参照)。

図1:メガフードパーク・スキームのモデル
4層の食品の流れをしめしたものであり、 第1層は個人農家やグループ農家、第2層は集出荷場、 第3層は一次加工施設、第4層は中央加工施設を含む食品加工団地となる。 第1層の個人農家から農作物が第2層の集出荷場に集められ、 第3層の一次加工施設に運ばれる。ここで簡易処理がなされて、 第4層は中央加工施設を含む食品加工団地で最終商品へと加工される。 加工された商品は付加価値商品として国内外に、生鮮食品は国内に販売される。

出所:食品加工省「2017年度 年次報告書」を基にジェトロ作成

「メガフードパーク・スキーム」では、個人農家またはグループ農家によって生産された農作物(畜産物や水産物なども対象)が集出荷場へ集められ、一次加工施設へと運ばれる。同施設では、洗浄、乾燥、選別、包装などを基本機能とした簡易的な処理がされる。その後、農作物は食品加工団地内の中央加工施設へと運ばれ、最終商品化に向けた専門的な加工が施される。 食品加工省は、開発主体に対して、土地代などを除いた事業費の50%(北東州などの進出が難しい地域では75%)、最大5億ルピーまで負担する。1団地当たり、30~35社の入居、25億ルピー規模の投資、直接・間接雇用合わせて3万人規模の雇用創出を目指している。なお、団地入居企業に対するインセンティブについては、「PMSKY」の別の政策や各州の誘致政策による。

インド初の食品加工団地、スリニ・メガフードパーク

「メガフードパーク・スキーム」によって、インド国内で初めて設立された食品加工団地が、AP州南部のチットールに位置するスリニ・メガフードパークだ。収容区画は142エーカー(約58万平方メートル)で、分譲価格は1エーカー当たり550万ルピーから800万ルピー。冷凍食品ブランド「スメル(Sumeru)」を展開する地場のイノベーティブ・フード(Innovative Foods Limited)や、即席麺ブランド「ワイワイ(Wai Wai)」を展開するネパールのチャウドリーグループ(Chaudhary Group)など5社が入居しており、契約形態はいずれも99年リースとなっている。


スリニ・メガフードパークの外観(Srini提供)

同団地内には、電力や浄水の供給設備、排水処理設備などの基礎インフラはもちろん、低温貯蔵庫や焼却炉、果物などを熟成させるための室(ムロ)などが整備されている。また中央加工施設では、個別急速冷凍(IQF:Individual Quick Frozen)装置や、ジュース製造のための無菌パルプ製造機、紙パック充填(じゅうてん)機などが整備されており、いずれもレンタル可能となっている(表参照)。

表:スリニ・メガフードパークの概要
開発主体 スリニ・フードパーク(Srini Food Park Pvt., Ltd.)
立地 チェンナイ市内より西へ約150km(直線距離)
用地面積 142エーカー
リース価格 1エーカー当たり550万ルピーから800万ルピー
操業開始 2012年
インフラ 電力容量:5MVA、二重定格電圧変圧器による安定供給可。
水:地下水および周辺湖を利用。軟水化装置による軟水供給可。
道路:国道69号沿いに立地
施設 IQF装置、無菌パルプ製造機、紙パック充填機、低温貯蔵設備、物流倉庫、焼却炉、室(ムロ)、簡易宿泊施設、食堂、会議室、トレーニングセンターなど
入居企業 5社(うち外資1社)
チャウドリーグループ(Chaudhary Group), サム・アグリテック(Sam Agritech), nwp6, イノベーティブ・フード(Innovative Foods Limited), ポダラン・フード・インディア(Podaran Foods India Pvt., Ltd.)

出所:スリニ・メガフードパーク ウェブサイトよりジェトロ作成

戦略的立地と州政府によるインセンティブ

同団地を運営するスリニ・フードパーク(Srini Food Park Pvt., Ltd.(以下、Srini))外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます のアラダダ・ビーレンドラ本部長は「スリニ・メガフードパークの優位性は充実したインフラ・設備環境と戦略的な立地だ」とする。AP州は、マンゴーやトマトといった果実や野菜をはじめ、トウモロコシやコメといった穀物でも国内有数の生産量を誇っている。その中で同団地は、州内に多数の集出荷場のほか、4カ所の一次加工施設を有しており、良質な原材料の調達体制を構築している。また消費面では、150キロメートル圏内にチェンナイ〔人口865万人(2011年国勢調査)〕やベンガルール(852万人)といった主要な消費市場が存在する。物流面でも、3つの国際空港のほか、国内有数の総合港であるチェンナイ港、深海港であるクリシュナパトナム港へのアクセスも良好で、航空・海上輸送ともに適した立地となっている(図2参照)。

図2:スリニ・メガフードパークの立地状況

出所:ジェトロ作成

また、州政府は「食品加工政策2015-20年PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(16.0MB) 」を発表し、食品加工工場の新設にかかる事業費(工場建設、設備費用を含む)の25%、最大5,000万ルピーまで補助するなど、財政的な支援策(注)を打ち出している。また、インセンティブの承認通知から、中小規模工場は1年以内に、大規模工場は2年以内に稼働できるよう工場設立関連の承認手続き迅速化を約束している。同氏は「電気代の還付やさまざまな税制優遇措置など、州首相自らが旗振り役となって、投資環境を整備し、食品加工産業の投資誘致に取り組んでいる」とした。

入居企業は州政府の対応と人材面を評価

スリニ・メガフードパークに入居するイノベーティブ・フードは、1989年に創業したインドの大手加工食品メーカーで、冷凍食品ブランド「スメル(Sumeru)」を中心にインド国内のみならず、米国や英国、日本など10カ国以上に販売網を持つ。南部ケララ州コチの工場を拠点に、マクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンといった外資系ファストフードチェーンなどに冷凍食品を供給してきた。同団地には、2018年4月から約2億ルピーを投じて、1.25エーカー(約5,000平方メートル)の敷地内に、同社2拠点目となる冷凍食品工場を設立した。インドの日常食であるパロッタやサモサなど、ベジタリアン向け食品を製造している。

東にはチェンナイ、チェンナイ港、クリシュナパトナム港、西にはベンガルールが位置する。
スリニ・メガフードパークに入居するイノベーティブの外観(Srini提供)

イノベーティブのビーランジャネユール人事部長は、同団地の選定要因として、「AP州政府の迅速で丁寧な対応があった」とした。続けて「許認可取得から工場稼働までわずか9カ月で済んだ」とし、州政府が取り組む承認手続きの迅速化の取り組みを高く評価した。また、同氏は人材雇用の面にも言及し、「団地周辺には、一定のスキルを持った人材が豊富であるほか、他都市と比較し、同地域では労働組合組成の動きがほぼ見られず、労務リスクを回避できる点も魅力だ」と述べた。

団地内未開発区画の整備が進行中

同団地内には今後、ケチャップなどの調味料を製造する企業や、食品廃棄物を飼料に加工する企業などが入居する予定になっている。Sriniのビーレンドラ氏は「地場、外資ともに入居検討企業が継続的に視察に訪れている」とし、盛んな引き合いに応じるため、団地内の未開発区画の整備を進めているという。

「メガフードパーク・スキーム」では現在、インド全土で42件のプロジェクトが進行中だ。そのうち17の団地は操業を開始し、残り25の団地は建設中もしくは計画段階にあり(2019年3月11日時点)、食品加工産業の振興に向けてインドにおけるインフラ整備が進みつつある。


注:
AP州政府による食品加工工場向け補助金は、中央政府によるインセンティブを受けていない場合に限り、交付される。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
榎堀 秀耶(えのきぼり しゅうや)
2016年、ジェトロ入構。サービス産業部を経て、2018年5月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
ヴィラバブ・ヴィーラ
2011年、ジェトロ入構。現在に至る。