オマーンへの中国の影響力拡大か
一帯一路プロジェクトの進捗状況

2019年5月22日

オマーンでは、「一帯一路」プロジェクトの1つである中国オマーン産業パークが、地政学上でもオマーン政府の戦略上でも重要視されているドゥクム経済特区に隣接して建設されている。オマーン政府の財政が悪化している中で、今後、中国の影響力はどうなるのかが注目される。

中国で開催された「一帯一路」首脳会議(4月25~27日)に、オマーンも出席した。人口450万人と市場規模は小さいが、世界に輸送される石油の3~4割が通過するホルムズ海峡のすぐ外側かつ、インドとアフリカという新興地域の中継地点という戦略的な立地にあるオマーンでは、同国中部のドゥクム経済特区に隣接する中国オマーン産業パークが、一帯一路プロジェクトに位置付けられており、既に建設が着手されている。中国は同パークに107億ドルの投資を表明しており、中国・アラブ万方投资管理有限公司(China-Arab Wanfang Investment Management Company Ltd)の現地法人が開発・運営を担っている。石油化学、化学、建築材、5つ星ホテルなどでの中国企業の進出が予定されているが、2019年4月の視察時には、まだ石碑と一部建築中の建屋が存在するのみだった。

同産業パークが建設中のドゥクムは、オマーン政府が経済特区の建設に力を入れている場所である。経済多様化、均衡ある地域開発、民間育成、雇用創出といった観点から、ドゥクム経済特区は製造業、港湾(ドライドックを含む)、漁業、リファイナリー、観光などをテーマに、シンガポール国土の約3倍に当たる2,000平方キロメートルを開発中であり、企業の進出促進のため、法人税・所得税・関税の免除、100%外資出資可、自国民雇用規制の緩和、ワンストップ窓口と、さまざまなインセンティブを提供している。関係者によると、首都マスカットとドゥクムの間のフライトは連日ほぼ満席であり、ドゥクムにある1万7,000人が利用可能な労働者用住宅施設も満室状態が続き、利用可能者数を2倍にする拡張計画もあるという。その背景に、同特区の核となるプロジェクトである、クウェート国際石油(KPI)とオマーン石油との合弁による石油精製所の建設が2022年の完成に向けて本格化していることがある。同精製所への原油はクウェートからのみならず、オマーンからの供給も予定しており、今後、オマーン国内のパイプライン、貯蔵タンクなどの整備が予定される。オマーン政府とベルギーのアントワープ港湾公社の合弁事業として運営されている港湾施設は、2019年4月現在、多目的ポートとドライドックのみが実質的に稼働しており、今後、RORO船ターミナルやコンテナターミナルなどが追加される予定であり、2020年の本格稼働に向けて工事が進んでいる。

オマーンは原油可採年数が15年と短いにもかかわらず、2018年の財政均衡石油価格はバレル当たり101.1ドルと石油への財政依存が高く、原油価格下落以降は財政状況が悪化し、3大格付け機関はいずれもオマーンを投資不適格級に格付けしている。2016年に中国工商銀行から10億ドルの貸し付けを受けるなど、2017年ごろまでは対中負債が目立っていた。こうした中で、地政学上で重要な立地にあり、政府の重要プロジェクトと位置付けられているドゥクム経済特区において、中国が産業パークを建設することへの警戒も、欧米メディアを中心に見受けられる。オマーンも2018年以降は、中国からの対外借款ではなく国債発行が多くなっていることや、英米との軍事協力が進展していることなどを、オマーンの中国への警戒感の表れと指摘する専門家もいる。しかし、深刻な財政難の中で、ほかに頼れる国がなければ、中長期的には中国の影響力拡大は必至との指摘もあり、オマーンがこれまで掲げてきた政治的中立やバランス外交を維持できるのか、注目が集まっている。

執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山本 和美(やまもと かずみ)
2009年、ジェトロ入構。途上国貿易開発部、大阪本部ビジネス情報提供課等の勤務を経て2015年7月より現職。